社内椅子取りゲームと社長令嬢()の悩み

おい。

天の声。

聞いてるか。

何やねん、副題のところの令嬢の次のカッコは。

あたし一応社長令嬢で間違いあらへんやんけ。泣くぞ。


…失礼いたしました。

皆さん、学級でも会社でも役所でも議会でもなんでもいいんですが、およそ組織の中で自分の座る椅子を確保するだけにリソース全振り、自分の存在価値は地位にありみたいな権力欲の権化を相手にした事ありますか。

ついでに言えば社会人ならばだいたい、座った椅子とセットで上がるおぜぜの金額に固執する欲の権化という事も多いですし、更にザギンでチャンネーとか祇園で芸者とか、もれなく性欲方面にも固執する傾向のある人のことが多いですよね。


で、弟が留置所で牢名主なヤクザにしばかれて心を入れ替えている事に期待しつつ、親父の会社に行って顔馴染みの業務部長の武内さんに会いまして。

このおっさんはあたしが母親に連れられて来た時から社にいて、放置気味だったあたしを何とかすべくやね、車両課一同に声をかけて皆で面倒見るように計らってくれた恩人である。

いやほんま、長距離女性ドライバーの仮眠ベッドがあたしのチャイルドベッドになった事が一体何度あったか。あのババア、会社を娘の保育園代わりに使うなと。

で、晴れて士官学校出て宙兵隊飛行士資格を得て配属が決まるが早いか、父親や母親差し置いて真っ先に武内さんはじめ当時の関係者に頭を下げて回り、貴方のおかげでわたくし何とかこうなれました、誠にありがとうございましたとおろしたての儀仗礼服着て真剣に礼をしていきましたよ。

例のNB無理矢理居座り事件で、会社の敷地にバンシー降ろして置いとくハメになった時もですよ。置いとくだけでも大型トラック4台×2列分くらいの面積を取るデカブツをみんな嫌な顔一つせんと受け入れてくれたのは誰と誰の人徳のおかげやと。

まぁ、子供さんたちを会社に連れてきて操縦席に座らしたり、みんなでバンシーをバックに記念撮影したり野生の基地祭して遊んでたりしたがな!


んで喫煙室で自販機のコーヒーという、まことにもってブルーカラー臭漂いまくる場所と飲み物が馴染む場所にはおよそ似つかわしくない、見た目ガイジンなJKが大阪弁で会話してる訳ですが。

「あらージーナさん今日はお兄ちゃんはー?」とクリスの事を聞かれたり。

「お嬢さんパンツ見えますやんそれ!」

「へっへーんアメリカンハイスクールと見せかけて実はキュロットなんじゃーほれほれー」

「それミニスカやなかったらあかん奴ちゃいますの!許されまへんで!わははっ!」とかセクハラ爆発な挨拶が平然と交わされたり。ええ。またなんかおる言う感じで日常光景なんです、この会社。TAPPS駐める時も、通常装備のTAPPS7くらいならトラクターヘッドくらいの面積しか取らんので「あー、隅っこ言わずに目立つとこ置いといてくださいよ。納品便や配送便の連中に目え剥かしましょうや。一見いちげんはアレなんやて絶対聞きよりますから」って具合にですね、操車担当に声さえかけとけば、余裕があれば見張りすら買って出てくれたり。


で、わざわざ外見相応の格好して。あたしの身長やとめっちゃ痛い思うけどロリってる姿してブリブリにブリまくって。更にあたしの頭、ショートやけどよっぽどウィッグ被るかエクステつけて隠れロリな武内さんにアピったろかと。

「なー武内さーん。後釜の新谷の兄ちゃんにもそろそろ一本立ちさしたるためもあんねんけどさー、自分がめっちゃ楽できる思うて座る場所変えてーやー」

「いや、お嬢さんはそない言わはりますけど、新谷のアホなんかまだまだ私がおらな。こないだも(トラクター)ヘッドの配車でシフト休みに入ってるやつに予定入れよったばかりでっせ。おかげで運行の櫛田と二人して新谷引っ張って行って、怒っとる吉川に詫び入れさしたばかりですわ。そらあいつ…吉川とこて、子供がまだ1年経ってへんから、そらあ嫁はんともども休みの最中に緊急連絡て何しとんねん言うて当たり前ですわ。やろ?」うう、そういう話を聞くと不安になりますがな。ええ、あたしかて幼い娘を抱えた母親ですので、そういう間違いをされると入れてた予定が吹っ飛ぶとか夫婦仲に影響が出るのは大いに想像可能な訳で。

