55話 四葉とタイムリミット【先行版】



 文化祭が近づいてきたある日。

 俺は久々に部活に顔を出していた。


 パイプ椅子を持って渡り廊下を歩いてる。


「りょーちんがんばー」

「おまえ……持てよ……」


 俺の隣を歩いているのは、ショートカットのスポーツ美少女、四葉。


「やーほら、アタシ足を怪我してるからさー」


 四葉はもう松葉づえをついていない。

 片側の足に包帯を巻かれていはいるが、固定はされてない。


「アタシの捻挫とか、りょーちんが実はバスケ部だったとか、忘れてたっしょ実際? ねえ?」


「お前は誰に向かってどこに話しかけとるんじゃ……」


 四葉は二学期始まってすぐに捻挫した。

 それから1カ月強経っている。


「足はもう大丈夫なのか」

「うん、まー、もうちょっとで、治っちゃう、かな」


 四葉が暗い顔をしながら言う。


「治るんだからもっと喜べばいいだろ」

「だって……」


 四葉が立ち止まり、寂しそうな顔で言う。


「……足治っちゃったら、もう気軽にエッチできないじゃん」

「おまえね……」

「だってそうでしょ? 補欠のりょーちんと違って、アタシはアルピコのレギュラーだし。放課後さぼってえっちなんて、もうできなくなるもん」


 俺たちの通うアルピコ学園は、スポーツがさかんな学校だ。

 バスケ部も強豪校として有名である。


 だからこそ、部員数は半端ないことになっている。


 うちのバスケ部はAからFにチームが別れている。

 Aはレギュラー組、Bは控え。

 あとは強さ順にC、Dとなっている。

 ベンチに入れるのはBまで。


 俺はC組。レギュラーでも控えでもない。まあようするに補欠だ。


 Bまでは練習が厳しい。さぼりなんて許されない。

 

 俺はC組なので、多少さぼっても許される。

 でも、四葉は違う。レギュラー、つまりAチーム。さぼりなんて許されないのだ。


 今、四葉と放課後に、気軽にセックスが出来るのは、彼女が足を怪我しているから。


 足が治ったら、練習に復帰する。


「昼休みにできるじゃん」

「短いよ。短過ぎ」


「んなこと」

「セクモンが4体もいるのに?」


 夕月、みしろ、四葉、先生の四人の事を言いたいのだろう。


「みしろ以外は別にセクモンじゃねえだろ」

「でも、できても1回じゃん。放課後も、休日も、このままだとさ……もうアタシたち、会う機会減っちゃうなって……」


 四葉たちA組は、放課後はもちろん、休日、長期休暇中も、練習やら遠征やらで忙しくする。


 今こうして毎日のようにできてるのは、奇跡に近いような状態なんだ。


「ね、りょーちん。りょーちんは、それでいいの?」


 珍しいことに、四葉が真面目な顔をしていた。


「足が治って、アタシは元の日常に戻って、ただの幼馴染になって……それでいい?」


 俺と四葉の関係は、非常に言葉にしにくい。

 あえて言うなら友達以上、恋人未満。


 セックスはするけど、恋人っぽいことはあまりしてない。

 俺にとって四葉は、どういう女なんだろうか。


「即答してよ」

「すまん」

「セフレってよ」

「おい」


 四葉がニカっと笑う。


「ごめんごめん。でもさ、まー、その、あれだ。その……なんだ。アタシは、嫌だよ」


 四葉が不意打ちのように、両手がふさがっている俺に、キスをする。


 体を重ねるときにするような、からみつくようなキスじゃなかった。

 彼女はすぐに顔を離すと、小さくほほ笑む。


「アタシはりょーちんと、恋人になりたいよ。ずっとそばにいたい」

「四葉……」


 にへっと笑って、四葉が踵を返す。


「アタシ先行ってるね」


 四葉の足がなおったら、もう今まで通りではいかない、か。


「あ、そうそう」


 彼女は足を止めると、顔だけこちらに向ける。


「文化祭さ、デートしようよ。アタシと」



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