第31話 油断大敵
<土属性魔法のスキルボード>
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右上:洞窟型ダンジョンに滞在 2.3/100時間
右下:鉱物系怪物の討伐 6/100体
左下:泥団子を作る 50/1000個
左上:土属性魔法をくらう 7/100回
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「お、もう一時間半も経ってたのか……」
泥団子作り開始から気づけば一時間半が経っていた。
それはもう夢中になって作っていた。
どうやら砂スライムのドロップアイテム『砂』は生前吐いていた粉のような砂ではなく、どちらかと言えば土に近い粘着質な砂だったので、水を少し与えれば簡単に泥団子を作ることが出来た。結構変幻自在にできたりする。
ノルマが求めている泥団子が限りなく球体に近いものだったから丁寧に作っていたら思いのほか時間が経ってしまっていたというわけだ。1000個と聞いて初めは気絶しそうだったが案外イケそうである。
ただ、ここはダンジョン。泥団子を作っている間にも
のっそ、のっそと近寄ってくる砂スライムを憐れみながら水鉄砲で瞬殺したよ。ちなみに倒した
一つしか数が違わないのは一匹から二発目を受けたところで装備が予想以上に砂だらけになっていたことに気が付いたから。二発目は一発目よりも距離が近かったので一発目の倍くらいの砂がかかったのだ。
「50個って切りがいいからひとまず泥団子作りは終いにするか…」
凝り固まった腰を叩きながら考える。
砂スライムを倒すのに防具必要なくね?と。
ただ、何度も言うがここはダンジョン。何が起きるか分からない。
浅い層でも
でも、
「どうしたもんかな~……まぁ、一回他の
だから俺は中間の選択を取った。必要最低限の防具でも危険なく倒せると判断したら、砂スライム狩りは最低限の防具を身に着けて行おう。
逆に最低限の防具では心もとないなと少しでも思えば、防具へのダメージを許容して今のように高級初心者装備を身に着けてスライム狩りを行おう、と。
これは油断などではない。リスク管理の範疇である。
「よし、行くか」
そうと決まれば行動開始だ。
水鉄砲の球である水の予備を入れた水筒を取り出して手を洗う。
若干固まってしまった身体を解しながら次に泥団子作るときは定期的に体操しよう、と決めて、第三層に向け歩き出した。
◇◇◇
「お、発見」
遭遇は突然に。再び歩き始めてから10分くらいで怪物は見つかった。
人間の子供くらいの身長のそれはギャッギャ言いながらこちらに向かって来た。
小鬼である―――。
ただ小鬼といっても『渋谷』で見たような小鬼ではない。
肌は緑ではなく砂っぽい茶色だし、肌の一部は石のようになっていて固そうだ。『渋谷』の小鬼がニキビ面ならこいつらは極度の乾燥肌。
「三匹か……」
小鬼―――
俺は背中から
『岩小鬼は普通の小鬼と一緒で群れているから、遭遇したときは一匹ずつ焦らないで対処するべし!』
要は一対一の状況を三回つくって、鈍器でちまちまやれということだ。
「「「ギャギャッ!!!」」」
岩小鬼が一斉に襲い掛かってきた。
まずはそこまで力を入れなくていいから二匹に打撃をあてて吹き飛ばそう。幸い小鬼頭より何段階も遅いから間に合う。
「ふっ!そいっ!」
「ギャッ!」
「ギョエッ!」
この前の幅広剣と同じくコンパクトにスイングにしたメイスを一匹目、二匹目に命中させ後方に吹き飛ばす。
「え、そんな飛ぶ?…よっと」
「ギャギャッ!?…ギャッ……」
思っていたよりも簡単に吹き飛んでいった二匹の岩小鬼に驚きながらも最後に到着した三匹目が振り下ろした棍棒をぎりぎりで避けて背後に回り、腰から抜いた20万の護身用
「…残り二匹……うおっ!」
ガキンッ
一匹仕留めたと思い、よろよろと立ち上がった二匹に意識を向けた瞬間、後ろから横薙ぎの棍棒が迫ってきていた。
咄嗟にメイスの柄部分でガードする。
「ギャ…ギャ……」
無念。
崩れ落ちる前、俺が致命傷を負わせた岩小鬼の瞳からは憎悪の感情が読み取れた。
「チッ…完全に油断したっ…」
最後の渾身の一撃を俺に防がれ、崩れ落ちた岩小鬼の頭部を
そこでようやく
怪物の生命力は侮れない。
「学ぶことが多いな……」
独り言ちながら先ほど吹っ飛ばした二匹を見ると完全に態勢を整えることが出来ていた。岩小鬼にまんまと時間稼ぎされたわけだ。
「ふぅ、切り替え切り替え。反省会は後でやろ…」
俺は二匹と目線を逸らさないまま腰をかがめ地面に落ちていた拳大の石を手に取る。
一瞬の一対一を作る飛び道具だ。
「ギギ……」
「ギィ…」
あちらさんも俺と同様、先ほどの攻防で油断がなくなったらしい。
