第12話 討伐リストの妖魔

 住宅街を抜け、ニュータウンの造成地に来た。

 一段高い位置でアームを下げて停止しているショベルカーが、背後に月を背負い、巨大な怪物のように見えた。


 今にも動き出しそうだと考えながら歩いていると、なんと実際にショベルカーのアームが回転をはじめた!


 「待って。妖魔よ」


 小雪に言われるまでもなく、僕は立ち止まった。というより、高速回転するアームに驚き、度肝を抜かれて立ち尽くした。


 「よ、妖魔はどこに?」

 「あれ。ショベルカーの後ろ。アームを回してる」


 小雪は夜目がきくようだ。目を凝らしていると、確かに、手が異常に長い妖魔が巨大なショベルカーのアームを一回転ごとに手で押して回している。


 「ぐぇへへへへへへぇ、おもしれぇおもしれぇ」


 遊んでいるのか、回すことに夢中のようだ。


 「こっちに気づいていない?」

 天登あまとが小雪に聞いた。


 「いいえ。気づいて、力を誇示してる」


 「ぐぇへへへへぇ、お前らにこれ、あーげる!」


 鉄板を鈍器で殴りつけたような鈍く大きな音があたりに響き、ショベルカーが宙を舞った。

 天登あまとが信じられない光景に唖然としていると、小雪に腕を掴まれ、後ろに一緒に飛び下がり、天登あまとは尻餅をついた。

 目の前にショベルカーが横倒しで落下し、外れた部品が跳ね飛ぶ。立っている小雪は見切ってかわし、思わず伏せた天登あまとには、幸い当たらなかった。


 「俺のプレゼントもらってくんねーのかよぉ! おじょーちゃーん」


 よくみるとこの妖魔は目が頭頂部にあり、口が大きく裂けている。両腕が地面につきそうなほど長く、胴も異常に長い代わりに、足が極端に短い。もはや人の形状ではなかった。


 「この妖魔は、ワシル……」

 小雪が呟いた。


 「おじょーちゃーん、俺のこと知ってるなんてー、さては俺のことー、好きだなー、でへへへへへ!」


  「コイツは、要討伐妖魔リストに挙がっている。6血。相当人を殺してるし、破邪士も食われてる。能力は、尋常じゃない怪力。力だけなら、8血をも凌ぐ」

 小雪が天登あまとに説明した。


 「夜回りってそんなレベルのやつも出るの!?」


 「このレベルは、私も初めて。ちょっと、危ないかもしれない」


 小雪の声は冷静だったが、天登あまとは彼女の足が震えているのをみた。

 (相当に強い小雪が、恐怖している。)

 天登あまとは衝撃を受けた。

 (小雪が震える相手に、俺たちだけで勝てるのか? しかし、男の俺がしっかりしないといけない!)


 「小雪、今日は君一人じゃなく、二人なんだ。俺たちなら負けない」

 天登あまとはほとんど自分に言い聞かせていた。それでも、なんだか力が湧き出てくる気がした。両手には心気が集まってきている。


 「うん」

 小雪が刀を抜いた。

 大丈夫だ。彼女の切先は、微動だにしていない。落ち着きを取り戻したようだ。


 「よし! 遠隔攻撃を開始する! こいつはおそらく、自分から接近してくるタイプだ。小雪は力を溜めながら、奴の接近に合わせて切ってくれ。それまでは、俺が奴の体力を奪う!」


 「うん!」


 天登あまとは思いっきりの心気弾を放った。

 「いっけぇ!」


 今まで一番の一発だ。敵との距離は50m。放ったあと、着弾を確認する間もなく、連射を開始した。片手あたり、3秒間に1発ずつぐらいのペースで放つ。


 「連射は高等技術……。大丈夫?」


 「大丈夫! まだまだ!」


 天登あまとは打ち続けた。

 砂埃がもうもうと舞う。ワシルの様子はわからないが、当たっている手応えはある。


 1分ほど経過した。かなり打ち込んだはずだ。岩をも抉る弾丸をこれだけ打ち込めば、およそ生命と呼べるものは跡形も残らないはずだ。


 「はぁ、はぁ、やったか……?」


 造成地で舗装されていない分、砂埃が多い。視界が回復するのに時間がかかる。

 天登あまとが目を凝らしていると、小雪が叫んだ!


 「上!」


 なんとワシルが上空から落下してくるではないか! それに、ショベルカーを持ち上げ、共に落下してくる!


 「げへへへへ! やってくれたな!! お返しだ!」


 ワシルは持ち上げたショベルカーをこちらへ投げ落とした。

 高速で落下してくる巨大なショベルカーを、天登あまとたちは必死の思いでなんとか飛び下がってかわした。まさにギリギリだ。

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