第22話

起動せよ起きろ、『小烏丸』」

吹き飛ばされた狩人は黒い鞘に入れられた剣を構え、静かにつぶやいた。


コォォォォ!


と、いう音は鞘に納められたままの剣から。

狩人は静かに剣抜き、上段に、真っ直ぐに、掲げた。


烏裂斬うれつざん

ひゅん!


掲げた剣を唐竹割りのように振り下ろした。

それだけで遠く離れた壁や地面に大きな斬り痕ができた。



当然、『剣陣乱打』で満身創痍であったターゲットは回避しきれず風圧を受けて地面を転がった。


「話にゃ聞いたことはあったけど実物見るんわ初めてや。あれが狩人の機構武装かいな」


機構武装---機構、つまりは科学的に作られた武装。動力源として魔力を用いることで武装に損耗がない限り一切の制限を受けずに運用が可能となった、魔法と科学の結晶。

武装の損耗に関しては魔力で部品を強化することでよほどの事がなければ破損することもなくなった。近年になり完成とされた永久に使える白兵戦装備なのだとか。



威力は見ての通り。見えない斬撃を避けることも出来ない。敵にならないことを切に祈ろう。



「ぬ・・・」

元ローブの男が立ち上がる。

満身創痍ではあるものの目には諦めの色はなく、身体中に魔力が満ちている。


そこで気付いたのは、男が魔族であること。

純人間ヒューマンよりも魔力の扱いに秀で、体も頑強だという。見た目としては赤目に耳が尖っていることが特徴とされる。


「闇の炎よ。我が手に集え」

言うや黒い炎が手を焼き始めた。

肉の焦げる臭いが鼻をつく。


かたせ」

再度呟くと炎は長く伸びた。魔族の男の身長を超える長さになると先端が刃のように薄くなる。傍目からは黒い槍のようになった。


っ!


「『嵐の鎧』!」

瞬きをする間に肉薄された!

詠唱もなしで強引に魔力を流して身を守る。


「かぁっ!」

それでも尚、黒槍で凪払われる。

壁に激突し肺の空気を全部吐き出す。


追撃は狩人が抑えてくれていた。

剣と槍が幾重にも振るわれる。

鋼色の剣と光が反射しない槍はどこか幻想的ですらあった。


槍の形になって物質化したようで剣でも合わせることができるようだ。

もっとも、『嵐の鎧』まで使ったわりにこちらのローブは僅かに焦げているけど。



あんさん、大丈夫か!?」

探索者の男が駆け寄ってきた。


「なんとか。しかし、なんとも手が出せない」

「こっちに意識もさいとるはずや。それでもあれだけの腕前とは恐ろしいわ」


狩人はどこか楽しげに剣を振るっていた。魔族の男の腕前が凄まじいことで職業病ともいうべきものが出ているようだ。


狩人は強くなるのが好き。強いやつも好き。


戦闘狂なんて呼ばれもする。


「ぬん!」

ぎぃん!

魔族の男の槍が斬り折られる音がした。

好機とみた狩人は首を刈るように剣をふるおうとする。


が、元は黒い炎でできた槍が折れるのか?その疑問の答えはすぐに目の前で現れた。


「形成せ」

槍の手元部分と斬りとばされた部分が接合し、狩人の背中を斬りつけた。

まるで鞭や蛇かのように。


「ぬぐ・・・!」

謎の奇襲を受けて体勢を崩した狩人に魔族の男は渾身の力で殴りつけた。


「はぁっ!」

残心する頃には、狩人は壁に叩き付けられ意識を失っていた。



「さて、どうしますかね」

魔法使い探求者短剣使い探索者が魔族の男に視線で射抜かれていた。

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