第38話 共闘
ロッカールームから出た俺は少しあとに出てきた氷室さん、小松さんと合流し、すぐさまダンジョンの中に入った。
当たり前だがいきなり第15層に挑もうということはなく、まずはお互いの戦闘スタイルを確認し、ある程度連携が取れるよう練習にと第九層へ向かう。
第十層では散々痛い目を見たので一つ下げた形だ。
その第九層へ向かう途中はまたお互いのことを知ろうという話になった。
「小松さんのそのダンジョンウェアってどこのメーカーなの?」
なんと、最初に話のタネを持って来たのは俺だった。一世一代の大博打である。
が、小松さんにとっては博打ではなく日常会話の一つなので俺みたいに緊張することなく乗ってくれた。
「私のこれは『ヒノモト鍛冶屋』ってとこのダンジョンウェアだよ。『seeker’s friend』と同じ日本のメーカーでちょっと値は張るけど品質は確かって感じかな」
そう言って小松さんはダンジョンウェアの肩らへんについている刀と刀が重なり合っているロゴを見せてくれた。
以外と言っては失礼にあたるのだが、小松さんが身に纏っているダンジョンウェアは無駄な装飾は不必要だと謂わんばかりに洒落っ気を全く感じさせないシンプルなデザインのもの。だが、そこがまたオシャレに見えてしまうのは小松さんのスタイルがいいからなのか、不自然さは全く感じられない。
「へぇ、確かに良い素材使ってそう…ぱっと見だけど。…俺、装備メーカー『seeker’s friend』しか知らなかったなぁ…」
「ま、冒険者のためのメーカーと言えば『シーカーズフレンド』だからね。…ね?彩芽」
「…そ、そうね」
何故かどもり気味な返事をする氷室さん。
そういえば彼女の着ているダンジョンウェアも『シーカーズフレンド』ではなさそう。かと言って小松さんのものと同じメーカーでもない。
何故なら胸部に子犬が鳴いているかのようなロゴが刻まれていたから。
「なによ…」
俺の視線の先に気づいた氷室さんが胸部を手でさっと隠し睨んでくる。差し詰め「いやらしい目で見てるんじゃないわよ」と言ったところか。
だが悲しきかな。ないものは見れない。勘違いである。
「いや、氷室さんが着ているダンジョンウェアのメーカーは何だろうなぁと思って…後学のために教えてくれたらうれしいんだけど…」
「…そういうことね……いいわよ」
自分の勘違いに気づいた氷室さんは頬を少し赤く染めて、胸部を隠していた腕を退けてから非常に失礼なことを考えていた俺に説明してくれた。
「私のはフランスのメーカー『
「まぁ彩芽は前衛出来ないけどね」
「…悪かったわね」
「……えっと、やっぱりみんな拘りがあるんだね…。俺なんて店員さんのおすすめでいいやって適当に買ってたよ」
「よくわからないならその道のプロに尋ねるのが正解だと思うよ。私は彩芽におすすめされたものを買っただけだからね」
「へぇ…。氷室さん詳しいんだ」
「…親が冒険者関連の仕事をしているからよ」
氷室さんのその一言で話が一旦終了する。
その後、第九層に辿り着くまでは氷室さんと小松さんの話を聞いて俺は「へぇ」とか「そうなんだぁ」しか言えなかった。初めの会話で勇気を振り絞り過ぎたせいである。
◇◇◇
「よし、それじゃあそろそろ前衛後衛の形作ろっか」
「分かったわ」
「了解」
第九層に着いて早々、小松さんの一言で俺は一歩前に出て、氷室さんは後ろに下がった。前衛俺、後衛氷室さん、小松さんの即席パーティの完成だ。
(…おぉ、これがパーティか…。前だけ警戒すればいいってのは楽だな)
憧れていたパーティの形がここにあると思うと何だかワクワクしてしまう。
今になってワクワクしているのは、ここまで来る途中に遭遇した
同級生の女の子二人とダンジョンに潜り、パーティ(仮)を組んで
そんな青春に泥臭い輩が乱入する。
「敵発見、
「分かった」
「分かったわ」
敵との遭遇を事前に察知できる索敵系スキル持ちはこの即席パーティにはいないので、必然的に前衛の俺が最初に
「フゴフゴ!」
「ブヒブヒ!」
「ブヒーーッ!」
豚のような鳴き声、成人の腰ほどの高さの身体、泥で汚れている縞模様の入った体毛。名は『
ドロップアイテムが『小猪の毛皮』ということで昨日は積極的には狩らなかった九等級の
ただ、今日は換券場で
100分の1の確率で500円のマナ石をドロップさせる岩小鬼とは違ってほぼ確定で1000円の『小猪の毛皮』を落とす
「美作、なるべく倒さないように受け止める感じで立ち回って。できれば突進を跳ね返す感じで!」
「了解」
小松さんの指示通り倒すのではなく耐久する、言い換えれば
目的は
「「「ブヒーーッ!」」」
そんな舐めプをかましている三人のもとへ三匹の
「彩芽は両サイドの二体を一瞬でいいから足止めして。殺さないようにね?」
「分かっているわ―――
俺とは別で小松さんの指示を受けた氷室さんが『氷槍』と叫んだ。
急接近してくる
ドンドンッ!!
