第45話 Fランクのカード集め2
おはようございますタイシです。
街道にある休憩用の広場でのお泊まりも、特に問題はなく朝になりました。
王都に近く兵士の巡回とかも頻繁にあるので、野盗とかは湧き辛いらしいです。
とは言ってもまったく被害がない訳じゃないので、一応順番に見張りをしました。
〈生活魔法〉を使った疑似感知系のある俺と、〈悪意感知〉のあるグリーンが見張りの班を分かれるべきなのですが。
グリーンが人見知りで倒れそうだったので、何故か俺は見張りのグリーンに膝枕されて寝る事になりました。
そうして問題はまったくなく朝になった訳です。
朝ご飯は昨日焼いてから屋台なんかでもよく使われる大きな葉っぱに包んでおいた串焼きと、ナッツ入り黒パンをモグモグ。
あの大きな葉っぱって、そこら中に生えてて便利だよな。
天然酵母を使ったナッツ入り黒パンは、今やうちのメイン食になっている。
美味しいし栄養素も色々入っていて、まだまだ成長期なこの子らには良いよね。
……。
そして今俺は林の中を皆についていきながら、カード魔物のための装備を作っていて、魔物のトドメや魔石の回収はカード魔物にやって貰っている。
ゴブリンの知能はそこそこだけど、魔石回収くらいは出来るのがいいよね。
今は格が才能限界に至っていないカード魔物だけを召喚していて、才能限界に至ったら送還している。
トドメを刺した時の経験値勿体ないからね、仕方ないね。
……我ながらゲーム脳だなぁとは思う。
そして装備品の話だ。
この世界……というかこの国にはテイムスキルが存在するのに、テイマーギルドなんてのは存在しないそうだ。
だが王国法にテイムした一定以上の戦力がある魔物には、テイムされていると分かるような物を装備させよ、とある。
それ以上の細かい規定はない……ユルユルだね。
なので俺は真っ白い布を使う事にした。
バトルウルフなんかの動物系には首にスカーフのように巻き。
首の定義が難しい奴にも適当に巻いてやり。
ゴブリンには頭を覆うようにしてやる。
真っ白い奇麗な布を装備している魔物なんて、滅多にいないだろうし、これでいいやね。
そして今はゴブリンに体装備を用意している。
その辺の木に巻き付いているツタを剥がして、俺の〈編み物〉〈裁縫〉〈ニット〉等のスキルを使って作った服のような装備だ。
まぁゲーム初期に装備しているような、防御+1とかのゴミ装備と思ってくれていい、それでも装備しないよりましだしな。
後はツタと枝で作ったアームガードやレッグガード擬きを装備させる。
そして武器は、そこらの枝から作った棍棒や、ツタや石と枝を組み合わせた原始的な石斧とかだ。
こんな物でもゴブリンに譲渡すると喜んでくれるんだよね。
ゴブリンは例のごとく少しデフォルメされていて。
リアルだと凶悪な表情で駆逐しないといけない魔物って感じがするが、カードから召喚したゴブリンは格好よくも可愛くもないけれど怖くはないかな? って程度になっていた。
ペット枠は無理だけど、テイムされているって認識されやすそうではあるかなぁ。
昨日の狩りで来た場所より林の奥へと入っていく俺達。
それにつれて魔物の襲撃も多くなっていくが、ただし強い種類の魔物はいない。
王都と農業都市に挟まれてる森というか林だしね。
頻繁に調査も入るので、滅多に強い魔物はいない訳だね、ありがたい。
俺はひたすら装備作り……だってカードがどんどん増えていくんだもの。
〈編み物〉とかのスキル熟練度が上がるからいいんだけど……。
この世界に毛糸玉って売っているだろうか?
売っているのなら今度ニットのカーディガンでも編んで、皆にプレゼントしようかねぇ?
