第35話 君も参加してみてはどうだ

「リンと知り合いなのか?」

「知り合いってわけじゃないかな。後を付けられてただけで」


 セレナに問われ、エデルは包み隠さずに答える。

 するとガイザーが声を上げて、


「うわっ、兄貴! それってストーカーってやつじゃないっすか!?」

「そそそ、そういうんじゃないですっ!」


 それは誤解だとばかりに、慌てて否定するリン。


「って、本当にいたっす!?」


 隠密状態を解いたことで、ガイザーにも見えるようになったようだ。

 一方、リンは頭を抱え、心の中で叫んでいた。


「(い、一体どう説明すれば……っ!? ただでさえ、周りから怪しまれやすい能力なのに、このままでは変態認定されてしまいます!)」

「いや、リンはそんなことをする人間ではない。それは私が保証しよう」

「(っ! 部長……っ!)」


 きっぱりとセレナが否定し、目を輝かせるリンだったが、


「そうだね。もし何か悪意があって後を付けて来てたら、とっくに対処してるよ」

「(ひいいいいいいいいいいいいっ!?)」


 エデルの一言に恐怖を覚えて、全身から汗が噴き出してきた。


「リン? どうした? 凄い汗だぞ?」

「ななな、何でもないですっ!」

「……?」


 そうしてリンの誤解が溶けた(?)ところで、ミーティングが再開となった。


 話を聞いていると、どうやら今週末、この街からほど近いところに存在するダンジョンへ、一泊二日の探索に赴く予定らしい。

 今日はそのための最終調整を行っているのだという。


 ちなみにこの学校では、一週間のうち五日間で授業があり、残り二日は休日になっている。

 休日は生徒たちが自学や部活動など、各々好きなように過ごすことができるのだが、その二日間を利用してダンジョンを探索しようというのである。


「せっかくだから君も参加してみてはどうだ?」

「いいの?」

「なかなか見込みがありそうだからな。編入生だというし、いきなりでも問題はあるまい。ガイザー君の方はどうだ?」

「オレもいいんすか?」

「ああ。二人くらいなら物資もどうにかなるだろう」

「兄貴が参加するなら是非オレも行きたいっす!」







 朝七時。

 ダンジョン探索部の面々が、王都の東門前に集まっていた。


 これからダンジョンに向けて出発しようというのである。

 移動は馬車で、人数分がしっかり用意されていた。


「今回挑むのは王都の東にある下級ダンジョン『千年遺跡』だ」


 同じ馬車に乗ったセレナが、エデルたちに教えてくれる。


「その名の通り、千年前にできたとされる遺跡で、現在は魔物が巣食う危険なダンジョンと化している。下級に指定されているが、攻略は容易ではない。我が部も長期の休みを利用し、幾度となく〝攻略〟を果たしてはいるが、相応のメンバーと準備が不可欠だ」


 もちろん今回はたった二日なので、せいぜい中層まで行く程度だがな、とセレナは続けた。


「すでに何度も探索され、全ルートが把握されているが、ダンジョンは時折その構造を変化させることがある。だからこうして定期的に潜って、それを調べておく必要があるのだ」


 長期休みに行う攻略――ダンジョンを踏破することを指すらしい――をスムーズに行うためにも、それが不可欠なのだという。


 そんなセレナの話を聞きながら、エデルは思った。


「(時折っていうか、基本的に入るたびに構造が変わるものじゃないのかな……?)」


 なんなら、通り過ぎた直後に構造が変化し、来たルートが使えなくなるようなダンジョンも少なくなかったのである。

 ……もちろんそれは魔界のダンジョンのことだが。


 それが常識だったエデルからすれば「全ルートが把握されているとは?」と首を傾げるしかない。


 ちなみに彼が魔界から人間界へ来るのに通過したダンジョン『奈落』は、魔界基準で考えても最高レベルの難易度である。


「着いたようだな」


 そうこうしている内に馬車が停止し、どうやら目的のダンジョンに辿り着いたらしい。

 エデルが馬車の窓から顔を出してみると、そこには草木に埋もれるようにして古びた遺跡が存在していた。

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