第43話 Fランクの説得と金策

 おはようございますタイシです。


 今日で裏庭の掃除も三日目になるし、全部終わりそうでよかったよかった。


 しかしちょっと困った事が……。



「おはよぉタイシぁふぁぁぁぁねむ……」


 頭の位置が俺の腹部分くらいにあり、俺の腰を抱き込み、まだ眠そうなレッドがそう声を掛けてくる。


 ふとももにポヨポヨが当たっています。

 そして俺の左手はグリーンにがっちり掴まれています、そこもポヨポヨしています。

 くぅ……俺の賢者さんが倒れそうだ。


 さらに右手は抱き着いて寝ているピンクの肋骨が当たって痛いです……。


 あれ? 賢者さんがスンっとして立ち直りました、ふぅ危なかった。



 すでに目が覚めていたピンクが、俺をじっとり見ながら挨拶してきた。


「おはようございますタイシさん、何故か私が馬鹿にされる夢を見たのですが、心当たりありませんか?」

 

 知りません。


「はょ」


 グリーンは平常運転だ。


 そう、何故かレッドまで増えているのだ。


 昨日の作業中にピンクから話を聞いて『仲間外れはずるいー』と騒ぎ出したのだ。


 いやそもそも俺の部屋で皆が寝なければいいのだが、聞いてくれないのよこの子達。

 ブルー君は安定のスルーをしていたっけか。


 ……ただまぁ女の子と二人で寝ると聞けば、やばい感じもするが。

 実際の所は年下の女子が三人いるという事なので、エロいというよりは……。


 俺が高校の時のクラスメイトで親族が多い奴がいて、夏休みとかに田舎にそいつの親戚一同で集まると、広い部屋で大量の子供達との雑魚寝をする事になるって話を思い出した。


 レッドからも、狭いベッドに家族ギュウギュウで寝る話とかも聞いているし。

 家族や親戚が多いと、こんな感じなのかなぁと思ってしまった。


 俺の家は家族関係が冷えていて、さらに一人っ子だったし。

 親戚というか分家連中は……ほとんどマウントの取り合いみたいな付き合いが多かったからな……。


 クランメンバーというよりも、妹が三人と弟が一人出来たみたいだと思っているのは……秘密にしとこう、なんか恥ずかしいしな。


 ……。


 ――


 そして朝から始まる裏庭掃除。


 一昨日のお土産の成果なのか少し人数が増えているのよね。

 おかげで作業が進む事進む事、なので今日の午前で終わってしまった。


 俺はいつものごとく調理して子供達にちょっと早いお昼ご飯を食べさせ、報酬とお土産を渡して帰らせた。


 そしてアネゴちゃんだけ残してちょっとお話をする事にする。

 応接室のソファーに対面で座るアネゴちゃんと俺。

 他のメンツは少し離れた椅子に座っている。


「それでなアネゴちゃん、君をうちのクランの使用人として雇いたいんだがどうだろうか?」


 そう、アネゴちゃんは指導力指揮力共に高くて、優しさもある。

 口調はまぁあれだけど……うちは冒険者のクランだし、それくらいのが頼もしい。

 ちなみに彼女の祝福スキルは〈裁縫〉らしく、子供らの服の繕いは得意だと笑いながら言っていた。


 コネのない孤児が〈裁縫〉スキルを持っていても、服飾業界の下働きで搾取されるそうなんだよね……世知辛いね。

 同じ理由で生活系や生産系スキル持ちの孤児達は、先がない状態に嵌っているらしい。


 アネゴちゃんは俺の提案を聞いて、最初は嬉しそうな笑顔を見せたが、すぐに困った表情に戻り。


「すみませんタイシ兄貴……そのお話お断りしやす、ごめんなさい!」


 ガバっと頭を下げるアネゴちゃん。

 ありゃま、断られると思ってなかった。

 俺は申し訳なさそうなアネゴちゃんに問いかける。


「アネゴちゃん、理由を聞いてもいいかい?」


 アネゴちゃんは俺の顔を真っすぐに見つめて答えを返してくる。


「孤児院には予算が増えたので、最近入って来た奴がたくさんいるんです、でもその中には街で悪さをしていた奴もいます、そうしなければ生きていけなかったのは分かるんですが……あたいはそういった奴らの性根を正してやらないといけないんです! そうして胸を張って正道を歩いて行けるように! そんな風に躾と指導をしていってやりたいんです、なので嬉しいお誘いですが……せっかくの申し出なのにタイシ兄貴、申し訳ありやせん!」


