第152話 決戦

152.決戦



(前回の続きです)




「先ほどは一体どういった手品をしたのか知らんが……」


邪神は憎しみに満ちた表情から、一転して余裕の笑みを浮かべる。


「まさか、あの程度が儂の本気だとは思ってはおらぬだろうなぁ、アリアケよ」


そう言って醜悪な表情を浮かべる。


だが、


「能書きはいい。年寄りの話は最後まで聞くタイプの俺だが……」


若干、嘆息しつつ肩をすくめ、


「お前の話はオールティ村の爺様たちより長そうだ。しかも小悪党と来ている。この俺が耳を貸してやる道理もあるまい」


そう断言した。


すると、


「いい気になるなよ、人間風情が!!!」


たちまち、元の怒髪天を衝くような怒気に満ちた表情になる。


「全く、これだからちゃんと年を重ねられなかった年寄りは嫌なんだ。すぐに自分を否定されたと思ってキレがちになる。なんでもミルクを飲むと性格が丸くなるらしいぞ? しょうもない世界征服などにうつつを抜かしているから、そういうしょうもない人格になる」


「おのれ! もう許さぬ!」


俺が性格矯正の必要性を説いている最中だったが、


「邪神は人の話を聞く忍耐力もないのか?」


俺は呆れるように若干苦笑を浮かべる。そんな俺を見て、邪神はなぜか更に猛ったようで、


「喰らえ! 先ほどの1000倍の強さの星を喰らうステイラ・マンティコアじゃあああああああああああ!!!!!!!」


先ほど、女神や魔王たちにしたときの黒いアメーバのような形状へと変化すると、一気に俺を包み込み、取り込まんとする。


しかし、


「≪神殺し≫付与」


「≪必中≫付与」


「≪防御力ダウン≫付与……。ふむ、これはさすがに無効化されたか?」


俺はすぐに3つのスキルを使用する。


だが、


「はーっはっははっは!!! 無駄じゃ無駄じゃ! いかなスキルで神たる儂にダメージを与えられるとしても、それは0が1になる程度! 毛ほどのダメージを儂に与えてっ……!」


邪神は哄笑を戦場に響かせながら俺を飲み込んだ!


「なんとする! 死して後悔せよ! 矮小なる者よ!!!!!!!!!!」


絶叫と共に、大地はえぐれ、その絶叫と風圧は各方面で戦う全員に木霊した。


と、同時に、


「ふ、そうだな」


静かな声。


それは、邪神の放った耳をつんざくような騒音ではなく、静かに震える凛とした声。


だが、その小さな声は、戦場の誰もが聞いたであろう。


そして、その声はまさに、


「アー君!」


「旦那様!」


「さすが主様!」


賢者パーティーの面々が俺の名を呼ぶ。そう、


「「「「「「「「「大賢者アリアケ様」」」」」」」」」」


兵士たちすらも含む、人々の希望の光として。


バチイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイ!!!!!!


先ほどと同じ。


1000倍の威力であろうが何であろうが、俺にはきかない。


アメーバのごとき黒い影は、俺を飲み込むのと同時に、雲散霧消する。


そして、目の前には絶望と驚愕、憎悪と混乱をないまぜにした、見たこともないような表情の邪神が立っていた。





「な、なぜだ……」


思わず邪神は本音を叫んでしまう。


「なぜこれほど強いのだ!? 邪神のわしが負けるはずがない!? そ、それに、それになぜなのだ!!??!」


邪神は「なぜだ」「なぜだ」と繰り返す。


「我が片目が見る未来がなぜ暗黒になっておる! 儂は勝利し、この星を吸収する未来がさっきまでは見えていたはずだ! なのに、アリアケごとき! 人間一人が現れた程度で、どうして見えなくなった!」


焦燥にかられた声が戦場に響く。


戦場の中心たる俺に耳目が集中しているのが分かった。


注目されるのは好みではない。


俺はさっさとネタ晴らしをする。


なに、簡単なことだ。


「なぜも何もあるまい」


俺は手に持つ『賢者の杖』にかけていた『幻覚イリュージョン』のスキルを解く。


「は?」


「武器を隠すなど基本中の基本だぞ、邪神か何か知らないが、人間をなめすぎだな」


唖然とする邪神を前に俺は飄々という。


だが、


はるか後方。


遠くからも同じように、


「ああああああああああああああああああ!?!?!?!」


けたたましい絶叫が聞こえて来た。


それは勇者ビビアのものだ。


「すまないな、ビビア」


俺は微笑むと、両手で剣を構えながら言った。


「少しお前の聖剣を借りているぞ」


スキル『聖剣装備』とスキル『神殺し』。


この二つの通常スキルの併用していたのだ。だからこそ、ダメージを与えることなど造作もない。


そもそも、


「聖剣は星の作り出した対邪神用の武器。不死者に対する聖属性はオマケに過ぎない。本来の目的は、宇宙癌たるお前を倒すための専用武器。だったかな? 女神イシス」


「そうです。よく覚えてくれてましたね、お姉さん嬉しい♡」


「というわけで、邪神ニクス」


俺は聖剣を邪神へと向けると、微笑みを絶やさぬまま伝えた。


「おとなしく聖剣の錆になるがいい。宇宙を漂流する寄生虫を駆除するのに、御大層なことだとは思うがな」


「お……」


お?


「おおおおお…………」


おおおおおお?


「おのれえええええええええええええええええええええええええええええええ!!!!! 寄生虫だと! この神に対して! 神に対してえええ!!! 絶対に、絶対に! 絶対に、貴様だけは! 大賢者! いいや、怨敵アリアケ・ミハマ! 貴様だけはあああああああああああああああああああああああああ!!!!!」


びりびりびりびり!


邪神の放出する憎しみが帯電するかのごとくマナを震わせ、戦場の大地はまさに鳴動する。


邪神はそれほどの憎悪と、そして、何より焦燥を俺に感じたのだった。


だが、邪神の姿は次の瞬間、フッと消失する。


無論、それは、


「やれやれ、逃げるだけの理性は残していたか」


邪神との最終決戦の狼煙のろしに他ならないのだった。

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