第28話 スクランブル
ベッドがギシギシ軋む。
「あっ! だめぇ! あっ! あっ!」
霧島さんが俺のベッドの上で体をビクっとさせた、彼女には相当のダメージ、紅潮した顔と濡れた瞳で俺を見る。
「あっ! やばっ! 狭っ、動けないって!」
体がのけ反っちまった、初めでだからしょうがないけど全然上手く出来なくて俺は未だに彼女を満足させられないでいた。
「違っ! そこじゃないよミナ君っ! 上っ、上ーっ!」
「あっ!!」
画面上の俺の機体が吹き飛んで残骸が地面に落下する。
「えっ? もう終わり⁉ これじゃ全然先に進めないよーっ!」
単機になった霧島さんが敵の集中攻撃に遭い、耐え切れずに爆発して口を尖らせた。
「ごめん、もう一回やらせてくれ……今度はちゃんとやるから」
モニターにコンティニューのカウントダウンが表示され、俺は頭を抱えた。得意だったはずの『スーパー合体ロボ』に悪戦苦闘している俺に霧島さんは若干不満気味。
ベッドの上で隣合わせで座りながらかれこれ二時間が経過していたが、俺たちは未だ最終面に到達できずにいた。
「ミナ君、少し休憩入れようか?」
「ああ、流石に疲れたし……」
俺はテーブルに手を伸ばし、しなしなになったフライドポテトを口に放り込んでベッドに背中から寝転んだ。
「私も疲れちゃった」
ベッドに腰かけたまま伸びをして体をねじる霧島さんに俺はドキッとしてしまった。綺麗な脇の下にピンクのブラがチラ見えしている。パンパンに張った胸にノースリーブの白いシャツが引っ張られてわき腹が顔を出し、色白で細いウエストを意図せず晒した霧島さんはそのまま俺の真似をしたかのようにベッドに背中から倒れ込み、横に寝転ぶ俺と視線を交わす。
「ごめんねミナ君。私、ムキになっちゃって……」
彼女は俺に体を向けて微笑んだ。
「全然気にしてないよ」
俺も霧島さんに体を向けた。
「ねえ? 次は違うキャラ使おうよ、エクロスのキャラなら恋人同士だから絆合体が強いし」
「ガングレンの男の友情合体よりも強いの?」
「強いよ、合体時ならゲーム最強キャラだし……」
「えっ? そうなの? 恋人の方が強いんだ……」
「恋人か……。ねえ? ミナ君って好きな娘とかいるの?」
霧島さんが俺にグッと近づいて言った。
「へっ? 居ないけど? どうして?」
俺の問い掛けに霧島さんは固まったように黙ってしまい、視線を思いっ切り逸らした。
「べ、別に……ただ聞いただけだよ」
霧島さんは急にベッドから飛び起きると「ケーキ食べよう? すっごく美味しんだからっ!」と言って俺を両手で引き起こす。
「お茶無いかな? 出来れば紅茶!」
「多分あるよ、ちょっと待ってて! 今、用意するから」
俺が部屋を出て階段を下りると霧島さんの声が聞こえた。
「ミナ君、お皿とフォークもお願いっ!」
「オッケー!」
俺は二階に向かって叫んだ。
◆ ◇ ◇
部屋に甘い香りと紅茶の香りが混ざり合う。
小さなテーブルを挟んで俺と霧島さんが向かい合って床に座り、ケーキを食べている。
有り得ない! あり得ないって! 俺の部屋で女の子がぺたん座りでケーキを食べてるなんて。
霧島さんは時折「むふーっ!」と嬉しそうな声を出してフォークを咥え、ケーキを堪能していて見ていて飽きない。
紅茶のカップを口に付けた霧島さんの眼鏡が曇って真っ白になった。
「あーっ、見えない」
スッと眼鏡を取った霧島さんの素顔に俺は言葉を失った。
シャツで眼鏡のレンズを擦る霧島さんは二重瞼の大きな目が美しく、細い鼻筋から唇までが綺麗に並び、まさに端正な顔立ちといった感じの小顔な美少女だった。
えっ……霧島さんってこんなに可愛かったのか⁉
眼鏡を掛け直した霧島さんが、呆然と眺める俺の姿に目をパチクリさせて不思議そうに首を傾げた。
