第14話 新たなスキルボードとスキル
「ねぇねぇ、学校サボったの?」
「なんでそうなるんですか…」
学校が終わり昨日桜子さんからもらったLimeアドレスを使って待ち合わせ。
その後ダンジョンラボについてさぁ、始めるかと服を脱ごうとしたとき、朝陽さんに『サボったの?』と聞かれた。
(なんでそうなるんだ…なんでそんなに楽しそうな顔をしているんだ)
「いや、だって学校から直で来たんでしょ~?なら私服はおかしいかな〜って」
「なんだ、それでか……。昨日言うの忘れてましたけど今日の学校午前で終わったんですよ。一学期の成績確認するためだけに学校行ってたんです」
今は17時だけど学校自体は9時半に終わった。
ただ、あまりにも早すぎると桜子さんに迷惑を掛けてしまうのではと考えた俺は16時くらいまで検定の勉強をして時間を潰していたのだ。
つまりは一度家に帰ったということ。
だから今、俺は私服なのだ。
朝陽さんは俺の姿を見てサボったと勘違いしたらしい。
私服の理由を聞いた朝陽さんは露骨につまらないといった顔をする。
「ふ~ん、つまんないの~」
声にも出した。
「一学期、成績ですか…懐かしいですね。ちなみに海君は成績いいんですか?」
(え、桜子さん、それ聞いちゃいます?)
学校では誰も聞いてくれなかったことを桜子さんが聞いてきてくれた。
別に何とも思ってないですよ風に答える。
「良いと思いますよ」
「すごいですね、すっとその言葉が出てくることが。…あ、そういえば朝陽は高校時代、ずっと学年一位だったんですよ。ね?朝陽」
「ん?まぁね。でも学校の成績とか社会に出てなんも役に立たないから気にするだけ損だよ~カイ君。良い方でも悪い方でもね。…大事なのは結果じゃなくてそこに至るまでの過程だよ……。結果については大人になってから考えればいい」
「……」
(朝陽さんなんでまともなこと言ってるんですか……)
少しだけ自分が恥ずかしくなった。
「さっ、時間がないから始めちゃおっか~……ん?海君どうしたの?早く着替えてよ」
「…あ、はい。すみません」
「多分ですけど、朝陽がまともなことを言ったので驚いているんですよ」
「えー、桜子ちゃんひどーい」
二人の声を聞きながら俺はその場で着替え、スポーツスーツを着る。
床から出てきたスポンジが巻かれた金属に足を引っかけた。
「ふぅぅぅ……よしっ」
集中だ。まずは腹筋300回から―――。
◇◇◇
3時間後―――。
「は~い、あと少しー海君がんば~。どうしたー、昨日みたいな勢いがないぞー」
朝陽さんとが何か言っているけど俺には掠れて聞こえる。
意識が飛びそうだ。
中級ポーションの使用を控えることがこれほどまでにキツイとは思わなかった。
「海君、ポーション使いますか?」
(…いや、いらない)
大変魅力的な提案だが、あと少しだからこれくらいは我慢する。
『始まりのスキルボード』の次も同じようなことが続くのであればこれくらいは堪えないといけない。いつまでも彼女たちがサポートしてくれるとは思わない方がいい。
(そう、あと少しなんだ―――これで……ラストッ!)
【<始まりのスキルボード>】
―――――――――――――――――――
右上:マラソン 100/100㎞ 達成!
右下:腕立て伏せ 10000/10000回 達成!
左下:腹筋 10000/10000回 達成!
左上:スクワット 10000/10000回 達成!
―――――――――――――――――――
報酬
スキルボード 【自己鑑定】
スキル 【身体能力補正】
【筋トレ故障完全耐性】
【筋量・筋密度最適化】
【自然治癒力補正】
――――――――――――――――――――
「よっしゃっ…うおおおぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……!」
『始まりのスキルボード』完全達成の喜びも束の間、腹筋を猛烈な痛みが襲う。
身悶えて床を転がっても解消されない鈍痛。
限界を超えて腹筋をするとこうなるのだったと今更ながらに思い出す。中級ポーションは偉大だったのだ。
「海君これを」
桜子さんから中級ポーションを流し込んでもらう。
するとどうだろうか―――。
あっという間に腹筋を襲っていた鈍痛は引いていき元気を取り戻していくではないか。
なんなら今から腹筋をやりたいと思えるくらいの状態にまでなっていた。
すごいと思う。だがそれ以上に恐ろしいと感じた。
―――ポーションは心までを癒すことが出来ないからね。壊れちゃうよ?