「いや、そらあお嬢さんが悩んではんの分かりますねんで。貴洋さんの件はアレとしてもですな。私かて、直近でこんなんやらかせへんかったら新谷に任して、お嬢さんの話に乗ろか思いますわ。まぁまぁ、そないに目に涙貯めはらんでも…とりあえず谷田部の奴のとこ行きまひょ。あれ、今、総務課長なん知ったはりますよね?」言うなりコーヒーの残りを飲んでカップ捨てて電ヤニを片付ける武内さん。

「おぇ谷田部、武内やけど今席におるか?ジーナお嬢さんの話聞いたってくれや。おう。あれやあれや、社長の奥さんの件や。副社長からも話来とるやろ?あんま時間取らさんからとりあえず話聞け。ええな?行くぞ?」これ、大阪弁喋れる男性が知り合いにいたら実際に読ませてみてください。

ええ、ヤクザの電話と何が違うのかと誤解されるかも知れませんが、これで一般的な企業役職者の普通の電話ですから。はいそこ、大阪怖いとか言わずに。


「なるほど。確かにそうですなぁ、アレサンドラ社長がフットワークホールディングズの社長を降りはった上に、私らがなんもせんかったら、私らの持ち資産を管理すんのんは第三者になりますなぁ」で、谷田部総務課長が用意してくれていた小会議室に陣取って説明中のわたくし。

「谷田部、それで何か良うない事は何が考えられるねんな」武内さんが鬼瓦系の顔をずずいっと谷田部課長に近づけますが、対照的に線が細そうな谷田部さんはものごっつ迷惑そうに身をそらして答えたり。

「武内部長、考えてもみて下さいや。今まではまぁ、言うなれば社長とアレサンドラ奥さんが好きに方針決められましたやん。せやけど今はホールディング名義で連邦の産業開発銀行から融資受けてますやんか。つまり、返済が滞ったり経営状況が思わしくなかったらですな、産業開発銀行から直接か、あるいは債権回収委託された銀行から取り立てられたり役員送り込まれますねんで」

「それの何があかんのや?」

「まぁ経営体質やら採算性やら色々見直す言うて手を入れられる事は間違いありまへんやろ。自分らで社長選ばれへんからワシが送り込まれた、ついてはワシに従わないと会社自体を大手同業に売り飛ばすぞくらいは平気で言いますやろな」その時、会議室の扉が開きました。

「谷田部の言う通りやぞ、武内。高木社長から電話あってな、大体の概要は聞いたけどな」

「あ、副社長、お帰りなさい」

「おう、田中部長と二人で四菱四和とりひきぎんこう行って話してきたわ。で、お嬢さん。せっかくお越し頂いてるのに何も出来ずに申し訳ありませんが、事態が事態ですわ。経理の田中部長にも来てもろてますし、ちょっとお時間頂いてよろしいですかな」

「ええ、構いませんで」言い方にちょっと引っかかるものがありますので、竹崎副社長に意識を集中します。

正直この人、付き合い長いだけによくわかるのですが、外観に違わぬタヌキなのですよ…。顔やなしに、腹の中が。

「お嬢さんの話やと、実際にホールディングズを運営するんは外部の詳しい人にさせるとして、銀行と政府向けにカカシがいりまんねやろ?」あたしの内心に気付いてか気付かないか、竹崎副社長が話を続けます。

ちょっと注釈しておきますと、会社勤めや公務員とか団体職員やってる人なら、この辺りのびっみょーな空気を読む読めないで自分の将来が変わるのを経験した事ありませんか?特に、ある程度の地位のおっさんばかりの集まりの時に。

「そうですねんわ。ホールディングズを解散させて資産こっちに戻す案も考えたんですけどね。田中さん、今ホールディングズで握っとる資産戻したとしたら、どんな弊害が予想できます?」で、何食わぬ顔で会議室のテーブルについた竹崎副社長と田中経理部長に、話を振ってみます。

「いや、これ下手したらほんまに融資事案としては最悪の方向に行きかねまへんわ。救いはうちの株をなまじ上場してない分、株式資産評価の下落はない言うくらいですなぁ。うかつに元に戻したらここの土地とか向こう…物流センターまで評価額変わりますさかいに、産業開発銀行が持っとるうちの資産額データが変化しますわ。ええ方に変わったらよろしいねんけど、あかん方やったら役員呼び出されて返済計画出し直せ言われますわな」


