楽園の創造
第62話 エデン
突如上空に現れた人影。
背中には羽のようなものを付けている。
「ここは飛翔禁止エリアに指定されている! 今すぐ降りてきなさい!」
「何故誰も侵入に気付かなかったんだ!?」
警備体制に不備は存在しなかった筈だと慌てている警備員達。
「全世界に告ぐ。私の名はノア。新国家エデンの王だ」
だが、混乱などお構いなしにマスコミの方へ向けて話し出すノアと名乗る男。
翻訳機を付けている為、全員に言葉は伝わっているだろう。
「私がこの場に現れた目的は、世界へ、新国家エデンの誕生を承認させること。実に簡単だろう」
「新国家だと? 国家を誕生させるなど、テロリストに出来る範疇を越えている。大体何処の領土を侵略するつもりだ」
一国が指摘するが、ノアは全く動じない。
「領土など創ればいい。この星には青い場所がありふれているのだからな」
「冗談を言うな。国を誕生させられるだけの土地をどうやって海の上に確保するというのだ」
埋立地で国を誕生させることなど出来る訳が無いと一国は反論するが、
「フッ。今に分かるさ」
彼がノアそう言うと、マスコミの連中が、誰かと連絡を取っている。
「何だって!? それは確かか!?」
「まさか、そんなこと有り得るのか!?」
騒ぎだすマスコミに何事かと思う一同だが、リポーターがカメラに向かって話し出した内容に驚愕する。
「えーただいま入ってきた情報です。衛星からの映像によると、北太平洋、アメリカとニッポンの中心付近に直径約1000キロの土地が突如出現したとのことです」
「1000キロ!?」
途方もない数字に驚く公介。
突然の出来事に、皆理解が追い付かない。
「もう一度宣言する。我々の目的は新国家の承認だ。争いではない。この場所は公海でありどの国のものでも無い筈だ」
「貴様、公海の意味を理解していないようだな。 何処の国にも属さず、自由に使えるから公海なんだ。当然お前のものにもならん」
インドダンジョン指揮官のマックも今回の式典に来ており、反論するが、
「これはあくまでも私達の温情だ。本来なら何処かの土地を奪い取っても良かったのだぞ」
「てめぇ、王様気取るのは近所の公園だけにしとくんだな!」
「そうだそうだ! 今時そんなの流行んねーぞ!」
「道徳の授業からやり直せ!」
丁子のチームも来ており、ノアを挑発している。
「やれやれ、どうやら舐められているようだな。手荒なことはしたくなかったのだが、ここは善良な市民達の血で我々の力を証明させてもらおう」
ノアは収納袋から大量の紙を取り出す。
「ほんの挨拶だ」
彼が紙をばら蒔くと、風によって広範囲に散らばっていく。
「!? まずい」
それが何かに気付き、魔力を全身にコーティングする公介だが、他の者まで守る余裕はなかった。
紙が一瞬で爆弾に変わったからだ。
全方位から聞こえてくる悲鳴。
当たり一面に血と瓦礫が散乱し、悲惨な現場と化す。
「な、なんてことを...」
「きたないぞ! やるなら俺達だけを狙え!」
「この会場には一般の人もいるのよ! こんな攻撃許されないわ!」
マット、トーマス、クロエもノアの行動を強く非難している。
開拓者や一部の実力者達は公介と同じ様に魔力でガードしていたが、明らかにそれ以外の者達を狙った攻撃だ。
「君達優秀なスキル持ちは楽園に選ばれた者だ。殺すのは勿体無い」
ノアの発言と同時にWMデバイスの警備員が襲いかかる。
「まさか紙を爆弾に変えるとはな! 拘束なんて甘い結果で終わると思うなよ!」
「アメリカの土地でよくそんなことが出来たな!」
ただの紙が爆弾に変わるなど思いもよらず、対応が間に合わなかった警備員達はこれ以上の被害を食い止めるべく、ノアを殺害する気だ。
だがノアは一瞬でその場から消え、彼等の武器が当たることはなかった。
「ゴミスキル持ちが。そんな装置に頼って楽園に選ばれたつもりか!」
ノアが警備員の1人の腹を横から蹴ると、まるでだるま落としのように蹴られた部分だけが吹き飛ぶ。
真っ二つになり、崩れ落ちた彼を見て、一気に戦意を喪失する警備員達。
「なっ!?」
「うそ...だろ」
「ああそうだな。うそみたいに脆い」
ノアが次の標的を定め、同じく蹴りを入れようとするが、何者かによって阻止される。
「やり過ぎ」
「ほう。流石は魔法効果上昇スキルだ。まさか止められるとはな」
エマがノアの足を押さえていたからだ。
その隙を狙い、一国が魔力を高密化させた右ストレートを喰らわせる。
ノアは吹っ飛ぶが、殴られた腹に手を当てると、何事も無かったかのように起き上がる。
「まさか治療スキルまで持っているのか」
「これが一国守の攻撃か。鍛治スキル製の手袋無しの打撃でここまでの威力とは」
一国の質問には答えず、自分の腹を確認する。