朝陽さんの言葉を思い出す。
強くなるためにポーション頼りのハードワークを強行して、気づいたら心が壊れていました。なんて本末転倒にもほどがある。
(昨日と今日みたいのが当たり前になるとヤバいな…)
頼り過ぎてはいけないと肝に銘じた。
「おつかれー海君。いや~最後は男を見せてもらったね。ポーション代が一本分浮いたよ。…で、どうなった?石板は」
二階から降りてきた朝陽さんに言われて、ハタと気が付く。
(そういえば、石板どうなったんだ?『スキルボード』……)
【スキルボード】は声に出さずとも浮かび出てくると筋トレ中に学んだので、心の中で【スキルボード】と唱える。
「えーっと―――
<自己鑑定のスキルボード>
――――――――――――――――――
鏡で自分を見つめる 0/10時間
――――――――――――――――――
報酬
スキルボード 【???】
スキル 【自己鑑定】
——————————————————
―――あれ?消えた…」
<始まりのスキルボード>は消えていた。くるっと一周見回しても見つからない。
その代わりとして新たな石板一枚が浮かんでいる。
「消えた?スキルボードが?」
「あ、いえ。違くて…いや違くないんですけど…」
「どっち?」
「始まりのスキルボードが消えてその代わりに自己鑑定のスキルボードが出てきました。ノルマは『鏡で自分を見つめる』を10時間ですね……なんじゃこりゃ…」
ナルシストになれっていうのか、おい。
「<始まりのスキルボード>のノルマも面白かったけど、それはそれでまた別方向に面白いね。…で、始まりのスキルボードの報酬スキルは?」
(あれ?そういえば見当たらないな……)
俺の目の前にあるのは<自己鑑定のスキルボード>と命名されている石板だけ。
<始まりのスキルボード>に関わるモノの影はない。
しかし、覚えてはいる。見事なまでの筋トレしようだったため……。
「どこにも浮かんでません。でも身体能力補正、筋トレ故障完全耐性、筋量・筋密度最適化、自然治癒力補正といったスキルが<始まりのスキルボード>の報酬スキル欄に載っていたことだけは覚えています」
「ノルマを達成した直後は<始まりのスキルボード>あったんだ…ふ~ん」
「そういうことですね」
朝陽さんが情報端末に何やらたくさん打ち込んでいる。メモかな?
カタカタカタという音だけが空間に響き、その音がやむと同時に朝陽さんが桜子さんに話しかけていた。
「……桜子ちゃん、自己鑑定と筋量・筋密度最適化っていうスキル聞いたことある?」
「…二つとも、大体の意味は分かりますけど、どちらも聞いたことがありませんね。ただ、自己鑑定はありそうですね…」
え?
「いや、多分ないよ。【鑑定】の存在が大きすぎるから聞いたことがあるように錯覚しているだけさ……うん、ないね。調べてみたけど自己鑑定と筋量・筋密度最適化という名のスキルは存在しない。筋トレ故障完全耐性はなぜかあったけどね…―――海君、見間違いとかはない?」
自慢ではないが俺は記憶力にそこそこの自信がある。加えて報酬スキルはまるで【スキルボード】が俺に対して「お前は筋トレのことを考えていればいい。怪我とかの余計な心配はするな。はは!」とでも言っているかのような組み合わせ。
強烈な意思を感じた。間違えるわけがない。
「―――ないです……」
(ということは……)
頬を赤く染め、うっとりとした目で俺を見ていた。
美人さんなので大変蠱惑的なのだが、残念ながら俺は知ってしまっている。
この表情はあれだ…興味深い研究対象に向けるやつだ。
桜子さんも「うわ…」と朝陽さんの表情を見て引いている。
「―――また新種のスキルだね……。どうして君は私をこんなにも心ときめかせるんだい?」
「……」
知りませんよ…。というか俺が聞きたい。
また新種のスキルかよ、って―――。
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