俺の出方を伺っているようだった。
「来ないんならこっちから行かせてもらおうか…」
(―――【投擲】)
対小鬼頭でお世話になったスキル――【投擲】で石を二匹のうち右側に立っている岩小鬼に投げつけ、すぐさまダッシュ。俺がもてる最高速度で左側の個体に急接近する。
「ギャッ…!」
右側の岩小鬼は何とか反射的に顔を覆い、石の顔面強打は避けたようだが戦線復帰には多少の時間がかかるだろう。
その時間で左側の一体を叩く。
先ほどよりも強く、早く。
「ふッ…!」
「ギョエッ……!」
振り下ろした
視界の片隅で炭化し始めた岩小鬼を捉え、すぐさま残りの一体の方へ。
「ギャギャッ!!!」
「よっと……そいッ!」
仲間を二体とも狩られたことに対する憤りか、命が潰えることへの恐怖からか大振りになった小鬼の振り下ろしを半身になって躱し、アッパースイングでばごッと頭を吹き飛ばす。
「……っ」
首から上がなくなった岩小鬼は貧弱ではあるがもう一振りしてきた。
ただ、その一振りは俺の身体に届くことなく、岩小鬼は糸が切れた人形のように崩れ落ちた。そして炭化していく。
「…生命力ヤバいな……」
倒した三匹のドロップアイテムを見て回りながら思う。
一瞬の油断が命取りになる。
当たり前のことではあるが、わかっていなかったな、と。
「お、マナ石だ」
油断大敵大敵とぶつぶつ言いながら戦いの跡を見て回ると初めに岩小鬼を倒したところに小指の爪くらいの大きさの不思議な石が転がっていた。
土属性を表しているかのような半透明の茶色―――岩小鬼のマナ石である。
それ以外のドロップアイテムは残念ながら『岩小鬼の石』と呼ばれるただの石。そこらへんに落ちている石と同じで価値がない。
「『
一般的に言われているマナ石のドロップ確率は1%。
実は小鬼頭を倒したときもマナ石がドロップしたらしいので、10体で2個、20%もの確率でマナ石をドロップさせているみたい。ビギナーズラックだろう。もう少し深い層ならよかったのに…。
七等級のマナ石の平均価格は12500円だからな。
やはりお金を稼ぐのならより深い階層がいい。
第二層だと3時間弱で500円と泥団子50個だ。
「はぁ……金稼ぎはそう上手くはいかないってことか…」
別に金稼ぎが目的で冒険者をやっているわけではないのだが、欲しくないわけではない。
あの日、教室で駄弁っていた女子たちはお金を持っている男性に惹かれると言っていた。お金持ち、悪く言えば金蔓の素養は女性を惹きつけるための重要な要素の一つである。
「まぁだからといって無理に深層突撃はしないけどな…」
九等級と八等級であんなに違うんだ。八等級と七等級の間にもそれぐらいの差があると考えた方がいい。八等級一匹に死力を尽くしてようやく一勝だ。
今のままでは七等級になんて敵うわけがない。稼ぐ前に死んでしまう。
拾ったばかりのマナ石をポケットに入れ、四層、五層の地図を頭に叩き込む。
「よし、とりあえず今日は第五層まで行ってから帰るか」
様子見&様々な怪物との戦闘経験をするべく、俺は歩き始めた。
◇◇◇
海が第五層にて
「佐紀!もう少し耐えて!――――
「……っ…!わかってるっ!」
彩芽が放った氷の槍が
がしかし、小鬼たちはそんなの知ったことかと前衛を務める佐紀に押し寄せる。
彩芽や佐紀にとって小鬼とは一匹であれば片手間で倒せるような矮小な存在だが、今は数が多かった。
捌き切れていないのは誰の眼から見ても明らかである。
「ごめん!二体行った!」
捌ききれない個体は当然、後衛の彩芽のもとへ。
「大丈夫!」
これくらいは余裕と二体を即座に氷柱で串刺しに。だが、その一瞬が命取り。
「……っ…魔法来る!」
ボンッ
佐紀が相手する小鬼たちの後方から飛んできた火の玉が小鬼もろとも佐紀に着弾。
「ひゃあっ!」
着弾寸前で後ろに飛んだ佐紀は何とか直撃は免れたものの、爆風に煽られて倒れ込んでしまった。
彩芽が
何とか立ち上がろうとする佐紀。そこに迫るは二体の岩装小鬼と火の玉。
「佐紀ッ!……くっ…今日もダメだった……―――
階層ボス攻略を諦めた彩芽は佐紀を救うため、すべてを塞ぐ氷壁を一瞬で作り出す。これで今日は打ち止めだ。
「「「ギャギャッ!?」」」
「佐紀っ引くわよ…!」
「っ…わかった……ごめん、今日も彩芽の足引っ張った」
「謝らないで…何がダメだったのか反省して次に生かしましょう」
「……前衛スキル持ちがいないのが原因だよ」
「…っ……私たちだけで十分よ…」
彩芽と佐紀は階層ボスの部屋から逃げるようにして出て行く。
「………」
二人の背中を岩壁に馴染みながらソレはじっと見つめていた―――。
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