あーやっぱしかい。


「なるほどなぁ。となると、社の方針としては…お嬢さん、これは社長の今の容態やと言い出さん方がええおもて病室では黙ってましてんけどな。この一連の収拾を高木社長にはかって頂くのと、グループ全体の統括のために社長をホールディングズの社長と兼務して貰うか、あるいは…いや、私はフットワークこ この社長の椅子が欲しい訳ちゃいますねんで」


ほらきた。


いや、クレーゼさんのおかげで、向こうの女官レベルの能力が多少使えるのがこの時ばかりは感謝感激です。相手の頭の中がある程度は読めるの、こうもありがたいとは。

「はぁはぁ。いや竹崎さんの仰りたいこともよう解りますわ。確かにうちの父親をホールディングスの社長にしたら、ある程度の収拾はつけられますわな。ただ、本人が退院して業務復帰するんが条件になりますが」

「でしょう、お嬢さん…いや、高木取締役」ええ、あたしも一応は社外役員なのですよ。ババアははおやはむっちゃ反対していましたが、宙兵隊を辞めた時にも、あんた体を改造されてるから予備役のままで据え置きなんやろ、公務員やったら会社の役員出来へんやんいやいや予備役やったら出来るんやでとすったもんだの末に親父のたっての願いで役員になっていたのですが、まさかこの時に生きるとはねぇ。

つまりやね。今、わたくしが役員でなかったらですね、この集まりを社内公式の役職者会議にされてね「さすがに創業者の娘といえど、社外の人間に聞かせる話ではない」とばかりにつまみ出されてたのですよ…。

「で、私の提案なんですがな。この際…ホールディングスとフットワーク本体の経営を完全に分けてしまうのも一つの方法やないかと思いましてな。物流センターの仕事は確かに惜しいですが、本体の足を引っ張るなら切り離す事も視野に置かんと、ここの従業員の雇用すら脅かしかねまへんわ。武内や谷田部も、その辺はよう理解しといてくれよ」つまり、これから俺の言う事に余計な嘴を差し挟むなよと申すタヌキ。

「まぁ、その着想の理解をするにやぶさかではありませんわ。わたしも皆んなが路頭に迷うようなら最悪、NBから資金出してもろてでも助けるつもりでしたし。…ただ、竹崎副社長のご提案を推し進めるにあたり、2つの懸念が出てきますわな」はい、戦闘開始エンゲージ、マスターアームスイッチON宣言入れたげました。つまり、あたしのバックに今、何がおるか分かっとるよなと言うたったのと、役員として従業員の面倒見る覚悟はあるでと皆様に宣言した訳ですわ。

「なんか、お嬢さんもえっらい出来る女感出してますなぁ」

武内さんが感心したように言われますが、ここであまりおちゃらけてるとまずいのです。

絶対、竹崎さんタヌキは足元すくおうとして来ますから。今でもこちらの隙を窺ってますから。

「いや武内さん、とりあえず従業員和ましたい励ましたいからこんな格好してきただけで、公式の役員会やったらスーツ着てますがな。で、竹崎副社長。わたしの懸念の一点めですが…田中取締役経理部長。直近のユニオンキャリー上町物流センター分の売り上げ、フットワーク全体の売上額との比率は今、出せますか?それと谷田部総務課長。既にやってはる思いますけど、この集まりは臨時役職者会議として内容記録願いますよ」いきなり振られて谷田部さんビビってるけどな、あたしも軍隊という巨大なヤクザの集まりでそれなりに揉まれて生きてきたん、忘れんといてな。交戦や作戦記録は当たり前やで。

「なるほど、経営分離した場合の損失予想ですな」

勿体ぶって竹崎副社長が言うが、実はこの場にいる人全員、知ってないとダメな数字です。

更に言いますと、あたしがいなかったら武内さん辺りに聞いて即答出来なきゃお前それでも部長かとかやってた可能性極大なんですよねぇ。言葉尻捕まえて足引っ張るの、何もヤクザの専売特許と違うからね。

「えーと、荷捌業務で10パーセント、コンテナ配送で10パーセントいうところですわ。細かい数字いりますか?高木取締役」

「ありがとうございます。今は概要だけで構いませんわ。差し当たり、営業損失としては全社売り上げの2割を飛ばすべきかどうかの瀬戸際である。この認識で皆様よろしいですか?」