「だが、私だけに構っている余裕は無いんじゃないか。ほら、もうすぐやってくる」
その言葉で一国が周囲に意識を向けると、複数の魔力の反応がこちらへ向かってきていた。
「モ...モンスターを呼んだのか!?」
どういう理屈かは不明だが、モンスターがこちらへやって来ているのは間違いない。
「クソッ!」
「やばい」
慌てて、モンスターの方へ向かう一国とエマ。
「みなさん、これは公式の放送です! ノアと名乗るテロリストが新国家の承認を要求。現在、会場への無差別攻撃を行っていま...あ、あれは!?」
こんな時でも自分の職務を全うするリポーターだが、そのせいでモンスターの接近に気付かなかった。
「モンスターの大群が押し寄せています! なんで...この辺には爆発やオーバーフローを危惧しているダンジョンはない筈...」
恐怖で素のコメントを出してしまう。
「さて、混乱している隙に、楽園に相応しいスキル持ちを選定しなければ」
上空へ再度飛翔するノア。
モンスターで大混乱に陥り、自分への注意が向いていない内に有用なスキル持ちを見定めようとするが、
「高みの見物か」
ノアがいる上空まで飛翔してきた公介が言い放つ。
一国達が戦っている時に加勢したかったが、真っ二つにされた警備員を治療していた為、遅れてしまった。
公介の治療スキルの熟練度は最大であり、死んでさえいなければどんな怪我も病気も治せることが、鑑定スキルを使い、判明した。
まだ公介以外だれも到達していない熟練度だ。
頭ではなく腹だったことから、直ぐ様治療スキルを使うことで間一髪間に合った。
皆混乱していた為、公介が使ったとはバレていない。
見た時吐きそうになってしまい、目を背けながらながら使用したが、仕方無いだろう。
「見物ではない。選定だ。エデンに、使えないゴミスキル持ちは相応しくないからな」
「でも戦闘向けじゃなくても有用なスキルはあるだろ。これじゃそういった人達まで殺されてしまうぞ」
有用だが、モンスターと戦う力が無いスキル。
治療スキルなどが良い例だ。
そういった者達まで殺されてしまっては意味が無いと指摘するが、
「果てしてそうかな。見てみるがいい」
ノアが指差す方向では警備に守られながら逃げている人が見えた。
「有用なスキル持ちは金も持っている。自分専用の護衛を雇っているのだろう。スキル関係無しに金持ちの可能性もあるが、スキルだけなら鑑定スキルで知ることが出来る」
「お前、鑑定スキルも持ってるのか」
紙を爆弾に変えたり、モンスターを呼び寄せたり、明らかに何らかのスキルを使っている筈だが、鑑定まで行えるとは、まさか自由設定じゃないだろうかと警戒する。
(いや、それなら一国さんの攻撃で吹っ飛ばされることはないか)
自由設定のスキルなら、身体強化や魔法効果上昇スキルで、有り得ない程肉体を強化していても不思議じゃない。
一国に申し訳無いと思いつつも、彼のパンチでダメージを負うことは無いだろうと予想した。
「いいのかな、そんなにぼーっとしてて。こうして楽々と飛んでくるということは君も相当の実力者なのだろう。早くモンスターを倒しに向かった方がいいのではないか。それとも楽園に選ばれてほしいのかい?」
「お前を放置しておく方が危険だろ。それに楽園なんてどうでもいい。今すぐ攻撃を止めさせろ。さもないと」
「さもないと?」
自分も救援に向かいたいが、皆がモンスターと戦っている間、こいつを放置しておくのは危険だと判断した。
「殺しはしないが、俺も死にたくないからな。痛い思いをさせてしまうかもしれない」
「そうかそうか、それは怖い。君も素質がありそうなのだが、妨害するなら殺すしかない」
殺すことを軽く見ている発言だ。
「簡単に人の命を奪う奴が王になんてなれると思うなよ」
戦闘態勢へ入った公介。
「来るがいい。王になる私相手にどこまでやれ...」
最後まで話す前に、魔力で形成された拳がノアの顔面を直撃していた。
「フンッ。なかなか魔力の扱いに長けてるじゃないか」
振り下ろすような拳だった為、吹き飛ばされることは無かったが、反応から察するに効果はあったのだろう。
だが、殴られた箇所に手を当てると、直ぐに腫れが引いていく。
「攻撃を止めさせてくれないか」
「笑わせるな。一度のパンチで私が降伏するとでもおもってい...」
またも最後まで言う前に、魔力で形成された拳でボコボコにする。
だが今度は様子が違う。
顔に手を当て、治すまでは同じだが、1枚の紙を取り出す。
「後悔するがいい」
その瞬間、いきなり紙がミスト状へと変化した。
「なにをするつもりだ!」
体にコーティングしていた魔力をさらに厚くして備えるが、何も起こらない。
「自分の甘さを呪うんだな」
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