第3話 リーリエ
小さい頃は何も分からなかった。何かが違うと思っていたが、何が違うのかはモヤモヤしているばかりで…何もかもがしっくり来なかった。
わがままを言ってみんな(家族)を困らせているのはわかってた。2つ上なだけのおにいさまは困った様な顔でいつも一緒にいてくれた。だけどそれも何だかちがうと思ってた。
気づいたのはまたわがままを言って作ってもらった氷菓子を食べた時だった。
これ、知ってる…
知らないけど知ってる。
「かき氷って一気食いするとキーンってなるよな!」
そんなの知らない。
「今日晴樹の誕生会でさ」
ハルキなんて知らない。
「前にウチに来た横田がさ」
知らない知らない知らない!全部知らない‼︎
あたしはほとんどを病院で過ごしていた。学校も、食事も、寝るのも病院だった。
病院にいるとたくさんの友達ができた。でも、友達はみんな痛いところが無くなると家に帰って行った。なのにあたしだけは帰れなかった。一時退院で『家』に帰れても、そこは落ち着けるあたしの居場所では無かった。
あたしにはおにいちゃんがいたように思う。でも、生まれた時から病院にいるあたしは、彼にとって『妹』だったんだろうか?
たまにおかあさんに連れられてやって来る男の子。おにいちゃんだと言う彼が来ると、おかあさんはあたしが見たことがない顔をする。そしていつもより早くおかあさんは帰ってしまう。あたしだけが居ないあたしの『家』に…
小さい頃にはいつもおかあさんがいてくれた。今になって思えば、おかあさんは病気のあたしの為にできる限りあたしのに居てくれたのだ。おにいちゃんにしてみたらおかあさんはいつも妹の事しか考えていないと思ったのだろう…
たまにくるお兄ちゃんはいろいろな話をしてくれた。でも、あたしには分からない話ばかりだった。お兄ちゃんと帰るお母さんはいつもと違うお母さんに見えた。ニコニコしながら帰る2人を見るのは少し腹がたった。
年齢が上がって兄が来なくなってからの方が楽だと思った。やがて母も一週間に一度から月に数日しか来ないようになっていた。
疲れた顔の両親を見るよりはその方が良かった。
たくさん本を読んだ。難しい本は疲れるからと、薄い、内容のあまり無い本だった。
ある日、1週間ぶりに来た母は、ゲームを置いて行った。パート先のアルバイトの女子高生に、流行りのゲームだと聞いてきたらしい。
ゲームの中では自由に動けた。学校にも行けたし恋もできた。あまり熱心になり過ぎて体調を崩した時には看護師さんに『取り上げるよ‼︎』と怒られた。
それ以降の記憶はない。自分は長く生きなかったのだろう。
そうか。今まで違うと思っていたのはそれだったのか…
長い長い夢から覚めたようだった…
あたしは寝間着のまま、お兄様の部屋に駆け込んだ。まだ肌寒い夜明け前。ぐっすり眠っているお兄様の布団の中に潜り込み、ボロボロとこぼれ落ちるなみだを拭っていたら、お兄様がすこし乱暴に自分の寝間着の袖口であたしの顔を拭ってくれ、そのまま頭をポンポンとすると、あたしはいつの間にか眠っていた…
***
「わ!」
何故かリリーが僕に引っ付いて寝ていた。
「リリ、リリ?どうしたの?急に赤ちゃんになったのかい?」
リーリエは眠そうに目を擦りながらもにっこり笑う。怖い夢でも見たのか、泣いていたようだ。安心させるようにルドルフもとろける様な笑みでリーリエを抱きしめる。
「赤ちゃんなら抱っこしてあげないとね。」
このリーリエの世界は何も違わない。『兄』は『ルドルフ』で、『リーリエ』は『妹』。
ひとりぼっちの『あたし』はもういない。
リーリエもぎゅっと抱きしめ返し、大好きな『兄』に頬擦りをした。
ウチの兄はわたしに関することのみハイスペックです あひる隊長 @ahizou
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。ウチの兄はわたしに関することのみハイスペックですの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます