姉さんとお風呂

 今日、露那と出かけはしたが、結局昨日の続きを言うことができなかった。

 露那は全く気にせず、一緒に出かけて遊んでいることを心底嬉しそうにしていたが、俺は自分のヘタレ度に驚きを隠せない。


「奏方、どうかしましたか?」


「え…?」


「姉の勘違いで無ければ、少し奏方が暗いようです」


 どうやら姉さんに隠し事はできないらしい。


「ちょっと悩み事があって…」


「悩みですか…!?姉で良ければ相談に乗りますよ!」


 姉さんは率先してそれを解決してくれようとする。

 俺は姉さんにならと相談してみることにした。


「実は…その前に、この前この家に来た女子のこと覚えて…?」


「はい、確か黒園さんでしたね、奏方とは元恋人だったと」


「あぁ、その通りだ…それで、色々反省してるみたいで、もちろん俺にも悪いところがあるって言うのを飛ぶ鳥を落とす勢いで説明されて、俺はそれに納得したいから改めて復縁したいんだが、それを踏み出せないでいるんだ」


「……」


「…姉さん?」


「あ、すみません…」


 姉さんは一度そう謝るが、その後も少し虚を見つめている様子だった。


「奏方…その、どのようなことで奏方が悪いと言われてしまったのですか?」


「これは本当に俺が悪いんだが、俺が甘えなくて不安だったりとか、俺が騙されそうとかで不安だったり、とにかく俺が原因で色々不安にさせてたみたいで…俺は露那だけに問題があると思ってたんだ、でも俺にも原因があるってことを本当に涙を流しながら力説されて…」


「それは違います!」


 姉さんは力強く言う。


「違う…?」


「甘えないのは奏方の初心うぶでかわいらしいところですし、騙されやすいというのは奏方の純粋さを表しています、何一つ取って悪いところなどと分類されるものではないのです」


「それは…そうかもしれないが」


 それでも不安にさせてしまっているのは事実だ、どうしてもその現実とそれを関連づけてしまう自分がいる。


「本当に、奏方の姉として性を受け持ったのは私の一番幸福なことではありますが、逆に一番不幸でもあります…」


 姉さんはまたも意味深なことを言う。


「奏方!私と…いえ、なんでもありません」


「姉さん…?何もないことないだろ?」


 姉弟、ずっと一緒に居る。

 そのぐらいのことはわかる。


「奏方、一緒にお風呂に入りませんか」


「…わかった」


 いつもなら絶対に断っていたが、今はそんな雰囲気で無いことだけは露那に鈍いと言われる俺でもわかる。

 それに姉弟、年齢は昔とは変わってしまったが、露那と一緒にお風呂に入れと言われるよりは全然緊張しない。

 俺と姉さんは脱衣所で一緒に着替え、俺は腰にタオルを巻き姉さんはバスタオルを体に巻いて一緒にお風呂に入った。

 まさに姉弟水入らず、というやつだ。


「…奏方も大きくなりましたね」


 姉さんは俺の背中を洗いながらそんなことを呟く。

 大きくなったと事で言えば姉さんのどことは言わないがの方が大きくなっていると俺は感じる。

 いつも目のやり場に迷う。


「あぁ…奏方…」


 姉さんは突如俺のことを後ろから抱きしめてきた。


「ね、姉さん!?」


「大好きですよ…」


「……」


 俺はしばらく姉さんのその愛情を黙って受け止めることにした。

 そしてそのしばらくが終わったあと、姉さんは俺の前も洗うと言い出したため、俺は姉さんと向き合う。

 もちろん下半身は自分で洗う。


「…ふふ」


「…姉さん?」


 姉さんは小さく笑った。


「奏方も男の子ですね」


「男の子…?」


「なんでも無いですよ」


 俺は姉さんの言っている意味がわからなかったが、俺は特に気にすることなく、体を洗ってもらった。

 その後お風呂で軽く世間話をして、俺と姉さんはお風呂から出た。


「やはり奏方と入るお風呂は格別ですね」


「そうか…?」


「はい」


 姉さんが全く動じないから俺も特に激しく動じずに済んだ、その点では俺も少しはリラックスできたのかもしれない。


「奏方、これから何が起きたとしても奏方が悪いなんていうことはありませんから、それだけはわかっておいてくださいね」


「何が起きても…?あぁ、わかった…」


 姉さんはもう何度目かわからない意味深なことを言い残すと、俺より早く着替え終えて脱衣所を後にした。

 …それにしても。


「恥ずかしさが勝つかと思ったが、少し姉さんの雰囲気がいつもと違ったせいかあまり気にならなかったな」


 お風呂場に入っていたからだろうか、それとも姉さんも何かを悩んで…


「深読みしすぎるのは良くないか」


 俺は深読みしすぎても良いことはないと判断づけ、俺もさっさと着替えて脱衣所から出た。


「好きですよ…大好きです…この想いは、いつまで…」


「…ん?」


 リビングに入った俺は、包丁で料理をしながら恍惚とした表情で何かを呟いている姉さんの姿を目撃した。

 …姉さんが変わって言えることはわかっていたが、料理中に物に対して愛を…?


「……」


 これは今度真剣に悩みがあるのかどうか聞かないといけないかもしれない。

 その後姉さんはすぐ俺に気づいたらしく、恥ずかしそうに顔を紅に染めた後さっきの二倍ほどの速さで料理を進めた。

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