「「――ブキャッ!!」」
俺の願いを無視するかのように高速で飛ぶ何か―――氷の槍が二体の泥瓜坊の真ん前に突き刺さり、それにぶつかった二体の突進が中断される。
突進を中断されなかった泥瓜坊だけが元気よく「ブキャーーッ」と俺のもとに駆けてくる。
「少し援護させてもらうけど気にしないでいつも通りやってね―――衝撃耐性…
「?…了解」
小松さんに何か言われたが気にしないでとのことなので言うとおり気にせず泥瓜坊を待ち、ぶつかる。
ガキンッ
「…っ……」
「ブガッ!!」
身体全身を駆けまわる瞬間的な衝撃。だが決して怯むほどではない。何なら余裕すらある。
九等級とはいえ、真正面からその突進を受ければ多少の腕の痺れや次の動作に影響を及ぼす反動はあるはずだ。
(小松さんの援護のおかげなのか?)
考え事をしながらも跳ね返せそうと感じた俺は足に力を込め前に一歩進み、両手の武器で思い切り押し返す。
「よいしょッ!!!」
「プギャッ!」
突進後で力が抜けた泥瓜坊は後ろ向きに宙を舞う。
「―――氷槍」
ブスッ「プギッ―――」
そこにとどめの一撃。
再度俺の耳元を通過した氷室さんの氷の槍だ。
「……氷室さん、わざと?」
「出所を見えにくくするためよ、慣れなさい。…次来るわよ」
「…あ、はい」
指摘通り先ほど氷室さんの氷の槍に頭からぶつかっていった二体が時間差でこちらに向かってくるのが見えた。
今は出所見えにくくする必要なくない?と思いながら再び武器を構える。
「「ブヒー!」」
速度は一段階ほど遅くなっている代わりに波状攻撃になっているな。難易度は少し上がったか?
「美作、もう一度お願い」
「了解」
だが、女の子のお願いを断るほど上がっているわけではない。
(先に来るやつを弾いて後に来たやつにぶつけるか…)
ガキンッ
「…っ……」
「ブガッ!!」
「せいッ!」
「プギャッ!」
先に俺のもとへ辿り着いた一体を全力で跳ね返す。
跳ね返された個体は腹を天井に向けながら後方へ。
ゴンッ
「プギャッ」「ピギャッ」
そして後から来た泥瓜坊と頭をごっつんこし、二体同時に倒れ込んだ。
だが、炭化はしていない。つまりは死んではいないということ。
だから俺はしゃがんだ。
「―――氷槍」
氷室さんの声が後ろから聞こえ、しゃがんだまま目線を上にやると二本の氷の槍が高速で飛んでいくのが見えた。
ブスブスッ「「プギッ―――」」
「……」
氷に頭部を貫かれた二体の泥瓜坊が炭化し、ドロップアイテムになっていくのを見ながら氷室さんに問いかける。
「……それ、なんとかならない?」
「ならないわ」
「…さいですか」
小松さんが「今日はもう終わりにしようか」と言う直前の戦闘でようやく耳が慣れました…。
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