第94話 祭りみたいなもんっすね

「クラス対抗戦?」

「そうっす、兄貴! 例年この時期に行われるイベントで、各学年がクラス同士で競い合って、優勝クラスを決めるっすよ!」


 首を傾げるエデルに、ガイザーがざっくりと説明してくれる。

 アリスが補足した。


「特別に用意された競技用のフィールドを使って、六つのクラスが五種類の競技で戦うのよ。一人が出場できるのは、一つの競技だけ。そして必ず全員がどれかの競技に出なくちゃならないらしいわ」

「その競技っていうのは?」

「あたしも初めてだから、あまり詳しくないのよ」

「右に同じっす」


 一年生であるアリスとガイザーも、クラス対抗戦は初めてのことだ。

 噂で少し聞いたことがある程度で、持っている情報はエデルとそう変わらない。


「次の授業で実際に競技フィールドを見にいくみたいだから、具体的なことも教えてくれるんじゃないかしら?」


 クラス対抗戦は、すでに三日後に控えている。

 この日はその本番に向けて、授業で下見や作戦会議を行う予定なのだった。


「だけど、なんかすごく楽しみっすね! あくまでクラス同士の対抗戦で、勝ち負けが個人の成績に反映されるわけではないらしいっす! だから気軽に臨めばいいって上級生の先輩が言ってたっす! まぁ祭りみたいなもんっすね!」

「団体戦だから、個人の力じゃ限界があるものね。でも、やるからには負けたくないわ」


 そんなやり取りをしていると、教室に担任のシャルティアが入ってくる。

 やけに気合が入った様子で教壇に立った彼女は、力強い口調で告げた。


「それでは事前にお話ししていた通り、本日はクラス対抗戦に向けた作戦会議を行います……が、その前に一つ。このクラス対抗戦は、遊びではありません」

「「「っ!?」」」


 遊び気分で臨もうとしていた生徒たちが、シャルティアの断言でビクッとする。


「皆さん、ここはどこですか? 英雄学校です。英雄になるための学校です。果たして馴れ合いで英雄になることができると思いますか? 英雄の道はそんなに甘いものではありません。この学校に通う同級生たちに負けているようでは、英雄になるなど夢のまた夢でしょう」


 教室内が静まり返り、ごくり、と誰かが唾液を嚥下した音と、シャルティアの声だけが響く。


「英雄になりたければ、常に一番を目指してください。団体戦ですが、それはクラス対抗戦でも例外ではありません。やるからには絶対に優勝しましょう」


 どうやら彼女は物凄くやる気のようだ。


「え? そういう感じなの……?」

「もっと気楽なイベントだって聞いてたのに……」

「……ガチ過ぎる」


 困惑する生徒たちを余所に、シャルティアは告げる。


「そして本番まで今日と明日の僅か二日しかありません。一瞬たりとも気を抜かず、真剣に望むようにお願いします(ラーナのクラスにだけは絶対に負けられません……っ!)」


 ……もちろん、彼女のもう一つの動機など、生徒たちは知る由もなかった。







 そうして二日後。

 クラス対抗戦の日がやってきた。


 対抗戦は二日間に分けて行われ、この初日は一年生から三年生までの下級生が、そして二日目は四年生から六年生までの上級生が、それぞれ競技を行う予定だ。


 そのため競技のない上級生たちの中には、下級生の対抗戦の様子を見学しに来ている者も多い。

 また、外部からの観客も受け入れていて、観客席にはたくさんの人の姿があった。


「今から一年生の競技なのに、随分と賑わってるっすね?」

「例年そういうものらしいわよ? 入学したての一年生はこれが初めての対抗戦だから、どういう生徒がいるのか見ておきたいって人が多いのよ。ただ今年は生徒会のメンバーを倒した一年生が話題になってるから……きっと例年以上の人数だと思うわ」


 もちろんその一年生というのはエデルのことである。

 ただし、ダンジョンの最下層で生徒会メンバーを四人まとめて撃破してしまったことは、公になっていないため、その前のゲルゼスとの一件だけだ。


「なるほど、それであちこちから視線を感じるんだね」


 周囲から向けられる視線の理由を知り、納得するエデルだった。

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