第11話 夜回り
「夜回りでは、妖魔と実際に対峙し、『戦闘』をすることになる。だから、
「はい」
「と言ってもシンプルよ。心気をためて、放って、当てること」
「はい」
「戦闘のタイプは、相手に接近して物理的な攻撃でダメージを与える近接型と、心気弾や弓矢•銃とか、飛び道具で攻撃する遠隔型がある」
「
言われたことは簡単だが、初めての戦闘だ。本当にうまくいくだろうか。
「不安は当然ね。まあ今のは指針みたいなもので、戦闘なんて想定通りにいくことなんかまずない。想定を持っていること自体が、臨機応変な判断を妨げるとさえ言える。その辺は経験と勘とセンスの世界ね。そこは小雪先輩に頼っていいわよ」
「ね、小雪」
刀の手入れをしながら、小雪は黙ってうなづく。
「そして、はい」
「言ったように、戦闘は指針通りにいくはずがない。遠隔攻撃だけしか知らないあなたに、近接攻撃をしてくる妖魔が必ずいる。その時は、この刀で応戦しなさい。あくまで護身用」
「はい、ありがとうございます」
昨日ここに来てから、初めて敷地外へ出る。
いつも通っていた近所の道なのに、大海へ漕ぎ出すような緊張感がある。
そんな心とは裏腹に、辺りは何の変哲もない。
「普段と変わらないようだけど、本当に妖魔が出るのかな?」
「もう、妖魔に見られていると思った方がいい。行きましょう」
ルートは、神社を出て東進し、住宅街を抜けて、丘の上のニュータウン造成中の工事現場を目指す。
そのあと南進し、街の外れを東西に流れる川にかかる橋を渡って、川沿いに西進。
中学校前の交差点で右折して北進し、神社に戻るという経路だ。
普通に歩けば20分ほどだ。
住宅街に差し掛かった。
午後10時。
家々に灯りはついているが、空調を効かすためか窓を閉め切っている家が多く、静かだ。
5分ほど歩いた時だった。
小雪は刀の柄に手をかけ、上を見ている。
「あそこ、屋根の上」
「あっ!」
「!」
よく見ると、正面、左右それぞれの屋根に、待ち伏せている妖魔がいる。合計3体。
「心気をためて。歩きながら」
小雪に言われ、
「私が合図したら、左右の妖魔を撃って。正面は、私が」
「りょ、了解……」
声が震えて情けない自分を自覚する。
小雪は落ち着いているようだ。
妖魔との距離が20mほどに迫った時、三体が同時に動いた。機敏だ。こちらに向けて飛びかかってくる。
「獲物だぁぁ! 死ねええ!」
「若くてうまそうだっ!」
「げへへへへへ!」
「今っ!」
小雪の合図に、
(俺が放った心気弾は? 当たったか?)
左を見ると腹に風穴が空いた妖魔が吹っ飛んでいくのが見えた。
(右は?)
煙だけで、様子がわからない。
風が煙を散らし始めた。
獰猛な爪を生やした左手を突き出し、飛びかかってくる。右腕は千切れかけている。心気弾が掠ったのだ。
(速い!心気を込める間がない!)
(やばい! やられる!)
と感じたとき、妖魔の腹から刀が突き出てきた。
「ぐえぇ・・・!」
うめき声をあげ、妖魔が倒れた。
その後ろに、小雪がいた。
小雪が刀の血を払いながら言った。
「大丈夫?」
「あ、あぁ、危なかった、ありがとう」
初めて自分が参加した戦闘に、まだ手も膝も震えている。
倒れた妖魔は、煙のように蒸発していく。
この時、一瞬だが悪臭が伴う。
「さ、行こう」
小雪が言う。
彼女は相当慣れている。
美しい横顔からは、あんなに激しい戦闘をやってのけた者と同一人物だとは思えない。一瞬で2体の妖魔を葬ったにもかかわらず、涼しい顔だ。
「小雪は、怖くないの?」
「別に」
「これまでは一人で夜回りに?」
「そう」
「危ないことはなかったの?」
「毎日、危ない」
「そうだよね。でもそんなに落ち着いていられるなんて、すごいよ」
「君も、慣れるよ」
「さっきの妖魔は、
「4血ぐらいかな」
「あの恐ろしさで、たった4!?」
驚く天登を尻目に、小雪はスタスタと歩き出した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます