【書籍化&コミカライズ】勇者パーティーを追放された俺だが、俺から巣立ってくれたようで嬉しい。……なので大聖女、お前に追って来られては困るのだが?
第52話 大賢者アリアケの活躍を目の当たりにするラッカライ
第52話 大賢者アリアケの活躍を目の当たりにするラッカライ
52.大賢者アリアケの活躍を目の当たりにするラッカライ
~ラッカライ視点~
「あれ? そう言えば、どうしてボク動けるの?」
アリアケさんの手を借りて立ち上がったボクは、今更ながらの事実に首を傾げた。
だって、さっきまで微動だに出来なかったんだから。
でも今はこうやって普通に動けてる。
まるで、さっき麻痺毒を食らったのがウソみたいだ。
「それならスキルで治しておいた」
「へ? いつの間に? というか、ボクが麻痺状態だっていつ知ったの⁉」
「倒れてる少女がいればスキルで≪状態異常確認≫ぐらいするさ。それにどう見ても野盗に囲まれてたからな。自分に≪攻撃力アップ≫をかけて、邪魔な野盗どもを吹っ飛ばしつつ、君の麻痺を≪
「そ、それって。3つのスキルの同時使用なんじゃっ……⁉」
ボクは驚く。スキルを同時に使用するのは、それだけで
それなのに、アリアケさんはいとも簡単にそれをやってのけたと言った。
しかも、それは余裕のある状態でのことじゃない。
敵が目の前にいて、ボクが倒れていて、そんな状況の中、一瞬でその判断と行動を行ったんだ。
それはとんでもないことだ。
スキルの同時使用が出来たって、実際にその行動を成し遂げること自体が、とても常人にはまねできない奇跡なんだ。
それをボクは理解した。
「すごい方なんですね、アリアケさん!」
ボクは思わず声を上げてしまう。
でもアリアケさんは、
「これくらい俺にとっては大したことじゃないさ」
そう言って謙遜する。
「まだまだ余裕があるんですね……。本当に凄いです!」
ボクは正直に思ったことを言った。
だけどアリアケさんにとっては本当に大したことじゃなかったみたいで、軽く肩をすくめたのだった。
「それよりも敵がおかんむりだぞ」
アリアケさんは苦笑しながら注意を促す。
「野郎っ……! ぶっ殺してやる‼」
「変な術使いやがって!」
「へ、へへへ! だがこの数に勝てるわけねえ! ズタボロに切り刻んでやるからなぁ!」
野盗たちは一様に獣のごとく吠えたて、激高していた。
「くっ⁉」
ボクは歯噛みしながら、聖槍を構える。
野盗たちの言う通り、相手の数はボクたちの10倍以上いる。
しかも地の利は向こうにある。
窮地であることには変わりない。
死の影は目前から過ぎ去ってなんていないんだ!
ボクの頬を冷や汗がツーと垂れた。
でも、
「弱い犬ほどよく吠えるというが、お前たちは、犬のように鼻はきかないようだな」
アリアケさんは何の恐怖も……いいえ、緊張すらも感じさせない様子で夜盗たちに言った。
「今、どれほど強大な相手と敵対してしまっているのか。犬ならば逃げるか腹くらいは見せているだろう。お前らはそれ以下だ。犬畜生にも劣る
そう言うと、フッと笑ったのだった。
「こ、これだけの数の敵を前に……なんていう胆力なの……」
ボクは舌を巻く。
この人は本当に凄い人なんだ。敵がどれだけいようと決してひるまない。
その姿はまるで英雄のよう。
きっとこの人なら、魔王にだって恐れず立ち向かうだろう。
こんな状況なのに、アリアケさんのせいなのか、呑気にそんな感想すら抱いてしまう。
(そうだ。こういう人こそが、ボクの想像していた勇者パーティーのメンバーなんだっ……!)
ボクは久しぶりに、そんな気持ちを思い出していた。
ボクは、憧れていた勇者パーティーの弟子になれると聞いて、最初は喜んでいた。
ボクのようなヘボ槍使いでも、勇者パーティーの弟子になって、少しでも世の中の役に立てればと思ったんだ。
……でも、その気持ちはすぐになくなってしまった。
元々、深窓の令嬢のような生活をしていたから、世情に疎くて、どういった人が勇者パーティーに所属しているのか、そういった詳細は全く知らなかったんだ。
正直、勇者様たちは思っていたような方たちではなかった……。
彼らは口を開けば他人の悪口を言っていたし、特に向上心なんかもないようだった。
それなのに、口だけは大きなことを言っていた。
旅の道中で人が襲われていても見ぬふりをしようとしていたし、それをローレライさんに叱られて渋々戦っていたっけ……。
まさに、アリアケさんとは対極の人たちだったんだ。
だから、ボクの気持ちは急速にしぼんでいった。勇者パーティーに憧れていた自分を恥じるようになるくらいに。
(でも、アリアケさんのおかげで、久しぶりに、あの気持ちを思いだすことが出来た!)