ええ、この話に間違いはないよな、とダメ押ししておきます。

ふふ。タヌキが内心で何やねんこのアマ、ついこないだまで男にケツ振ってだけで生きてきたツラと体でいきなり何でこの場の主導権握りかけとんねんとか、めちゃくちゃ失礼な事考えてはるのお見通しでっせ。ええ。ちょっと変な性癖あるけど上玉も上玉のショタ、この身体で咥え込ましてもらいましたで。

「で、懸念の二点め。これは言うまでもなく、我がフットワークの従業員で上町物流センターの関係業務に従事している者の雇用喪失への懸念ですね。これは申し上げるまでもなく、彼らは職場を失うのか、そして我が社は代替業務を与えて彼らの雇用を保証出来るかという点に尽きます。まず武内さん谷田部さん、今、フットワークの社員で物流センターむこうにおるんは何人くらいになります?」

はい、ここでズバッと切り込んどかないと、絶対にこのタヌキは反撃します。それがわからいでか。そして、武内さんはともかく谷田部さん、あたしが役職名つけて呼んでないの気づいてくれるかな。これ敵味方識別信号I F Fのレスポンス返すかどうかの瀬戸際やで。あんた、向こう側やったら苦労するで。


「…そうですなぁ、直接向こうの所属にしとんのはプラットホームとコンベアで正規雇用が5人、契約や派遣がざっと20くらいですかな。あとドライバーで向こう絡みの配送に従事しとんのが1日あたり平均3名くらいの筈ですわ。ですな武内部長」手元に配置表を表示させて谷田部さんが答えます。

「武内業務部長。仮にに物流センターの業務をユニオン社から切られたとして、正社(員)だけでもこっちで吸えるか?」つまり、物流センター所属社員を配置転換してこの事務所へ戻して仕事があるか、収益に影響は出ないかを竹崎副社長は聞きたい訳ですね。あと武内さんが役員でないのに注目。これ正直痛いのですよ。うちの会社、高木家だけで持株を100%完全に握ってないのですよ。

「代替の定配(定期配送便)の仕事、最低一本くらいは欲しいですな。現状やと確か3名くらいアブレになります」

「ふーむ、少なくともあと3名分の仕事の契約やな。物流の正社員は本社こ こに戻すとして…高木取締役。詳細な数字は経理部や総務部で検証する必要があるとして、目下のところは今の話だけで判断するに、経営損失は売上の約20パーセント。従業員は正社員については代替業務営業次第の面はあるが、何とか本体で吸収可能という結論になりますかな?」

「ありがとうございます。その認識でわたしもお話をさせて頂こうと思います。さて、現況におきましては竹崎副社長ご提案の、上町物流センターを経営分離する一件ですね。これに関しましては相応の売り上げ並びに利益損失は予想出来る。しかしながら今後の営業展開次第では補填は決して不可能ではない。副社長のご主張としてはこんなところですか?」こら武内さん、固まるな!相手が言いたかった事を先にバラすのも手の内やで!向こうは上町と高木家を社から放逐したいんやで?相手の本音や目論みを喧嘩になるかならんかのギリギリで暴露して牽制すんのも、こういう場所での喧嘩のやり方やねんで? という意思を目で送ります。ええいかったるい。

「はい、取締役に先にご説明頂きまして恐縮ですわ」うそつけおっさん。何をワシが言う話、先に言うとんねん言う顔やで。

「あとですね、個人的な所感となるんですが、ユニオンキャリー社と言えば、フェブルァリーエクスプレス社やダイレクトデリバリー社と並び、国際小口貨物主体ではありますが知名度は高い企業であるのは運送業界人ならば知るところかと。そしてUC社の企業規模ですが、連邦圏内ではシェア50パーセントを誇る業界大手であります。よね?皆様」要はこれも運送屋なら常識やろ、とダメ押ししてる訳です。特にタヌキ。あんたや。

「つまり、高木取締役としては…ユニオンキャリー社との提携解消が明らかになれば、我が社のイメージダウンになると言われたい訳ですか」別に切っても大した損にならんやろ。ウチの売上は大口法人需要が圧倒的で、宅配に絡むのは阿川エクスプレス絡みの路線便下請けだけなん、お前知っとるやろがとタヌキさん。ええ、武内さんと親しいなら知らん訳がおまへんがな。