女の子には可愛い奴で、男にはカッコイイ奴にしないとな。
……。
そうしてしばらくたった頃に、林の奥の方でゴブリンが集落を作っているのが見えた。
「どうしますか? Eランクでゴブリンの集落襲撃は推奨されていませんが」
ブルー君が皆に相談を投げかける。
「撤退しましょう、ルートを変えて帰りがけに魔物を倒して終わりにするのが良いと思うわ」
レッドは真面目で堅実な意見を寄越すよね。
「そうもいかないみたいです……気付かれてますねこれ……やるしかなさそうです」
ピンクの意見を聞く頃には、集落からゴブリンが大量に湧き出てくるのが見えた。
遠目に集落を見つけてから三十秒はたってないくらいなのにな。
相手に感知系スキル持ちがいるかもしれない。
「逃げても後ろから追いつかれるな……仕方ないからやるぞ、カード全部召喚!」
俺は格が上がり切って仕舞っていたカード達を全部召喚する。
……あ、いや、進化していないスライム以外全部の間違いだ。
素のスライムは囮にすらならんからな……。
その場でピョンピョン跳ねさせればワンチャン……? いや、ないな。
「私が先頭で押さえる」
グリーンが盾とメイスを構えながら、珍しく皆の前でセリフを吐いた。
かっけぇなぁグリーンさん。
グリーンの左右少し下がり目に配置するレッドとピンク。
そしてその後ろにブルー君が、そこらの石を一生懸命集めてから配置。
俺はさらにその後ろで召喚したカード達の指揮をとる。
「ゴブリン五匹ずつはレッドとピンクのさらに外側で防御優先! 敵に回り込ませるな、ホブゴブリンは残りのゴブリン部隊十五匹を連れて右翼から回り込み、遊撃で相手を削れ! 頼んだよホブゴブリン君」
「ウゴッ!」
そう返事をした〈悪食〉スキル持ちが進化したホブゴブリン君は移動していく。
こちらに近づいてくるゴブリンは、目視できるだけでも五十以上はいる。
しかも一番奥の背の高い個体は……ゴブリンの上位種だろう。
錆びた剣とぼろぼろな革鎧を着ているし、ファイター系のゴブリンかな?
……。
ファイターゴブリンが何か指示を出したのか、全てのゴブリンが走り出し俺達に突っ込んでくる。
「させるかよ、リトルボア五匹、ビックラット二十三匹は全部奴らに突っ込め、戦う必要はないから、あいつらを避けながら駆け抜けろ、あいつらの後ろまで駆け抜けたら回り込んで戻ってこい!」
戦力の低いビックラットでも、正面から大量にくれば足を止めたり殴ろうとするゴブリンも現れる。
足並みが崩せればこちらのもんで、一斉に来ないゴブリンなんてグリーンやレッドやピンクに勝てる訳もない。
遠距離から攻撃出来るブルー君は近づくゴブリン達に石を投げまくっている。
「バトルスパイダー二匹は木に登って上に罠を構築、その後は俺の指示を待て、バトルモモンガ一匹とバトルコウモリ二匹は、相手の頭上を滑空したり飛んで奴らの注意をそらせ、攻撃はするなよ」
相手の頭上を取れるような奴らには、注意をひかせる事に注力させる。
弱いしなあいつら……。
ある程度足並みが崩れたゴブリンだが、ファイターゴブリンの一括で全員が俺達に向かってきた、くそ……あいつは指揮系のスキルを持ってるかもしれない。
だが!
ゴブリンの集団と俺達が接敵する直前。
「角ウサギ三十四匹全部ゴブリン集団に突っ込め! 済まんが最後までその場で戦え! 鋭角ウサギ一匹とバトルウルフ二匹は迂回してファイターゴブリンの足止めに行け」
被害前提の戦術だ。
目的はパーティの皆が怪我しない事で、皆の中にカード達は入れない。
……薄情だと言われても構うものか、俺はこうやって日本でも戦ってきたんだ!
……。
今の所はグリーンたち前衛ラインは奮戦している。
しかし周囲からゴブリンが追加でちょろちょろやって来ているのが面倒で仕方がない。
狩りか警戒で集落から出ていたのか知らんが、って俺達の後ろからも何匹かゴブリンが来た。
くそ、いま残っているのは俺の肩にいるアクアスライム一匹と、バトルスネイクが三匹いるだけだ。
ブルー君もそれに気付いているが、前衛への支援攻撃で手一杯なのか焦っているのが分かる。
「後ろから来たゴブリンは俺がやる、皆は前に集中しろ」
ブルー君は後ろをチラチラ見るのをやめて、前に集中して石を投げ始めた。
信頼してくれてるって良いねぇ。
その時、ゴブリン集団に突っ込ませたビックラットがちらほらと帰ってきた。
「リトルボアは戻ってこなかったか……ビックラットはゴブリンの周りをうろちょろして注意をひけ」
俺に向かって突撃してきたゴブリン三匹の足元で、ビックラットがうろちょろし始める。
鬱陶しかったのか、足を止めてビックラットに攻撃を仕掛けようとするゴブリン。
「今だアクアスライム、バブルショット!」
水が泡になった物がやつらの顔に向けて複数個飛ぶ。
威力はまぁ、水の泡が弾けた時の衝撃が軟式野球のボールをぶつけたくらいか?
つまりそれだけじゃ死なないって事で、でも二匹がまともに顔に食らって倒れたな。
「バトルスネイク、倒れたゴブリンの首に巻き付いて噛みつけ!」
二匹と一匹に分かれたバトルスネイクがゴブリンに噛みついていく。
残ったゴブリン一匹が俺に向かってくるが、一匹だけじゃな。
「アクアスライム、バブルショット! ビックラットも足にかみつけ」
アクアスライムのバブルショットと、ビックラットでまごついているゴブリンに向かって、ゴブリン用に作っていた石斧を振り下ろす俺。
今の俺に戦闘系スキルはないが、足を止めて足元に注意がいっているゴブリンなら余裕だ。
そして消えていくゴブリン、お、ラッキー。
俺はドロップしたゴブリンカードを拾うと。
「ゴブリン召喚! お前はそこのバトルスネイクが絡みついているゴブリンのトドメを刺したら、あっちの戦いに参加しろ」
今出たカードから召喚したゴブリンに、石斧を渡して追加戦力と為す。
後ろは終わったからと、皆が戦っている方へと振り向いて、ファイターゴブリンを確認すると……くそ!
バトルウルフがもういないし……鋭角ウサギの角が折れている……。
今は鋭角ウサギが攻撃を避ける事に注力している感じだ。
〈脱兎〉スキルは魔力を消費するから、そろそろやばいかもな……。
「鋭角ウサギは一旦後退しろ! バトルコウモリとバトルモモンガはファイターゴブリンに攻撃!」
これも時間稼ぎの特攻だ……。
ファイターゴブリンは顔に向かって飛んでくる魔物達を、うっとうしそうにしながら剣で切り捨てていく。
……あっという間に倒されたバトルモモンガにバトルコウモリ達、だが……。
済まんな、この十数秒を稼いでくれたお前達には感謝する。
「バトルスパイダー、今だ罠を落とせ!」
木を利用し頭上に蜘蛛糸で巣状に作った罠を落とすバトルスパイダー達。
そして粘着質な糸がファイターゴブリンに被さる。
糸には枝や葉っぱが付けてあるので、視界も狭まり動き辛そうだ。
ファイターゴブリンは顔や体についた粘着性の糸や、それについた葉っぱや枝なんかを鬱陶しそうに外そうとしている。
だけどいいのか? さっきまでは距離もあったから余裕で避ける事が出来ていたのかもしれないが、今の位置でそんな事をしていると……。
ほら、ブルー君の投げた石が奴の右目に直撃した。
まぁこうなるよな。
うがぁぁと叫びながら右目を抑え、俺達を怒りの目で見て来るファイターゴブリン。
だがな、周りを見てみろよ、お前の仲間はもういないんだぜ?