あんな勇者パーティーに憧れたのは恥ずかしいことだったかもしれないけど、アリアケさんみたいな真の英雄と一緒に世界を旅をして、人の役に立ちたいって言う気持ちは正しい思いだったんだって。
そのことを思い出せてくれたんだ。
ああ、もしこの人が勇者パーティーのメンバーだったりしたら、ボクは絶対に追放されないように、最後まで頑張ったのに……。そんなありもしない空想をしてしまう。
この人とずっと一緒にいて、色々教えてもらいながら、世界を救う旅が出来たらどれほど
それは勇者パーティーに一時的に滞在していた時には、決して抱く事の無かった気持ちだった。
だが、そんなことを思っていると、野盗たちが更に激高して叫び声をあげた。
「ええい、もう我慢ならねえ!」
「どっちが
「死ねぇえええええええええええええええええ‼」
一斉に襲い掛かって来た!
でも、アリアケさんは落ち着いた様子で、
「≪防御貫通≫」
「≪回避付与≫」
「≪スピード強化≫」
「≪攻撃力アップ≫」
「≪身体強化付与≫」
そうスキルを詠唱する。
「ご、5重スキルっ……⁉」
ボクは一体何を見せられているんだろう。あり得ないレベルの戦闘をアリアケさんは平気な顔で繰り広げる。
野盗たちは、
「ち、ちくしょう、攻撃が当たらねえぞぉおおお⁉」
「そ、それにどうしてだぁ⁉ 防具の上からでも痛え! 痛えよぉ‼」
「くそったれがああああああ! なんでこんな優男が、こんなに強ええんだよおおお⁉ ぎゃああああああああああああああああああああああ⁉」
断末魔が間断なく山にこだました。
「ほ、本当にすごい。もう10人以上を吹っ飛ばした。そ、それに一瞬で何発も攻撃を加えてるっ……!」
ボクはその戦いのレベルに驚愕するしかない。
だけど、それがいけなかった。
そんな無防備な人間がいれば、野盗のような下卑た人たちが考えることは決まっている。
「おい、そこのガキぃ! 大人しくしなぁ! 人質になってもらうぜえ! げへへへへへへへ! おい、優男ぉ! てめえ、一歩でも動いてみやがれえ! そんときゃあ、このガキのきれーな顔が無茶苦茶になっちまうぜえ!」
そう言って、ボクにナイフを突きつけて来たのだった。
……だけど、アリアケさんはポカンとした表情で、
「何を言っているんだ。なあ、ラッカライ?」
そう言いながら首を傾げると、
「そいつらくらい、君なら簡単に倒せるだろう?」
あっさりとそう言ったのだった。
「えっ⁉ ど、どうしてそう思うんですか? ボクは戦いなんてからっきしダメで……」
倒せる? ボクが、この凶悪な野盗たちを? 無理だ。だって、ボクには才能なんてない。だから勇者パーティーを追放されたんだから。
でも、アリアケさんは優しげに微笑むと、
「だって俺の攻撃が
「止まっ……て?」
ボクはその言葉に驚く。
ボクは自分のことを何も出来ない無能だと思っていた。
だから、何の力もないと確信していた。
勇者パーティーでも全く評価されなかった力だ。
それなのに、アリアケさんは会ってほんの数分で、ボクのことをちゃんと理解して、言い当ててくれたんだ。
そうだ。
恐怖で震えていて。
死の予感に怯えて。
目の前が真っ暗だったせいでよく見えていなかった。
誰も言ってくれなかったし、誰にも分ってもらえなかった。
だけど、アリアケさんは分かってくれたんだ。ボクにすら見えていなかった、ボクの力を見抜いてくれた。
「攻撃が得意じゃないなら。しなくてもいい。防御や回避をした際に、相手の動線上に武器を添えるようなイメージで動いてみろ。そうすれば自分はほとんど動かず、勝手に武器が相手に当たるから」
しかも、ボクに合った戦い方までっ……!
「凄い、さすが、先生……」
「先生?」
「あっ、つ、ついっ……」
思わず口から出てしまった。アリアケさんはポカンとしている。
(で、でも)
私は思う。
これが、何かを教わるってことなんだ。勇者パーティーでは一度も感じなかった感覚。真に優れた教師に何かを習うっていう、そんなとてつもない充実感……。
アリアケさんの教えに基づいて、ボクは落ち着いて周囲を見渡す。
すると、野盗たちの剣は面白いほど単純な軌跡を描いていた。
「こんなものに、当たるはず、ない」
ボクはその剣筋を軽く槍の腹でいなすと、その勢いを殺さずに野盗の体へぶつける。
「うっぎゃあああああああああああああああああああああああああ⁉」
大きな悲鳴がとどろいた。
「な、何なんだよこいつら……」
「に、逃げろ‼」
「う、うわああああああああああああ」
ボクのやったことと、何よりアリアケさんの余りの凄さに野盗たちは総崩れになった。
あとは掃討戦だった。
逃げ惑う野盗たちを、アリアケさんは見事な手際で迅速に捕まえて行った。
こうして、100人以上いた野盗集団は、アリアケさんというたった一人の英雄に蹴散らされ、一網打尽にされたのだった。
(まったく、詩人が
あまりの凄さに苦笑してしまう。
でも、決して夢じゃない。
ボクは呑気に目の前を歩くアリアケさんの背中を見て思う。
(この人こそ、
叶うならば、この人に一緒に旅をして、色んなことを教わりたい。
そんな思いを強く抱いたのだった。
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