「ミナ君の、食べていい?」
「へっ? 何を⁉」
「ケーキだよ! ミナ君は食べないから」
俺はクスクス笑う霧島さんに自分のケーキの皿を近づける。
彼女はケーキをフォークで削り、口に入れて悶絶する。
「こっちも美味しい! そうだ! ミナ君もどうぞ」
フォークで自分のケーキを切り取り、俺の口元に差し出した霧島さんが笑顔でこちらを見つめた。
俺は言われるがまま口を開けてケーキを食べさせてもらい、急に恥ずかしくなった。何だよこの恋人みたいな食べさせプレイ……しかも関節キスじゃないか。
俺がドギマギしていると階下で玄関ドアの開く音が聞こえた。
ドタドタと階段を上る足音が近づいてきて俺は喉が詰まりそうになった、この足音って……。
バンッ! と勢いよくドアが開き、嗣葉がいきなり部屋に現れた。
「悠? いいもん貰ったんだよ! ねぇ…………ん⁉」
シーンとした時間が過ぎた、多分数秒間だろうけど永遠のような気まずい空気が蔓延する。ここは誰もが絶句している地獄の空間に他ならない。
「こ、こんにちは……」
霧島さんが長い沈黙を破った。
「は? だ、誰? 何で悠の部屋に女子がいる訳⁉ え? えっ? 誘拐?」
半袖短パン姿のラフな格好の嗣葉は長い脚を晒して失礼なことを口走る。
「友達だよ! バイトで一緒の霧島紗枝さん。で、こっちは高梨嗣葉。俺の幼馴染だよ」
俺は二人に二人を紹介した。
「へぇ? 悠に女友達がねぇ……意外! すっごい意外っ!」
嗣葉は腕を組んで霧島さんを苦い目で見つめた。
「幼馴染か……珍しい、ホントに存在するんだ……」
霧島さんがポツリと言った。
「はぁ? 何? アンタ幼馴染も知らないの?」
嗣葉がヅカヅカと部屋に足を踏み入れ、腰に手を当てて霧島さんを見下ろす。
「いえ……絵に描いたような幼馴染さんに出会えて光栄です」
霧島さんが嗣葉を見上げて微笑む。
「何それ? どういう意味よ!」
おいおい! 何だか風向きが怪しくなって来たぞ。
「つ、嗣葉! 出てってくれないか? 話は後で聞くから!」
俺は立ち上がって嗣葉を押し返して玄関に向かう。
「ちょっ! 何よあの女! アンタあの女と付き合ってんの?」
背中を押された嗣葉は振り向きながら俺を睨み付け、不満をぶつける。
「バ、バカ! そんなんじゃ無いって! 霧島さんはゲーム攻略で来ただけだって!」
「あっそ! バカ悠! じゃあ、何であの女の肩持つのよ!」
「いやいや、客が来てんのにいきなり入って来た嗣葉が悪いだろ!」
「そんなの知らないわよ! ヲタクボッチの悠の部屋に友達なんて来たこと無いじゃない! 居るなら居るで連絡してくれないと困るんだけど!」
「何でいちいち嗣葉に報告しなきゃなんないんだよ?」
「うっさいわねぇ! ちょっとは気い使えって言ってんの! これじゃぁ私が邪魔したみたいじゃない!」
無茶苦茶な理論で押し通そうとする嗣葉に呆れる。そりゃ、今までは幼馴染の特権で顔パスで部屋に入るのを許してたけど、こうも当然とばかりに言われると腹が立つ。
嗣葉の声がどんどん大きくなり、二階にいる霧島さんに話は丸聞こえだろう。最悪だ、恥ずかしいし、嗣葉との関係を誤解されそうでソワソワして来る。
「と、兎に角後でな!」
俺は嗣葉を玄関の外に追い出して鍵を掛けた。
「もう、知らないからっ! バカ悠っ!」
でっかい声が外から聞こえて俺はたじろいだ、何をキレてんだよ? キレたいのはこっちだっての!
大きなため息が出た。
「何なんだよアイツ……マジで疲れる」
俺が階段を上がろうとした時、上から霧島さんが下を伺っていて気まずい雰囲気になってしまった。
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