右目を潰された事で、怒りを帯びた表情でこちらに向かって来るファイターゴブリンだが、それをグリーンレッドピンクで囲む。
……。
余裕で終わるかと思ったが……彼女達は殺意を持って襲ってくる戦闘系スキル持ちと戦うのは初めてなのだろう、慎重というよりは腰が引けているように感じる。
恐らく〈剣術〉スキル持ちのゴブリンなんだろうなぁ、剣を振った時の風切り音が鋭い。
余裕のある狩りではなく、人型の戦闘スキル持ち相手との殺し合いは初めてだろうし、仕方ないかもな……。
「ホブゴブリン君、残りのゴブリンを率いてそいつを倒せ!」
俺がそう命じるとゴブリン部隊が一斉にファイターゴブリンを攻撃する。
しかし相手は上位種で剣持ちなので、俺が着せた蔓製の服程度ではその攻撃は完全には防げない。
ゴブリンは一匹、また一匹と減っていき、ホブゴブリン君もやばそうだ。
その戦いを見ていたグリーン達は、覚悟を決めたのかファイターゴブリンに攻撃を開始する。
敵の剣をグリーンが盾で受け流し、レッドが大げさな振りでフェイントをしかけ、死角になっている右目の方からピンクが突きを放つ。
戦闘は一瞬で終わった。
まぁ、覚悟を決めればこんなもんだよな、近接戦闘スキル持ちが三人だし。
そして最後に瀕死のファイターゴブリンに、ホブゴブリン君の棍棒の一撃が決まって奴は消えていった……。
そう、消えたのだ! ……すぐにも確認したいが、まずは。
「グリーン、怪我をしている奴らに回復魔法を頼む、それが終わったら……集落は探索するか?」
もうカード戦力はほとんど残っていないし危険は犯したくないが、仲間に意見を聞く事は大事だと思う。
ブルー君達は悩みつつも。
「行きましょう、さすがに魔物側が戦力の出し惜しみをする理由がありませんし、もうゴブリンはいないか逃げたと思います」
「少し休憩してタイシのカードも全部出した状態で行くなら賛成するわ、今すぐ行くのなら反対」
「私はレッドに賛成します、態勢を整えている間に集落にゴブリンの姿が複数見えるようなら逃げましょう」
「ん」
グリーンもホブゴブリン君に回復魔法を掛けながら頷いている。
いやだから君はどの意見に賛成なのさ……。
「了解だ、魔石を抜く作業や使えそうな武器を集めるのは俺のゴブリンにやらせるから、皆は周りを警戒しつつ休憩してくれ」
俺の言葉を聞いた皆は、水を飲みつつ周囲の警戒を始める。
さてと、残っていたゴブリン四匹に魔石の回収を頼み、現状の戦力を確認していく事にする。
生き残ったのが。
アクアスライム一匹
鋭角ウサギ 改め 角折れウサギ 一匹
ホブゴブリン一匹
ゴブリン四匹
バトルスネイク三匹
バトルスパイダー二匹
ビックラット二匹
になる。
はぁぁ……育成途中のスキル持ちバトルウルフとかもいたのに、全部やられちまったか……。
でもまぁ、出し惜しみしている余裕はなかったしな……しょーがねぇか……。
で、新たに出たゴブリンカードが五枚か……グリーン達が倒すとカードにならんから仕方ないな。
全部俺が倒していれば十枚以上は確実だったんだが。
ドロップしていたゴブリンカードは、格が三でカンストしてるやつが三枚もいた……。
この集落の戦力は見た目より高かったのかもな。
野良のゴブリンとかは大体格が一だったのにな、ただし感知系や索敵系のスキル持ちはカードの中にいなかった……残念。
そして最後の一枚は……ファイターゴブリンじゃなくてナイトゴブリンだった。
スキルは〈剣術〉〈鼓舞〉〈悪食〉の三つなので、あの一喝は鼓舞だったのか……味方の士気を上げるスキルだな。
ゴブリン達にバフがかかってたから思ったより手強かったんだなぁ。
おかげで俺の角ウサギ部隊は全滅したからな……。
はぁ……ちなみにナイトゴブリンの格は八で才能限界が十五だった。
ナイトゴブリンの片目が潰せてなかったら、誰かが怪我くらいはしてたかもな。
……いつも適性レベルな敵が出るとは限らないってか、かといってびびってたら何も出来ねぇし、狩場を選ぶバランスが難しいよな。
ちなみに呼び出したナイトゴブリンは目が治っていた。
格はそのままっぽいのにな……。
……。
休憩も終わり準備も整ったので集落へ行く、前に……新規のゴブリンの中で格が低い奴を偵察に向かわせる。
俺達は遠くからそれを眺めていて……集落の中をうろちょろするゴブリン。
何も起きないな……良し、行こうか。
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