71話 あいりちゃん効果で女子からの好感度あっぷ



 文化祭初日、俺たちの教室に、義妹2号のあいりちゃんが遊びに来た。


「うまうま~♡」


 窓際の席に座っているあいりちゃん。


 笑顔のあいりちゃんに親父が話しかける。


「美味いかい?」

「うん!」


 あいりちゃんが食べているのはクレープだ。

 俺が調理室を借りてささっと作って戻ってきたのだ。


 彼女が口の周りにホイップをつけながら、笑顔で返事をする。


「ぱぱのくれーぷ、とぉってもおいしい!」


「ほほぅ、そんなに? 食べたくなってきたなぁ」


「おじいちゃんも食べる? はいどーぞ!」


「お、せんきゅー」


 親父はあいりちゃんから一口もらって、うなずく。


「うめえわ」

「でしょー♡ ぱぱのりょーりは世界一なのです!」


 あいりちゃんが胸を張って親父にいう。

 

「亮太おまえ、腕あげたな」

「そりゃどーも」


 親父に小さい頃からほっとかれて、自分で料理を作らなきゃいけなかった。


 だから料理スキルが無駄にあがってしまったわけだ。


 親父からほめられても、素直に喜べない。おまえのせいだろという言葉がどうにも口から出かかってしまう。


「パパはね~。デザートも作るの上手なんです!」


 家事、そしておやつは俺と夕月ゆづきとで交代して担当している。


 前は夕月ゆづきに任せっぱなしだったけど、あいりちゃんが来てからは当番制になった。


「ぱぱの料理好きなんだなぁ」

「ううん、ちがうよぉ」


 親父が目を丸くする。


「料理だけがすきじゃないよ。ぱぱが好き! ぱぱの、ぜぇんぶがすき!」


 親父がにかっと笑って、あいりちゃんのあたまをなでる。


「ちゃんと面倒みてあげてるじゃあねえか、やるじゃん亮太。保護者おれより保護者してるぜ」


「ど、どうも」


 これは素直に気恥ずかしかった。なんだよ急にほめるなよ……ったく。


 とそのときだ。


「あのぉ~……委員長? ちょっといい?」


 クラスの女子が声をかけてきた。


「どうした? 何かトラブルか?」


「あ、そうじゃなくってね……」


 女子がおずおずと俺に尋ねてくる。


「あいりちゃんと、少しお話ししたいなぁって。みんなも」


 その場に居たクラスの女子の全員が、うんうんとうなずく。


 あいりちゃんとお話? なんでまた……。


 親父があきれたように言う。


「亮太、わかってねえな。女子は可愛いもんが大好きなんだぜ? あいりちゃんを見てみろよ、この天使のような愛らしい姿! みんな興味あるのよ」


 うんうん、と女子達がうなずく。 

 そ、そういうもんなのか……。


 うちの女子みんな可愛い物より、俺とのセックスや俺の股間のエクスカリバーにしか興味ないんですが……。


 しかしまあ話したいっていうのなら、本人がいいなら許しても良いか。


「あいりちゃん」

「はい? なぁに」


「このお姉ちゃんたちがおまえとおしゃべりして仲良くなりたいんだと」


 あいりちゃんが女子達を見て、ニコッと笑う。


「いいですよー♡」

「だ、そうだ」


 俺と親父は席を立って離れる。

 あっという間にあいりちゃんはクラスの女子達に囲まれた。


「かわいい~♡」「ほっぺぷにぷに~♡」「あーん、天使みたい~♡」


 あいりちゃんがもみくちゃにされている。


 彼女は触られても、嫌がっている様子は全くなかった。


 女子達からの質問タイムになる。


「あいりちゃんって、本名?」

「はい! 飯田あいりです! 小学生です!」


「外国人なの?」

「はい! 海外からきました!」


 あいりちゃんはその後もハキハキと答えていく。


 愛らしい見た目に、明朗な性格に、女子達がみんな骨抜きにされていく。


 一方で、あいりちゃんの身の上話になると……。


「そっか、両親いないんだね」「かわいそー……」「つらくなぁい?」


 とみんなが同情的なまなざしをあいりちゃんに向ける。


 彼女は笑顔で首を振って答える。


「ううん、だいじょうぶです! ぱぱがいるから! あいりはへいきです!」


 女子達が全員俺を見て、温かいまなざしを向けてくる。


「委員長、あんたいい人なんだね」


 最初に話しかけてきた女子……同じクラスの上松あげまつがいう。


「見直したよ」

「見直したって……どういうことだ、上松?」


 彼女が悪びれもなくこういう。


「飯田君が三股してるって噂があったからさ」


 ……そんな噂が!?


「ま、まじか……」

「うん。他にも先生と付き合ってるとか、でかいマンションをやり部屋にしてるとか、根も葉もない噂が流れててさ」


 根も葉もあるんですが……。


「梓川さんにふられて、委員長がグレたってもっぱらのうわさだったんだ」


「はぁ……そうだったのか……」


 なんで夕月ゆづきとか四葉とかは知らないの?


 え、女子の中でもハブられてるの? それともあいつらが俺に黙ってるの……? 


 どっちにしても凹むんだけど……。


 上松はケタケタ笑って言う。


「でも、認識が変わったよ。両親亡くして可哀想な女の子に、本当の父親みたいに優しくしてあげるなんて。誰にでもできることじゃないよ。うん、さすが委員長。やっぱ噂はあてにならないね」


 すっげえ褒めてくれてるところもうしわけないけど、噂が的確すぎてるのでなんともいえない……。


 しかし上松を含めて、女子が俺に向ける視線に、どこか好意的な物が含まれてるようだった。


 あいりちゃんパワーか、これが……。


「みなさん、なんのはなししてるんですか?」


 あいりちゃんが上松に話しかける。


「パパがえらいねー、って話だよ」


「わぁ……! ありがとうございます! ほめてくださって!」


 ありいちゃんは立ち上がって、みんなに頭を下げる。


「これからもぱぱを、よろしくおねがいします」


 ぺこりと頭を下げるあいりちゃんに、女子達が黄色い声を上げる。


 そしてみんなの俺を見る目が、さらに優しい物になる。


「亮太良かったじゃんか、女子たちから大人気で」


「あ、あはは……」


 なんか申し訳ないけど、ちょっぴりうれしい。なんだ、ここにきてモテ期到来か。飯田天下きたこれか?


 と、そのときだった。


「亮太君ただいま♡」「りょーちんおつー」「ごしゅ……亮太くん、おちん……お茶でもしませんか」


 そこへ夕月ゆづき、四葉、そしてみしろが同時に入ってくる。


 あいりちゃんは三人を見ていう。


「あ! ママぁ」


「「「ママ!?」」」


 女子が瞠目するなかで、あいりちゃんは更に続ける。


「せくもんのお姉ちゃんたちも」


「「「せくもん……?」」」


 ……短い天下だった。


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