 アネゴちゃんは机に頭をぶつけそうな勢いで再度謝ってくる。

 ……良い子だなぁこの子は……。


 むーん、こんな逸材逃したくないが、それにあの指導力……たぶんそのうちそっち系のスキルが現出すると思うのよな、なれば。


「分かった、ならこうしよう、アネゴちゃんにはうちの使用人になって貰う、その上で司祭様の許可を得て、教会に出向という形で孤児院に勤めて貰う」


「タイシ兄貴、それは雇って貰う意味がありやせんが……」


 アネゴちゃんは困惑している。


「勿論ちゃんとした理由はある、アネゴちゃんには将来的に人材スカウトをして貰う、今はまだクランの収入が安定していないから先の話になるけど、孤児院でアネゴちゃんが躾けた性格が良くて才能のある子を、使用人として確保して欲しいんだ、勿論冒険者としてクランメンバー確保なんかも視野に入れる」


「それは……才能のある子だけになりそうな……」


 アネゴちゃんは嬉しそうな悲しそうな声を出す。

 まだ話は終わっていないよアネゴちゃん。


「そうだね、俺は善人じゃないから全てを救う事はしない、でも考えてみてくれ、うちのクランでしっかり仕事をして実績を示したら……もしかして他の商人や団体も孤児を普通に雇ってくれる所も出てくるかもしれない、うちを宣伝広告代わりに使って貰って構わないんだよ?」


 アネゴちゃんの目が少し輝く。


「……あいつらに先があると示せる?」


「可能性の話だけどね、でもそうなると、目先が利く商人が一番先に雇おうとするのがアネゴちゃんになっちゃうんだよ、なので先んじてうちで雇われて欲しいんだ」


 アネゴちゃんは嬉しそうにしつつも、納得のいかない部分もあるようで。


「いや……あたいみたいな口の悪い女をまともな待遇で雇おうとする所が、タイシ兄貴以外にいるとは思えないんだけど……」


 ふーむここで俺が言うよりは……ちらっとブルー君に視線を送る。

 ブルー君はすぐさま察してくれて、椅子から立ち上がると近づいてきてアネゴちゃんに語り掛ける。


「アネゴ姉さん、貴方は自分の価値を知らなすぎる、孤児が何故商人に雇われないのか理解していますか? それは協調性がないからです、自分が自分がと自らの利益しか考えない輩が多すぎて忌避されているのですよ、それなのに貴方が指導している孤児達はどうですか? ……お互いを思い、助け合い、懸命に仕事をしている……正直元商人跡取りの僕からしたら、驚愕以外の何物でもなかった、つまり貴方は金の価値がある素晴らしい女性なのです、だからきちんとタイシさんにはそれ相応の賃金を要求するべきです、なんてね」


 最後に落ちを付けて、パチリとウインクするブルー君。

 ……さすがだなぁ。


 アネゴちゃんはブルー君の言葉を聞いて……少し顔を赤らめてコクリと頷いていた。

 うんうん納得してくれたようで何よりだ……。


 んん?


 ちなみにアネゴちゃんはもうすぐ十五歳でブルー君達の一歳と半年くらい年上だ。

 ふむ……アネゴちゃんは椅子に帰っていくブルー君を見つめている。


 ……ふむ?


 これは……ラヴの匂いがする!


 これはもう絶対逃がせないな!

 ひゃほーい!


「それになアネゴちゃん、これからもあの広い庭だと雑草抜きの依頼はちょくちょく発生すると思うんだが、その時に君がうちの使用人という立場であれば、俺達は外に仕事に行けるんだ、君が教会の人間だと俺達は誰か一人は監督者として残らないといけなくなる、この差はかなり違うんだよな、しかも使用人なら雑用の発注を何処にするかくらいの権限を渡してもいいし、まぁ使う予算や仕事の内容はチェックするけどな、ブルー君が」


 最後に副クランリーダーに丸投げする俺。


「僕がやるんですか?」

 と聞いてくるブルー君。


 そりゃそうだ、アネゴちゃんとのお話は基本的に君に振るからね?

 タイシ、馬に蹴られたくないし。


 さて、俺の説得はこれで終わりだが、目を瞑り黙考しているアネゴちゃんが答えを出すのを待つ。


 しばらくして、くわっと目を見開いたアネゴちゃんは、立ち上がって深々と頭を下げながら。


「分かりました、この×××、タイシ兄貴のお仕事を受けさせてもらいます、孤児達の未来のため、タイシ兄貴が彼らに対する態度を変えない限り、この命を賭けて一生お仕えさせて頂きます、よろしくお願いしますタイシ兄貴!」


 そう宣言するアネゴちゃんだった。


 ……いやさすがに一生ってちょっと重いんですけど……まぁ……いいか。


「よろしく頼むよアネゴちゃん」


「アネゴ姉さんよろしくお願いします」

「よろしく~」

「よろしくお願いします」

「よ」


 ……。


 話も纏まったので早速とばかりに教会に赴き、ハゲ司祭さんからの許可を得た俺は、アネゴちゃんの待遇や賃金等の相談をブルー君に丸投げしてお出かけをする事にした。


 ブルー君にはこの世界での相場でお願いしてあるから、悪いようにはならないだろう。


 そしてピンクとグリーンに夕飯の用意を頼み、俺は遅くなるから待たなくていいよと言っておく。

 レッドは……まぁ裏庭で剣の素振りでもしてたらどうよ?


