第176話 一般教養を教えよう
176.一般教養を教えよう
「今日は生きていくための一般教養『経済』の授業にしよう。さっき伝えた通りグループに別れてくれ」
さて、孤児たちを受け入れ、生徒がいきなり沢山増えてしまった訳だが、年齢も心身の健康状態もバラバラだった。
正直、授業どころではない孤児たちも多かった。
そこで、一旦ブリギッテ教会にも協力してもらい、半数は孤児として保護してもらう。とりあえず5歳から10歳で、心身の健康状態なども悪くない50名を生徒として受け入れることとした。
そして、10名ずつ、元々の生徒達とグループを組んでもらうことにしたのである。
「質問です。どうして経済の授業なのに、私たちはこんな場所にいるんでしょうか!」
エルフのソラが生真面目に挙手して言った。
「あれ? 言ってなかったか?」
「聞いてないって!」
人族のフィネは容赦なくツッコんだ。
「まぁ、それはともかく。どうして僕たちはこんな」
魔族のレギが周囲を見渡しながら言った。
「森の中にいるんですか?」
「モンスターは出ない場所だから安心してくれ」
「アリアケ先生の授業は普通ではないので油断ならないんですけど」
ドラゴニュートのキュールネ―も肩をすくめた。
「普通の授業しか、したことはないと思うが……」
「我の主様は規格外ゆえ、致し方ないの」
ついてきたフェンリルが笑いながら言った。
承服しかねるが、今はそんなやりとりをするために来ているわけではないので、あえて反論はやめておく。
なお、フェンリルは現在人型である。
白銀の美しい女性であり、孤児たちは最初、狼の姿でないことに驚いたようだったが、孤児たちに優しく語り掛けるフェンリルの仕草のおかげもあって、すぐに慣れたようだ。というか、なつかれ方が尋常ではない。
一度モフらせた者を魅了する魔術でも使っているのかもしれん。
「主様。何か妙なこと考えとらんかえ?」
「いいや?」
俺は微笑みながら首を横に振ると、生徒達へと向き直った。
「では授業を始めよう。机で学ぶのもいいが、実際に体験してみるのが一番早いからな」
「ふむ。というわけで、生徒達よ刮目せよ。本日の授業は……」
彼女はクンクンと鼻を動かして、とことこと木の根元へと行く。
そして、
「こいつを引き抜くことじゃ!」
その『ある物』を引き抜いた瞬間、
『ぎょええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!!!』
「「「「「うわああああああああああああああああああああああああああ?!」」」」
とんでもない悲鳴が、森に木霊するのであった。
腰を抜かしている生徒達多数である。
「フェンリルよ。いきなりはやめんか」
「にゃっはっは。これはすまぬ。皆もすまなかったのう。であるが、今ので分かったであろう。こいつは引き抜かれるときにの、今みたいに絶叫をあげる。だが、生きているわけではない。そういう植物よ」
そう、それは植物。
根っこがまるで人型のような姿をしており、引き抜くと絶叫を上げる珍しい植物だ。
その名も、
「マンドラゴラ」
ポツリと、唯一驚かずに棒立ちのままのピノが言った。
その声は小さいが、生徒達には十分届いたことだろう。
「うむ」
俺はフェンリルから渡されたマンドラゴラを皆に見せながら宣言した。
「今日はこのマンドラゴラを採取する!」
一瞬の沈黙の後、
「「「「ええええええええええええええええええええ!! どこが経済の授業なんですかああああああああああ!??!?」」」」
生徒たちの絶叫が上がった。
俺はそんな生徒達の様子を微笑みながら見守ったのである。
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