第6話 イーストチルドレン②夕ご飯
「ボス、お帰りなさい……」
カイに声をかけた少年は、後ろのわたしに気付いて目を大きくする。
薄い金髪に優しいグリーンの目をした男の子だ。
「こいつはフィオ、だ。ひとりでいたんだ」
「ちっちゃいね、いくつ?」
「6歳」
尋ねられて答えると、グリーンの目が大きくなる。
「もっと下に見える。一個下には見えないな」
そうか、彼が7歳のミケだ。
「おれはミケ。よろしくね」
「よろしくお願いします!」
わたしは頭を下げた。ミケの耳までも背は届いてないだろうから、やはりわたしは小柄みたいだ。
「悪いけどミケ、いろいろ教えてやってくれるか? カートンはどうした?」
「何か作るのに材料が足りないって森に行った」
カイが頷いている。
それからみんなが戻ってくるまでミケについてまわり、やることを教えてもらうことになった。
上にシートを被せて作った空間は中に入ると思ったよりも広々としている。奥に壊れたチェストがあり、これにみんなの荷物を入れているそうだ。わたしも端っこの空いていたスペースをもらって、そこに風呂敷を入れさせてもらった。
「フィオは何ができる?」
尋ねられて愕然とする。わたし、何ができるんだろう? いや、多分できない。
「で、……できることがわからない。でも、なんでもやるから!」
勢い込んで言うと、頭を撫でられた。
「できないなら出ていけなんて言わないから大丈夫だよ」
ミケはにっこりと笑う。
「でも、いろいろやってもらうよ。おれたちはお金を稼げないからみんなの役に立とうね」
わたしはうんと頷いた。
一通りテント内のスペースのあり方をきき、夕ご飯の準備だ。
水瓶の水をお鍋に移す。朝一番に、井戸から水を運びこの水瓶をいっぱいにするのが、1日の最初の仕事らしい。
火打ち石で火を熾すのを任されたが全然つかなくて、日が暮れるからと取り上げられ、今後の課題になった。焚き火セットに火を入れて、その上に鍋を置く。お湯を沸かす間にしなびたキャベツみたいのをちぎっている。わたしがじっと見ていると教えてくれる。
「夕飯は野菜入りのスープにする。稼ぎが多かった時はパンを買ってきてくれるけど、今日はどうかな」
「野菜は?」
「うん、この葉っぱ野菜だ」
キャベツのみ、みたいだ。
「オレ、持ってる」
わたしはテントの中に入り、風呂敷バッグをチェストからだし、探るふりをしながらバッグちゃんに話しかける。
「じゃがいも3個と、にんじん1本、調味料を出して」
調味料類はちゃんと調べてなかったんだよな。ミケが手にしていたのは塩だけだ。持ってるだけすごいのかもしれないけど。
布に包まれたり瓶のそれぞれの調味料を開けてみる。
塩。砂糖。蜂蜜。
瓶にあるのは油とビネガー。
醤油や、味噌はないか。
「小麦粉はある?」
バッグちゃんに尋ねると、目の細い何重にもした麻袋に入った小麦粉が出てきた。コップを使って小麦粉を掬い、新聞紙の上に出してそれを簡単に包む。
調味料はバッグちゃんにしまいこみ、おろし金とナイフを用意して、油を持ち小さめの風呂敷に包んで表へ出る。
「あの、これ」
「どうしたの? じゃがいもと、にんじんだね」
名前一緒だ、よかった。
「途中で生えてたから抜いてきた」
泥だらけだからそう言うと、彼は嬉しそうに笑う。
「わー、今日は豪華なスープになるね」
大きめな樽にじゃがいもとにんじんを入れてお水を注いで野菜を洗う。わたしも手伝って洗う。秋の始まりぐらいの季節だが、水で洗うのは結構辛い。
「それは何?」
ミケに、尋ねられる。
「おろし金だよ」
「おろし金?」
「擦るのに便利なんだ」
「もう一品、作っていい?」
「フィオ、料理できるの?」
「できるかわからないけど、知ってはいる」
ミケはじゃあ一緒に作ってみようと言ってくれた。
じゃがいも1個とにんじん半分はスープに使って、残りのじゃがいも2個をすりおろすつもりだ。
土から抜いてすぐにバッグに入れたからか、芽はなかった。
ちょうどいい大きさの器を借りて、じゃがいもをすりおろしていく。
「おれもやってみたい」
ミケが目を輝かせるので、じゃがいもとおろし金と器をそのまま渡す。
それじゃあスープに入れる方の野菜を切るかとナイフを持ち出すとミケが手を止める。
「フィオ、ナイフ使ったことある?」
「(この世界では)初めて」
「あ、おれやるから、ちょっと待って」
「大丈夫だよ、野菜を切るくらい」
と思ったが、確かにナイフが大きく重たいし、お鍋の蓋を逆さまにしたまな板代わりの上で野菜を切るのは難しそうだ。
「絶対、怪我する。やめてくれる?」
真顔で言われたので手を止める。
「はい」
「これ、楽しいね。で、すってどうするの?」
「粉と混ぜてお焼きにしようと思って」
「オヤキ?」
こっちではないのかな?