せやけどなタヌキ。


UCが上町でやってんのはNBからの在英企業向け法人輸送や、英国本国向けの政府所轄便なんや。

お前なぁ、向こうのプラットフォームの貨物の荷札エフとか、扱い貨物の仕向先資料とか見てへんのかい…頼む、ほんまに頼むわ。扱い品について最低の知識得といてぇや。


「確かにユニオンキャリー社は創業由来が国際航空貨物扱いの企業です」

付け加えとくと宇宙軍や宙兵隊は言うに及ばす、軍と名のつく組織にいた航空機パイロットの再就職先大手でもあリマして。

更に、地球圏での軌道エレベーターを介さない民間再突入輸送シェア50パーセント超えの企業なんです。ええ、タヌキには言いたいのです。お前が昔おった阿川急便とか、そのライバルのミケネコホールディングスと同じ宅配屋や思わん方がええで、と。

「ですが、宇宙空間での民間輸送大幅緩和を前提にした星間輸送市場シェア奪取に向けた取り組みを強力に推進しておりまして…武内部長。今から申し上げる話はオフレコもオフレコなのですが、わたくしの夫の父であるヘンリー・ワーズワースNB首相から直接聞いている事です。他の皆様におかれましても内密に願います。よろしいですね?」

「高木取締役、それは軍事機密に該当するお話なのですか?」

はい三田村課長ご名答。さすがは総務屋、気づいたか。座布団があったら1枚あげる。

「ええ。ですので…軍関係の基準適用は心苦しいのですが、これからわたくしが申し上げる一件は連邦全軍の業務受託基準のセキュリティカテゴリレベルでの機密保全事案とお考え下さい。ついでに…NBでも防諜対象となりますが、我が社の商機を逃すべからずと思い、敢えて将来の関係者となる機会選択権を皆様に提案したいかと。要は、身内のよしみでギリギリヤバくない程度にうまい話バラします。乗る乗らんは皆さん次第や!という事ですわ武内さん。あとこの話漏らしたら司法局員か警務が来ます。本当に来ます。憲兵くん来ますよケンペーくん」まぁ、警務はいきなり日本刀で斬殺したりせんけどな。

「お嬢さ…高木取締役がそこまで言われるなら相応の話ですわな」

「もちろん。恒星間航行に関する革命的な技術進展の可能性に絡むから軍事機密なだけです。で、あたしが時々乗ってきてるNBの空母でアークロイヤルという船ありますやん」

「はいはい、あのデカいの」

「あの船…アークロイヤル級は船内の仕切りや床板を外したり畳むことでコンテナ船やRORO船、はたまたバラ積み船バルカーとしても使える、これもうちの社員には割と知ってるのも多いでしょ。特に武内部長なら部下も含めて、何度も荷下ろし荷捌きのために船倉に立ち入っておられるから、あの船のだいたいの作りはご存知ですよね?」

「ええ、軍艦にしてはなんかけったいな作りやなあとは思いましたけど」

「ふふ。あの艦は流石に軍艦構造でして、船体や隔壁は二重以上、主要区画のダメコン…ダメージコントロールは多重にされていて、攻撃を受けても被害を少なくするような重装備です。逆に言うと、その分、建造費がかかっています。田中部長でもその辺はお分かり頂けますよね?」

「はい、流石に私でもそこまで説明してもらうと理解はできますわ」

「で、仮に…ですよ。アレのコストダウンバージョンで完全な貨物船や貨客船設計に変えた民間仕様が大量に作られたとしたらどうなります?武内部長、特にあなたはわたしや艦長から、アレがどう凄いか聞かされてますよね?」

「はい、軌道エレベーター使わずに地球に降りたり宇宙まで出ていける。貨物船倉の重力や気圧や温度は地球の上と同じに保てる。そして…ワープする時に起きてたままでええ、これが一番すごいと」

「よろしい。よう覚えてはりました。で、あたしが前に乗ってた貨物船だと、地球からプロクシマ・ケンタウリ港まで片道1月かかりました。採算度外視で急いでも2週間。軍艦でも何日かはかかります。では、アークロイヤルならどれだけの時間で着くと思いますか?はい三田村課長、悪いけどちょっと考えてみてください」ふふふふふ。

武内さん。ニヤニヤしない。ええ、武内さんは正解を知ってます。だからニヤニヤしているのです。

「えー、私は宇宙船に詳しくないのですが…」

「構いません。当てずっぽうでも間違っていても、それを非難する場じゃありません。大丈夫、とりあえずヤマカンで答えてみてください」

「えー、では…1日でどうでしょう」よし、なかなかや。

「うーん、惜しいと言うか、実はね。1分。もう一度繰り返して言うけど、1分。ちなNBまでも1分やから」

その瞬間、あたしと武内さん以外の全員が固まりました。

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