第33話 異様な歓迎

 福地から受け取った名刺を確認する公介。

 そこには日本ダンジョン及び開拓者管理協会と記載され、彼の名前と役職が書かれている。


「凄い金ピカな名刺ですね」


「純金ですから。お近づきの印に」


 公介が名刺を見ながら言うと、返ってきた答えはなんと純金製。

 名刺でさえ、こんなに金をかけるとかと驚かされた。


「副会長ってことは2番目に偉いってことですよね」


「そういうことになりますね」


 自分のようなDクラス開拓者に敬語を使うのは、この福地という男が単に礼儀正しいのか、あるいはビジネスの話をしに来たのか。

 恐らく後者だろうと公介は思う。


「それで、今回はどのようなご用件で...というのは聞かなくても何となく察しはつきますけど」


 まず間違いなく、ディジカの角を大量に持ってきたことについてだろう。

 もしかしたらチイチュウの羽の件も含まれているかもしれない。


「話が早くて助かります。どうでしょう、この後の予定が無いのでしたら、私の車で東京まで、お送りいたしますよ」


 何故東京に住んでいることを知っているのかと思ったが、自分の開拓士免許にも当然目は通しているだろうと公介は思い返した。


「そうですね...この辺は新幹線も通ってないですし、お言葉に甘えさせていただきます」


 ナンバー2が直々に来るぐらいだ。

 断ったところで素直に帰してくれるわけがないので了承した。

 それにここで逃げたら、今後ダンジョンへ行きづらくなるというのもある。


「では早速...あ、そうだ、折角ですから我々が運営しているホテルでお食事でもどうでしょう」


 協会は開拓者がダンジョン開拓後に休めるよう、人気のダンジョンや人が多い地域にはホテルも建てている。


 開拓者以外も泊まれるが、開拓者限定の割引プランもある。

 当然東京にもホテルはあり、福地はそこでの食事を誘ってきた。


「あー、それは嬉しいお誘いなんですけど、ディジカの肉が傷んでしまいますので」


 ダンジョン産の食材は魔力を持っている故か、普通の肉よりは腐りにくい。

 しかし家まで数時間かかるのにホテルで食事なんてしてたら、保冷剤を貰っているとはいえ、肉が傷んでしまうかもしれない。


 理由はそれだけではなく、流石にそこまでは付き合えないという公介の意思表示も含まれていた。


「それには心配及びません。私は副会長ですよ。私が一声かければホテルの冷蔵庫を使わせることなど造作もありません」


 車の中でもたっぷり話せる時間はあるのに、どうしてホテルにまで行きたいのか。

 公介にある推測が頭をよぎった。


(そうか、本部の方のホテルに行かせたいんだな)


 東京は日本の中心なだけあって、協会が運営するホテルは2ヶ所ある。

 1つは他の地域と同じようなホテルだが、もう1つは協会の本部に隣接しているホテル。


 庶民はもう1つのホテルに泊まれと言っているかのような価格設定で協会の職員や、開拓者の中でもAAやA、Bクラスなどの高クラス帯の人達が泊まるようなホテルだ。


 もし何か自分と契約を結びたいと考えているのなら、そちらの方が適しているのではないかと思った。


「もしかして、本部の方のホテルですか?」


「はい。私の招待ですから当然お金の心配はなく。まあ、ディジカの角が1本あれば、お釣りが来ますがね」


 皮肉を言われたがあのホテルに無料で招待してくれるなら、確かに行ってみてもいいかもしれない。


「まあ、そこまでおっしゃるなら」


 若さ故の好奇心に駆られた公介は運転手にエスコートされ、後部座席へ座る。

 足元も広く、座り心地も良い。

 流石、純金の名刺を持ってる人は乗る車も豪華だと思い知らされる公介。


「早速本題に、と言いたいところですが、ダンジョン開拓でお疲れでしょう。ホテルに着くまで、車内でおくつろぎになってください」


 魔力が有り余っていることで差程疲れはないが、この乗り心地なら確かにくつろげそうだと思う公介であった。

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