第13話 イーストチルドレン⑨アルのお気に入り
1日置きにアルはやってくるようになった。アルは働きに行かなくていいみたいだから、わたしたちに付き合って、森に収穫しに行ったり罠を仕掛けるのを手伝ってくれた。
ビョンは討伐隊により退治され、通報した報酬で銅版1枚ももらうことができた。これで冬支度ができるとみんなで喜んだ。アルにも分配する気でいたが、アルは辞退した。そのうえ来る時に必ずお菓子を持ってきてくれるようになった。お砂糖をたっぷり使った甘いお菓子で、上等なものだ。
罠の仕掛け方も、獣のシメ方もアルがいろいろと教えてくれて、わたしたちはどんどん上達したと思う。大きいか小さいかの違いはあっても毎日1頭は何かしら獲ることができて、ギルドにおろしている。雪が降ると森には行けなくなる。薬草などももうあまり穫れなくなってきていて、けれど森に足を運べるうちはできるだけ収穫をしたい。ベリーの類もみつけたら全部バッグちゃんに入れてきた。もし砂糖を買えたらジャムを作ろうと思う。
獣が獲れるとお肉は半分は売り、半分は持ち帰るようにした。持ち帰ったお肉も塩に漬け込んで保存用のものを作ったりした。カイがパンではなくて小麦粉を買ってきてくれるようになったので、スープに小麦粉を練ってお団子にして落としたり、うどんみたいなものを作ったりした。森でとってきた野草や仕事帰りに持ってきてくれたクズ野菜でスープを作り、塩漬け肉を出汁にスープを作れば体もあったまるご馳走になった。匂いが届くのかスープを食べたいと言ってくる大人がいて、野菜など何かしらとの物々交換でスープを渡したりした。少しずつ潤っていって、スープだけだけど、朝晩と食べられるようになった。
今日はカートンとミケはギルドに呼び出されているので、アルと2人で森に行くことになった。
寒くなってくると、森に行くのは辛くなってくる。
かじかんだ手に息を吹きかける。
「こっちの手貸して」
アル側の手を持たれ、手を繋ぐと、その手を上着の中にいれる。
え。
「あ、アル、いいよ」
「寒いんだろ? こうするとちょっとはあったかくないか?」
「あったかいけど……」
「けど?」
「歩きにくいし」
恥ずかしいと何故か言いにくく、無難なことを言ってみる。
「歩きにくいぐらいいいだろう、寒いより」
上着の中で指をギュッと結ばれる。
「フィオはさ、何でそんなに頑張るの?」
「頑張る?」
「罠を仕掛けたり、採集したりさ」
「ああ、お荷物だからね。いっぱい獲ってお金にして、みんなでちゃんと食べられるようになりたいし」
「食べられる?」
「成長期はいっぱい栄養を取らないとなんだよ。だから一日一食じゃなくて、ちゃんと食べられるようになりたいんだよね」
「家族でもないのに、何でそんな一生懸命になれるの?」
「受け入れてくれた仲間だから。もう、家族みたいなもんだよ」
アルを見上げれば、彼は真剣な顔をしていた。
「僕は?」
「え?」
「僕は? 僕はあそこで暮らしていないから、仲間じゃない?」
アルは淋しいのかなと思った。
「アルも仲間だと思ってるよ。アルは魔物と遭ったときオレたちを守ろうとしてくれた。それ以外にもいっぱい助けてもらってるしね」
「僕も仲間?」
「うん」
「じゃあ、僕が助けて欲しいときは助けてくれる?」
「うん、もちろんだよ」
そう伝えると、アルは破壊力ある笑顔を向けてきた。
思いに嘘はなかったけれど、アルに助けが必要なことが起こるとはわたしはこれっぽちも思っていなかった。
「前から不思議だったんだけど、フィオは何でいつも顔を汚しているの?」
「みんなに汚しておけって言われてるんだ」
アルは首を傾げる。
「汚れてない方が可愛いのにね」
「可愛くなくていいから、全然かまわない」
「妹みたいな子がいるんだけど、フィオにそっくりなんだ。フィオの方が下だろうからフィオが似てるのかな」
「オレと似てるの?」
アルはうんと嬉しそうに笑う。
「とっても素直で明るくて優しい子だよ。いつも可愛いドレスを着ていてとても似合っているから、フィオも似合うだろうなと思って」
キッとアルを睨みつける。
「アル! オレ、男だから。ドレスなんか着ないから」
「そう思いたいのかもしれないけど、フィオが女の子っていう事実は変わらないだろ?」
正論だけど、それを認めるわけにはいかなかった。
「……アルはオレから居場所を奪うの? バレたらみんなといられなくなる」
「そのときは悲しいかもしれないけど、その方が君のため……」
「2度とそんなこと言わないで。そんなこと言うアルは嫌い」
駆け出したが、すぐにアルに追いつかれて手を引っ張られた。
「わかった。言わないから嫌わないで」
振り返ると、泣きそうな顔をしていた。
「言わないでくれれば……いい。嫌いっていうのは嘘。ごめん」
バツが悪くて謝れば、微笑んでくれた。
それからは何だかギクシャクしながら採集をした。夕方まで森にいて、わたしを家まで送り届けてくれた。
「じゃあ、また」
いつもと同じ笑顔だったけれど、それからアルはパタリと来なくなってしまった。冬支度で忙しいのだろうと思い、それから少ししてから雪が降りはじめたので、それで来ないのだとわたしは思っていた。
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