第91話 ダメに決まってるでしょうが

 結界を砕いて外に出てきたアリスは、今まさに剣を振り下ろそうとしているエデルを見て、慌てて叫んだ。


「ちょっ、エデル!? 何しようとしてるのよ!?」

「え? この人を殺そうと思ってるだけだけど? ダメなの?」

「ダメに決まってるでしょうが! ストップストップストップ~~~~っ!」


 しかもエデルが斬りつけようとしている相手は、アリスもよく知る英雄学校の上級生である。


「生徒会第二席、シリウス=シルベスト……なんで、こんなところにいるっすか……? いや、もしかして、オレたちが閉じ込められていた結界って……」


 その人物に気づいて、ガイザーが息を呑む。


「だけじゃないわ。ほら」

「第七席のネロ=ミクロン、それに第四席のセリーヌ=リディオン……あ、兄上まで!」


 生徒会の面々が、あちこちに倒れていたのである。


「まさか、これ、兄貴が……」

「そうとしか考えられないでしょ……」


 状況から考えて、生徒会からの襲撃を受け、それを返り討ちにしたのだろうと、二人は納得する。

 一方、二人のお陰でひとまず命拾いしたシリウスは、わなわなと唇を震わせて、


「一年が、あの結界を破って出てくるとは……」


 どうやら破壊されるとは思ってもいなかったらしい。

 実際、アリスたちを閉じ込めたあの結界は、外側からよりも内側からの衝撃に強いタイプで、牢屋としても利用できるような代物だったのだ。


「そんなことより、本当に殺しちゃダメ?」

「ひぃっ……」

「ダメって言ってるでしょうが! ほら早く剣を下ろして!」


 アリスが慌てて割り込んでいく。


 と、そのときである。

 エデルがボス部屋の入り口の方へと視線を転じた。


「誰か来るね」

「えっ?」


 その直後だった。

 二つの人影が、凄まじい速度でこの部屋の中へと飛び込んでくる。


「こ、これは一体……?」

「……どゆ状況?」


 女性の二組だった。

 どちらも英雄学校の生徒らしく、制服に身を包んでいる。


 一人は白銀の髪が印象的な美女で、エデルたちが良く知る人物とよく似ていた。


「シャルティア先生?」

「……それはわたくしの姉です。わたくしはセルティア。英雄学校六年生、生徒会第三席のセルティアです」


 似ていると思いきや、どうやら姉妹のようだ。

 セルティアは眼鏡をかけていないが、かけていれば見分けがつかないレベルかもしれない。


 もう一人は明るい青の髪が特徴的な美少女で、どことなく眠たそうな目をしている。

 アリスが驚いた顔で呟く。


「フィーリ姉さま……? なぜここに……」

「ん、ありあり、おひさ~」


 フィーリと呼ばれた美少女が、脱力したような返事で応じる。


「知り合いなの?」

「知り合いというか、私の従姉よ。四年生だけど、すでに生徒会の第五席なの」


 新たに現れた生徒会の二人。

 シリウスたち同様、襲撃しに来た可能性も考えられたが、そういう雰囲気ではない。


「な、なぜお前たちがここに……っ!?」


 シリウスもまた、二人の登場に驚いている。

 溜息混じりに答えたのはセルティアだ。


「あなた方の計画を知り、急いで止めに来たのです。どうやらその必要はなかったようですが」

「もしかして。シリウスぱいせんたち、一年に、負けた?」


 フィーリが相変わらず眠そうな目のまま、あっさり核心へと踏み込む。

 それに反論することもできず、シリウスの顔がただただ屈辱と恥辱で紅潮していった。


「……間違いないようですね。噂には聞いていましたが、まさか、第二席を含む生徒会の四人を、たった三人で返り討ちにしてしまうなんて……」

「あ、私たちは何もしてないわ。結界に閉じ込められて、さっき出てきたばかりだから。こいつ一人の力よ」


 アリスが訂正すると、フィーリが横からぼそりと言った。


「言われなくても案件。ありありじゃ、いても戦力外」

「うるさいわねっ!」

「と思いきや。今のありありなら、違うかも? もしかして。ありあり、強くなった?」

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