 彼女らは俺に何しに出かけるのと聞いてくる。


 俺? 俺はちょっとほら金策とか諸々ね……。


 そそくさと行動を始める俺。


 裏庭の雑草の山をまず確認すると、草がかなり減っている。

 その後にはスライムのフン……ではなく土が残っている。

 へぇ、スライムが何か食べると粒子状の土っぽい物を残すのか。


 日本のスライムだとどうだったっけ?

 いや何も残さなかったような……ファンタジーとして気にしなかったけど、今考えると質量的におかしいよなぁあれは。


「送還」


 スライムをカードに戻した。


 するとスキルがある方が格二になっていて、ない方は格一のままだった。


 ふむふむ、スキル使用で経験値を得る考察は当たりかな?

 でも人間の格の上がり方を色々聞くと、生きているだけでも格は上がっていくっぽいんだよなぁ……まだまだ実験しないといけないか。


 色々考えつつ冒険者ギルドに向かう。


 ……。


 ――


 そしていつもの冒険者ギルドに着き、ココの受付に向かう。

 ココは俺の顔を見るとあきれ顔で。


「タイシさん……Fランクがリーダーのクランが誕生したって、ギルド内で噂されてましたよ、しかも本拠地がでっかいお屋敷だとか……いやまぁ公爵様が後ろ盾って事は、偉い人にはもう伝わっているからいいんですが、それを知らない冒険者の中には、妬みで何してくるか分からない人もいるし、気をつけてくださいね?」


 そう注意される、いつも心配かけてすまんねぇココさんや。


 俺は気を付けると言いつつ周囲に遮音を掛けて、ココに〈カード化〉スキルの説明をしながら、スキルのないスライムカードを渡す。


 ココの前世もダンジョンのある現代日本世代なので、それの意味を理解した。


「〈カード化〉ってもしやと思ってましたが、本当にこれの事だとは……世界に衝撃が走りますよこれ」


「取り敢えずそれを公爵様に使い方と共に売ってきてくれねえか? んでこれから先、俺がカードを売る場合のルールや法律の準備をよろしくって頼んでおいて?」


 ココは可哀想な誰かを思うような表情で。


「まじですかタイシさん……公爵様すごい驚くだろうなぁ……まぁ了解です、それとタイシさんは早くEランクになりましょうよ、少し難しい依頼とか受けてくれれば上げられますよ?」


 んー。


「いやまだいいや、確かクランってスタンピードの時にギルドから強制依頼掛けられるよな? リーダーである俺のランクが上がると前線に置かれそうだし、皆や俺が強くなるまでこのままでいいや」


 ココも納得したのか。


「それもそうかもですねー、まぁそれだけ聞くとデメリットに思えるクランなんですが、クラン限定の美味しい依頼とかもあるので痛し痒しですけどね、話は以上ですか?」


「いやまだだ、確か冒険者ギルドでスキルオーブの販売もしてたよな?」


「ええ、スキルオーブの販売は商業ギルドと提携してますので、特殊な物は別として基本的な物はだいたい扱っていますね、値段は相場で変動しますけど……底値で買うのが私の趣味です!」


 タイムセール好きの主婦か何かかな?


「それで、今の俺の資金で買える物が何かないかなと思ってさ」

「成程、ふふ、この私が相談に乗りましょうとも」


 俺は自分の資金と要望をココに伝えていく。


 ……。


 ……。


 ――


 スキルオーブも購入できた今、俺の財布は軽くなっている。

 だがしかし公爵様にカードがいくらかで売れるだろう。


 そしてスキルオーブ購入の相談中に、ココにお裾分けしたナッツ入り天然酵母黒パンも公爵様に報告するって怒られた……。


 酒じゃないんだし怒る事なくない?

 って言ったらココにアイアンクローされた。


 ココの握力が凄かったです……ゴリラかな?


 ……でも公爵様の所で食べたパンも酵母を使っていたと思うし、大丈夫だと思うんだけどなぁ? 何が違うっていうのやら。


 ……。


 ――


 そうして残り少ない資金を元に、今俺は〈スキップ〉しながらある場所へと向かっている。


 そう……賢者への転職だ!


 いやほら、ピンクには悪いけど彼女らは妹みたいに思えてきちゃっててさ。

 万が一にも屋敷の中で賢者さんが倒れちゃうとね……困るでしょ?


 そのために見習い宿舎の教官に、お勧めの場所を聞いておいたんだからさ。


 ではいざ転職! スキップスキップ~。









 ◇◇◇


 補足


 パンのくだりが分かり辛いかもですが


 タイシが

 日本の八枚切り食パンを食べている人にフランスパンを差し出し

 同じパンだしレシピに価値がないよね? と思っているようなものだと思ってください

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