推しの一押し
あくる日。
学校登校日、通学時。
俺は…通学路で絡まれていた。
誰に絡まれていたのか…そんなことは言うまでもない。
「ねぇ、ちょっとお話があるんだけど、良いかな?良いよね?」
露那だ。
「なんだよ…?」
「…奏くん、私たち相思相愛なんだよね?」
「はっ…?」
「私のこと九割も好きだって言ってくれたんだもんね?奏くんは口だけでそんなこと言ったりしないよね?」
「それはまぁ…言った」
確かにそれは言ってしまったから否定することはできない。
実際束縛してくるところ以外は本当に素敵だと思っている。
「そうだよね…ならそれを踏まえた上で、先週の奏くんの行動、教えてもらってもいい?」
「え、先週?えっと朝起きて学校に行って授業受けて家に帰って寝ての繰り返し…?」
「そうじゃなくて、先週の土曜日の話だよ」
「土曜日…」
土曜日は秋の瀬の家で秋の瀬とゲームをした日だ。
「友達の家に…」
「友達って?濁さないでちゃんと言って」
「…秋の瀬の家に」
「…そうだよね、私との関係もまだ返事曖昧なままなのに私以外の女のところに行っちゃうんだもんね」
「いや、あれは別に恋愛とか関係無くただただゲームをしに……」
「今奏くんの意見なんてどうでも良いの、ただ起きた事実と私の感情を照らし合わせてるだけなんだから」
「……」
そう言われてしまうとどう返答することもできない。
「でもね、だから私が奏くんに今お詫びとして恋人になってって言ったところで、奏くんはその場凌ぎで承諾してくれるかもしれないけど、私が求めてるのはそんなのじゃないの」
そもそも今恋人じゃないのにお詫びする必要…でも九割好きなんてことを言ってしまってるんだから確かにそれぐらい要求できる権利はあるのか…?
あぁ…色々と分からなくなってきた。
「だったら俺に何を求めてるんだ…?」
「…そうだね、私が間違ってたよ」
「え…?」
露那が自分の非を認めた…?
前までならあり得ないことだが今このタイミングで間違ってたと言われるのはそれはそれで気味が悪い。
「英雄色を好むって言うし多分いきなり浮気癖を治してなんて言っても無理なんだろうね、だからとりあえずあの女とだけ今後一切関わらないでくれたら良いよ」
「あの女って秋の瀬のことだよな?」
「うん」
「……」
秋の瀬とは後日ご飯に行くという約束をしている。
また誘いを断るというのは非常に心が痛む。
「…露那、俺に秋の瀬に対しての恋愛感情は無い」
「それが?」
「だから別に俺と秋の瀬が一緒にゲームしてたりしても俺と露那の恋愛関係には何の関係も無いってことだ」
本当にこれに尽きる。
昔から言ってるけどなんでこれが露那にはこんなにも通じないんだろうか。
「…はぁ、前から言ってるけど、なんで奏くんにはこんなにも通じないんだろうね」
露那も何やら俺と同じ考えらしい。
「そうだね…ほら、自分の家の中に誰とも知らない人が居たら嫌でしょ?その人が悪人じゃなかったとしてももしかしたらいつか物を盗まれたり悪戯されたりするかもしれないし、そういうのを防ぐために鍵っていうものが生まれたんだしね」
「それはそうだが…」
「それはじゃないよ、一緒、仮に奏くんに恋愛感情が無くて相手にも恋愛感情がなかったとしてももしかしたら、何かの間違いで奏くんがその女と浮気するかも…ううん、これは建前、私は奏くんが他の女と喋ってるのを見るだけで本当に気持ち悪くなるの、奏くんには分からないだろうね、この私の想いの強さは」
そう語る露那の目に宿っているのはぐちゃぐちゃに混ぜ合わされた感情だった。
俺は一歩足を引いてしまう。
…違う、落ち着け。
…そうだ、優那ちゃんだ、優那ちゃんを思い出せ。
こんな時優那ちゃんなら…
「…優那ちゃん?」
「…え?」
優那ちゃん…こんな時優那ちゃんなら露那になんて言うんだ…?
「……」
想像…できない。
「…奏くん」
「…えっ」
「私と付き合ってくれるよねっ!」
「っ!?」
おかしくなってるのか…?
今一瞬露那の声が優那ちゃんの声に聞こえたような…
…もしかしたら俺の心の中の優那ちゃんが臆病な俺の背中を押してくれているのかもしれない。
そうだ、そうに違いない。
優那ちゃんの声で優那ちゃんに背中を押されてるのにそれを断ることなんてできるわけがない。
それなら…
「あぁ、もちろんだ」
「ほんとっ!?」
「あぁ」
「やったぁ〜!」
露那は嬉しそうにしている。
…そうだ、露那だって変に俺が反抗したりしなかったら普通にちょっと愛が強いだけの女の子なんだ。
…ちょっと?…あれがちょっと……
やめろ、雑念は消すんだ。
ここ最近笑顔になってなかった露那が笑顔になって、俺だってこれでスッキリする、万事解決だ。
「奏くんっ!復縁記念のキスしよ!」
「キス…!?」
「そんなに驚くことかな?前付き合ってる時は普通にしてたよね?」
普通にはしてなかったと思うが…
でも…そうだな、復縁したんだ、キスぐらいしても良いだろう。
「あぁ、わかったキスをしよう」
俺と露那は、周りに誰もいない通学路で、顔と顔を近づけた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます