第4-2話 黒猫 もしくは バディ
え?
え?
え?
このヒト いやこの方 深淵が見えるの? レオナはユキの眼を真っすぐに見つめたまま固まった
もしかして 深淵から逃れる方法をこの人は教えてくれるのだろうか?
レオナは かなり唐突にして 前向きな事を考えた
今まで 誰かに深淵の事を話したことは無い が この人は 何かを知っているのではないだろうか?
今を逃したら もう 深淵が見える人に出会うことは無いかもしれない
レオナは たまに暴走する 自分の事以外 周りが見えなくなるのだ
「3歳児じゃないんだから」
と家族には呆れられ
「サトレのたまにしか出ない暴走は エジソンのように何かを生み出すのではと期待しておるぞ」
と 忍には期待されている(?)
その暴走癖が今 出ようとしていた 出さない方がいいのかもしれない、と思いはするのだがレオナ自身にそれを止める術はない
レオナはほとんど見ず知らずの男性の胸ぐらをつかみかからんばかりの勢いで言った
「あの膝の上に居たものについて 何かご存知なんですか? アレは 何なんですか? なんで見える人と見えない人がいるんですか? アレについて何かご存知なら教えてください お願いします」
レオナはベンチから立ち上がって 深く 深く頭を下げた 下げたままで止まった。
ユキは 突然のレオナの変貌ぶりに 再び固まっていた。
ユキから見たら 驚く事ばかりだった
”1(いち) 図書館で見かけるかたくなに同じ席に座ろうとする少年は なんと少女でした。”
から始まって
”2(に) その少女は どうやら「バディ相棒」(またはブラックホール)を視る事ができるようです”
という ライトノベルのタイトルにできそうな状況に加えて現状は
”3(さん) そして 今 その少女に「バディ」について教えろと 迫られています。”
なのだから…
ユキが我に返り、お願いしますっと頭を下げた姿勢のままでいるレオナに
「ちょっと 落ち着こうか?」
と言いながら 20センチほど距離をとるが 顏を上げたレオナはその分詰めてまた聞く
「なんで教えてくれないんですか? 秘密なんですか? 国家機密とか?もしかして教えると何か悪い事が起こるんですか?」
「まずは 君の名前を教えてくれる?」
「は?」
レオナの暴走がちょっと止まった
「あ その前に 右手で左の耳を摘まんで 左手は頭の後ろを通って右の耳を摘まんでくれる?」
「え?」
実は素直なレオナはその言葉の通りに実行しようとして 完全に暴走が止まった
マジメな顔で 右手で左の耳を 左手は頭の後ろを通って右の耳を摘まんだ 少年っぽい少女を前に、ユキもマジメな顔で返した。
「はい ありがとう もういいよ」
「あ。。ども 失礼しました」
手を放して 小さな声でレオナは謝る
「あの人の膝の上に居たものを 僕はバディ 若しくはブラックホールって呼んでいるんだ」
「バディ?ブラックホール? ですか?」
ブラックホールはよくわかる 黒くて丸くてすべての物を飲み込んでしまうだろうアイツだから?
バディは?仲間という意味だけど? つい先ほどの勢いから 一転 ポカンとした表情になるレオナ
「うん 話すと 長くなるけれど 時間は大丈夫?」
ユキに言われてレオナは図書室を出てから大分時間がたっていることに気が付いた
「あ!もう帰らないと 母が心配するので」
「そうだよね 今度はいつ図書室に来るの?その時に話そうか?」
「明日 明日 明日来ます 今 夏休みなので 明日のお昼過ぎに来ます」
一度は止まった 暴走がまた走り出そうとなるのをレオナは心の中で「右手で左耳をつかむ」とおまじないの様に唱えながら抑えつけた
「僕は 月見里 有希(やまなし ゆき)」
「ヤマナシユキさんですね 明日 図書室 お昼過ぎ ですね」
帰らなければ と 慌てて立ち上がるレオナにユキも慌てて聞く
「君の名前は?」
「あ すいません 佐藤 レオナです」
「佐藤さん?」
佐藤と言う名前があまりにありふれているからか レオナは佐藤さんと呼ばれることはあまりない が サトレという呼び名も好きではない
「レオナ です。ヤマナシさん また明日お願いします 失礼します」
ペコリと頭を下げて レオナはガーデンの門に向かって速足で歩き出す
「レオナちゃん 明日ね」
ユキはその後ろ姿に声をかけ、その場で その後ろ姿を見送る。
ガーデンの門の所で 立ち止まり左右を確認する姿が横断歩道を渡ろうとする小学生の様だと思う
門の向うにその小学生のようなレオナの姿が消えたのを確認してユキも踵を返した
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