第150話 人類の盟主アリアケ、参戦す

150.人類の盟主アリアケ、参戦す



(前回の続きです)


星を喰らうステイラ・マンティコア


邪神の呟きとともに、今まで奴を押さえつけていた『エルクシティス深淵なる重さヴァリティタスをあなたに』が消失していく。


いや、あれはもしかして、


「あれが厄介なんですよね。相性が最悪です」


「まさか、あれは」


「ですね。食われています。私の精一杯のなけなしの魔力だったのですが、はぁ」


「ちょっと、イシス様、精一杯って!? まだ始まったところなのだ!?」


あてぃしは、女神様の弱気な発言に驚く。


けど、


「いや~、もともと1000年前にかなり手痛くやられまして。まだ回復途中なのです。でも邪神の方がもう動き出しましたので、しぶしぶ星の玄室から出てきたわけでして、欠損状態なんです。なので、うーん、ちょっとやらかしてしまいましたかね♪」


「悠長過ぎるのだ、この神様!?」


そうあてぃしが悲鳴を上げた瞬間、


「さよう。そして、もう飽いた。さらばだ、星の女神イシス・イミセリノス。人も魔族もこの1000年ずいぶん死に、そして文明は発展と衰退を繰り返した。ずいぶんと熟成し、儂好みの熟成度だ。もはや、お前を生き残らせておく意味はない。魔王もな。ともども前菜として喰らいつくそうぞ。我が胃の腑へと、く堕ちるが良い」


邪神はそう言うと、今まであった人型の姿をまるで影のような、靄のような、山ほどもある黒いアメーバのような形状へと変化させる。


その影はあてぃしたちを包み込む。


「捕食する気なのだ!! 逃げっ……!!!」


「どこに逃げるというのかね。だが、絶望の味も甘美である。さあ、我が胃の腑へと堕ちよ」


ドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ…………


天を覆いつくす黒い影は、あてぃしたちを一気に飲み込む。


それに触れた瞬間に分かった。


ああ、これは絶望の顕現なのだと。


この宇宙の癌に目をつけられた瞬間から、この惑星の生命は、この邪神の単なる餌へと堕ちたのだと。


あてぃしと、そしてイシス様は、その影へと飲み込まれると、その奥へ無限に伸びる胃の腑への空洞を、まるで自由落下するかのように堕ちて行ったのだった。


「ああ、こんな奴、倒せるわけ、ないのだ。絶望というやつなのだ」


「あら、諦めが早いですね、魔王さんは」


と、こんな絶望的な状況にも関わらず、イシス様は微笑みさえ浮かべていた。


そして、


「それに、こういうのは絶望とは言いません」


朗らかに、無限に落下する中ですら、腰に手を当てて、


「こういうのは計算通り、というのです」


その瞬間、


バチ! バチバチバチバチ! バチイイイイイイイイイイイイイイイイイ!!!!


無限の空洞が歪み始めたかと思うと、まるで引き裂かれるかのように、消失したのだった。


あてぃしたちはいつの間にか、さっきまで立っていた場所に戻っている。


「こ、これは……」







あてぃしは何が起こったのか分からずに、周囲を見回す。


だけど、そんなことはする必要はなかった。


「いやー、10年ぶりの再会ですね。うふふ、お姉さんが見込んだ通り、立派な男の子になりましたね♡」


女神のお気楽な調子の声とともに、


「なぜだ? なぜ貴様ごときに、儂の固有スキルを無効化できる。なぜっ……!」


疑念と、そして憎しみの込もった邪神の声が響いた。


それだけで、あてぃしは誰が来てくれたのかを悟る。





ざっ。


靴を鳴らしながら、その賢者はあてぃしたちの前に立った。


「やれやれ」


だけど、そこに気負った様子はない。


あてぃしと戦った時と同じ、少し気の抜けた、けども人を安心させる調子で、


「今度は邪神退治ときたか。さすがにお前を倒したらゆっくりさせてもらうぞ?」


そう圧倒的存在である邪神に対して、勝利を確信した様子で。


その男。


大賢者アリアケ・ミハマは言い放ったのだ!


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