「フィオの故郷の食べ物?」
「そんな感じかな」
じゃがいもがあるから芋餅作ろうかなって思ったのだけど、片栗粉がなく小麦粉だともちっと感がイマイチかなーと思い、それならマッシュして芋餅にするのではなく、すりおろしてお焼き風にする方が潔いかと思ったのだ。おろし金もあったし。
ミケの力強い手によりじゃがいもは見事にすりおろされた。
そこに小麦粉を注ぎ込む。
菜箸はなかったのでフォークで混ぜる。塩を結構入れる。
ゆるめの種にしたら、新たにお鍋を熱して油を少し垂らす。
「それ、もしかして油? 高価なんじゃない?」
「持ってたんだ」
熱した油はお鍋の底をゆるゆると動く。9人だから3つを3回かな。
スプーンで3箇所に種を落とし、丸く広げる。お醤油があるといいんだけどね。
ほぼ火が通った状態で初めてフォークでひっくり返す。反対側は色をつける目的なだけだ。焼けたらお皿にとって、新たに3つ種を落とす。
そうこうしているうちに、イーストチルドレンのメンバーたちがひとり、またひとりと帰ってきた。
最初に帰ってきたのが茶色の髪にミケより薄いグリーンの目をしたホトリスだった。
「ただいま」と帰ってきて、ミケが「お帰りなさい」と言ったのでわたしも真似したら、頭を撫でられた。何も聞かれなかった。あまりに自然な流れで名乗ってないと後から気づいた。
次に帰ってきたのが落ち着きのない子で、金髪に茶色い目。
「誰だ、お前?」
大声を出されて、びびる。
「ハッシュ、お帰りなさい。ボスが連れてきたんだ、フィオだよ」
「フィオです」
頭を下げる。
「お前、いくつだ?」
「6歳です」
舌打ちされた。
そこに登場したのは背高ノッポな子で、彼がきっとカイと同じ11歳のセドリックだなとあたりをつける。茶色い髪に、青い目だ。
「チビに威嚇するな」
「威嚇なんてしてねーよ」
「お前の声はデカイから、チビたちからするとそう見えるんだよ」
的確な指摘なようで、ハッシュがおし黙る。その頭をポンポンとセドリックは撫でた。
「「ただいま」」
息もぴったりに帰ってきたのは赤髪の子とオレンジの髪の子だった。
「お前、かわいい顔してんなー、連れ去られないよう顔汚しとけ」
とオレンジの髪の子に、顔に土をつけられた。
え、これは嫌がらせ? 嫌われた?とびびっていると、横からヒョイと覗き込んできた子に、心まで見透かされる。
「嫌がらせじゃないよ、君かわいい顔してるから本当に危険だって話だ」
ミケより少し大きい。青いストレートな髪を長くして後ろで結んでいる。
「カートン、遅かったね。どこまで行っちゃったのかと思ったよ」
彼が手が器用だというカートンか。
「ごめん、ごめん。夕飯の用意すぐ手伝うよ」
「フィオがやってくれたから、大丈夫だよ、もうできてる」
「へー、ちびが頑張ったのか?」
頭を力強く撫でられる。カートンはミケに向き直り尋ねる。
「そういえば、ボスは?」
「役所の手伝い」
カイの姿が見えないと思ったら仕事に行ってたんだ。
「もうすぐ帰ってくるだろ」
ノッポなセドリックがそう言うと、みんな頷いて、テントの中に入っていった。
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