第8話 全滅した黒ネズミと無傷の赤ネズミ。

「とりあえず……黒いネズミは全員退治できたみたいですね」


 不知火しらぬいは、メガネを取ると、制服の胸ポケットから真っ白なハンカチを取り出してメガネをふきはじめた。


 ゲームかなんかだと、戦闘終了のファンファーレが流れるようなモーションだ。


「おい不知火しらぬい!! お前、最後の方、手ェ抜いてただろ!」


 俺は気取ってメガネをふく塩顔系イケメンにピシャリと言い放った。

 すると塩顔系イケメンはメガネをかけなおして、気取った手つきで真っ白いハンカチを折り畳みながら反論した。


「そんなことないですよ。エネルギー温存のためです。戦略的かつ合理的な行動です」

「なんだよ、その屁理屈! ラクしたかっただけだろ!!」

「ちがいますって! 僕の【熱釘フレイルネイル】は、指を燃焼させて熱線に転換しているんです。だから使用した後は、指が欠損します。ホラこんな具合に」


 そう言うと不知火しらぬいは、拳銃をかまえるみたいに右手の人差し指を突き出すと、黒板に向かって熱戦を発射した。

 本当だ! 不知火しらぬいの右手の人差し指の第一関節から先がなくなっている!


「ちなみに今のところ熱戦は右手の「人差し指」「中指」「薬指」から発射できます。あと、こんな芸当も……」


 不知火しらぬいは、今度はネズミどもが割ってすきま風が吹き込んでいる、グラウンド側の窓に向かって、中指を突き出して熱戦を発射する。

 熱戦は窓を越えてグラウンドに向かった……と思ったら、鋭角に曲がって黒板に激突した。


「第二関節まで消費すれば、熱線を射出後に一度だけ方向を変えることができます。

 これ、ネズミをまとめて焼き殺すのにめちゃくちゃ便利でした」


 不知火しらぬいは物騒なことを言いながら、右手をひらひらと振る。

 その右手には、人差し指の第一関節に加えて、中指の第二関節までがなくなっていた。


 俺は、不知火しらぬいにどーしても聞きたいことがあった。

 質問は2個あったから、最初の1個を質問した。


「その指、治るんだよな……」

「もちろん。〝カロリー〟を消費すれば回復します。ほらこのとおり」


 不知火しらぬいは欠損した右手を左手で隠す。そして、


「ワン・ツー・スリー!」


 と掛け声とともに優雅に右手を差し出した。その右手は、完全に元通りになっていた。


「なんだか、マジックみたいだな」

「種も仕掛けもありませんよ。ただ、回復のがいささかグロテスクなので、お見せしない方がいいかな……と」

「お気遣いどうもありがとうございます」


 なるほどね。1つ目の質問に対する回答を完全に理解した俺は2つ目の質問をした。


不知火しらぬいは、エネルギーを温存する必要があるんだよな?」


「はい」


「だったら! なんで! 今! ここで! 

 無駄打ちをした!? しかも2回もだ!!」


「失礼な! 無駄じゃないですよ!! とても重要なことです。僕の今の能力を君に説明したんです。君に、仲間である僕の能力を正確に把握してもらうためです!!

 なにせこの後ボス戦が控えているんですから」


「ボス戦?」

「はい。しかも2体いるようです」


 俺の質問に、不知火しらぬいはグラウントにある真円の深淵を指差した。


 俺は、目をよーっくこらして真円の深淵に注目した。赤い点がウロウロしている?

 いや、ネズミだ! 真円の深淵に、真っ赤なネズミが2体いる!


「どうやらあの2匹の赤ネズミが、黒いネズミを操っていたようです。

 多分ですが……僕たちはであの赤ネズミを倒さなければなりません」

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