ペア成立

「…そんなに難しい質問かい?君が考えているほど深くは無いよ」


 そんなことを言われてもな…

 質問が抽象的すぎてどこにゴールがあるのかがわからない。

 …一条の気に触れないよう気をつければ大丈夫だろうか。


「かっこよくて頭の良い紳士…?」


 もしかすると多少棒読み気味だったかもしれないが、一応言葉だけ聞けば気分は悪くならないはずだ。


「っ!素晴らしいっ!今日から君は盟友だっ!」


「…は?」


 しまった…できるだけ初対面の人に対しては良好な対応をしたかったが、あまりにも意味不明すぎて疑問の声を漏らしてしまった。


「そうだっ!黒園さんにはフられてしまったし、僕とペアになろう!」


「え…?」


 一条から今日の体育でペアになろうと言われてしまった。

 そして俺と一条のやり取りをずっと真隣で聞いていた秋の瀬がそれを聞いて口を開いた。


「一条くん、悪いんだけど天海は私とペアを……」


「ちょっと待って」


 さらにそのやり取りを遠くから見ていたらしい露那がこちらに近づいてきた。


「奏くんは私とペアになるから、悪いけど他を当たって…ね、奏くんっ!」


 俺はもうすでに秋の瀬とペアを組むと言ってしまっている。

 …正確には組むとは言っていないが考えると言ってしまっている。

 あれからまだ全然時間が経ってない状況下で露那が出てきた途端に考えるのを放棄して露那とペアになるなんて言ってしまったら俺は秋の瀬に最低の烙印を押されてしまうだろう。


「……」


 秋の瀬が睨みを利かせてくる。

 それは露那のように怖い目つきではないのだが、それでも俺の何かを駆り立たせるものがあった。


「露那、その…悪い、今ちょっと秋の瀬と組もうかどうかって話になってるんだ」


「…え?」


 露那は疑問の声を漏らす。

 その声の直後に、一条も口を開いた。


「おや?そうなのかい?残念だなぁ、まぁ、盟友と語らえる時間は体育の時間だけじゃないだろう、また声を掛けさせてもらうよ、天海くん」


 それだけを残して一条はどこかへと歩き去ってしまった。

 …本当に良く分からない人だな。

 …まぁ、今の俺はそれどころでは無いだろうが。


「奏くん…?どういうことなの…?私とペア組まないの…?」


「…もちろん組みたく無いってわけじゃ無いんだけど……」


「私が天海と組むから〜!」


 秋の瀬は俺と露那の間に割って入るようにしてきた。


「…今私奏くんと話してるんだけど」


「だから私が天海とのこと話してるじゃん?」


「奏くんとのことを秋の瀬さんと話したいんじゃなくて、奏くんと話したいの」


「私が話しても同じ……」


 二人が話し合いを始めようとしたところで、チャイムが鳴り。


「お前ら、席に着け」


 先生が静かに教卓に立つと、特に俺たちのところに目を利かせて言った。


「……」


「……」


 二人は釈然としない様子だったが、これ以上話し合いを続行しようとしたところで悪目立ちすることにしかならないと分かっているからなのか、二人とも自分の席に戻った。

 もちろん俺も自分の席に腰を下ろした。


「早速だが男女に別れて着替えに入ってもらう、女子は女子更衣室、男子は男子更衣室だ、集合場所は体育館だ、それまでにペアを組んでいてくれ」


 先生はかなりハードなことを言う。

 こういうのは友達が少ない人からするとかなり厄介な展開だろう。

 …俺も一応友達が少ない部類の人間だが、今回はペアを組めないという窮地からは免れることができるだろう。

 露那と秋の瀬の件で少し不安はありつつも、やはり一人になることはないという安心感もあり、俺はなんだかんだ安堵しながら男子更衣室で着替えを行なった。

 俺が着替え終わると、もう着替え終わってジャージ姿になっている露那と秋のせが男子更衣室の前に居た。

 ジャージは男子なら青、女子なら赤とまぁなんともわかりすい仕様である。


「奏くん、行くよ!」


「天海、行こ!」


 二人はほぼ同時に口を開いた。


「私の方が早く言った」


「私の方が早く言ったし〜!」


「ちょっ…分かったから三人で一緒に行こう」


 こんなところで騒いでいても迷惑にしかならないため、俺は二人と共に体育館に促進する。

 こんな調子じゃ体育館に着くまでにペアを組むなんて不可能だ…

 案の定、俺のその考えは合っていて、俺たちはペアを決定することができなかったまま体育館に着いた。


「…ん」


 他の人たちは二人組なのに引き換え、俺たちは三人で体育館に来ている不自然さから俺たちが目立ったのか、先生がこちらにやって来た。

 怒られる…のか?

 先生は元々印象だけで言うと怖いため、怒っているところを見たことはないがきっと怒ったら冷徹最恐女教師になってしまうことだろう。

 俺はそれを覚悟して先生と目を合わせる。


「…お前たち、三人か」


「はい…でもすぐにペアに……」


 俺が弁明しようとしたところで、先生が衝撃の事実を発する。


「いや、このクラスの人数は31人、必然的に一グループだけは三人になる」


「…え?」


「つまり、今日の体育の授業は、お前たち三人でグループになってもらう」


「…えぇ!?」

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