四葉の思い
りょーちんと分かれた後、アタシは自分の家に帰る。
何もする気力がなくって、湯船に浸かっていた。
「…………」
脳裏をよぎる、りょーちんの顔。彼の中に夕月ちゃんがいるのが、見えた。好きなんだろうなぁって思って、アタシはさみしい気持ちになった。
「つれーわー……かー……つれーわー……ほんと」
湯船に体をしずめる。りょーちん……諦めないぞと、そう決意したはずだった。どれだけ差が開いてようとも、追いかける気でいるつもりだった。
でも……りょーちんの顔見て、思い知らされてしまったのだ。夕月ちゃんの存在が、大きくなってるんだなって。おいかけてくれなかったのが、ちょっと……いや、大分つらかった。
「べは! はあ……はぁ……死ぬかと思ったぁ……」
アタシは湯船から出て、体を拭く。パンツ一枚で風呂場を出て、リビングへと向かう。
くそでかいリビングにひとりだ。うちはみんな働いてて忙しい。
妹の五和も、友達と出かけてるのだろう。
明日から数日はテスト休みだからな。
「……どーしよっかな」
アタシは冷蔵庫からコーラを取り出して、ソファにあぐらをかく。
んぐんぐ。ぷはー! うめー!
「……は! こういうとこがいかんのか……はーあ……」
夕月ちゃんは、確かにかわいらしい。女のアタシから見ても、普通に美人だ。ふわふわとしたかみのけに、真っ白な肌。
大きな乳房にくびれた腰。所作もとても上品だし、男子の人気もものすごい高い。
……一方で、アタシはこれだもんなぁ。風呂上がりでパンイチでうろついて、コーラ飲んでぷはーだもんなぁ……。
キャラ変更とかしたほうがいいのかな。もっとこう……おしとやかにって。
「でも……りょーちんは、こういうのがいいって言ってたもん……」
文化祭1日目。デートしていたときに。あたしは、アタシのままがいいって。このままのアタシが好きだって。
「脈あり……だと思ったんだけどねぇ……」
どんな物事にも、優劣、勝ち負けってモンはある。アタシは、そういう意味じゃあの人の女になれなかった。夕月ちゃんと比べて劣っていたんだ。女子としてのなんかこう、ステータスみたいなものに。
「…………」
夕月ちゃんに負けた。その事実を受け止めて、さてアタシはどうすればいいんだろうか。
「新しい男……でも作る?」
いつまでも負けを引きずっているんじゃなくて、前へ前へと進んでいく。バスケだってそうだ。一度の敗北から、学び、次の試合に備える。
1回戦、負けてしまった。だから次に……。
「……あれ?」
ぽろ……と涙がこぼれた。胸が痛い。新しい男なんて……。
「無理……無理だよ……りょーちん……」
りょーちんを諦めて、次の男をなんて、考えられない。好き……大好き……りょーちんが……好きなんだ。
振り向いてほしい……振り向かせて見せたい。りょーちんが、好きだから。
でも……もう彼の心に大切な人がいる。そんな状態で……勝てるの?
前は立ち向かう気でいたアタシだけど、今……心が折れかけてる、今、あたしはもう一度、立ち向かえるのかな……。
「りょーちん……好きだよ……」
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