43話 やたらと察しのいい義妹2号【先行版】



 俺の家に、金髪の幼女がやってきて、自分を俺の妹だと主張してきた。


 その後、親父からラインが送られてきた。

 そこにはこの子……あいりちゃんの素性が書かれていた。


『あいりちゃんは、おれの友人の娘だ』


『おれは海外で野生動物の治療するNPOに所属してるのは知ってるな?』


『そこで長年一緒に仕事してる友人が、こないだ死んじまってよ』


『おれがあいりちゃんを引き取ることになったんだ。大事な友人の娘だしよ』


『海外で連れ回すより平和な日本で暮らした方が良いって思ったわけだ』


『あとはよろしく』


 ……と、親父からはこんな感じのメッセージが届いた。


 いや、いきなりよろしくって言われてもな……。


 俺たちはとりあえずリビングへと移動する。


 ちょこんと、お行儀良く座るあいりちゃん。

 長い金髪に、真っ白な肌。

 ちいさな手に、大きな瞳。


「あの、おにいちゃん。ひとつ、きいてもいいですか?」


 血も繋がらない、話したことも一度も無い相手に、お兄ちゃん呼びされることに、据わりの悪さを覚える。


 だが、身寄りの無い彼女に冷たい態度は取れない。


「どうしたんだ?」

「さっきいた……黒髪のおねえちゃんは、どこいったんですかー?」


 ……みしろのことだ。


「ちょっと体調悪いみたいでな。四葉……神の短いお姉ちゃんがベッドに寝かせにいったんだ」


「たいへん! びょーいん、いかないと!」



 俺の嘘をあっさりと、あいりちゃんは信じていた。


「119します!」


 スマホを取り出して通報しそうになったので、俺は適当に嘘ついてごまかす。


「大丈夫だって寝てれば治るから」

「あーそっかぁ……よかったぁ」


 いやあっさり信じすぎだろう。

 子供だからしょうがないのかもしれんが。


 胸に手を槍ほっと息をつくあいりちゃん。


「あれれぇ? でもおかしいよぉ、おにいちゃん?」


 はて、と金髪幼女が首をかしげる。


「体調が悪いなら、自分のお家に帰ったほーが良いいいんじゃないかなぁ?」


 う、た、確かに……。


「いやほら、体調悪いしさ」


「なら、なおのことお家の人に連絡して、かえってもらったほうがいいよ」


 ……いや、うん。

 そうだよ。そうなんだよな。


 答えに、困っていると、四葉が2階から戻ってきた。


「へーいりょーちん! セックスモンスターを封印してきたぜー!」


「ばっ……! おま……!」

 

 はて、とありいちゃんが首をかしげる。


「せっくすもんすたー? お兄ちゃん、なぁにそれ?」


「あ、あはは! な、なんだろうねー!?」


 四葉のアホのせいで、変なこと幼女に口にさせてしまった!


「おにいちゃん、よつばちゃんどこいってたの~?」


 みしろを2階の部屋に封印してきたとはいえん。


「さ、さっきの黒髪お姉ちゃんの様子を見てきたんだよ。な?」


「え? みしろんがやらせろやらせろってウルサイから、手錠で手足をしばって、くくりつけてきただけだけど?」


 おいいいいいいいいいいいいいいい。


「てじょー?」

「じょ、冗談! もちろん冗談だから! あはは、もー四葉は冗談がきっついぜー!」


 ……危うくばれるとこだった!


「よつばちゃん、さっきのおねえちゃん、様子どうだったの?」


「えーっと……えーっと……うん、へーきそうだった。元々病弱なんだよねーみしろん」


「そっかぁ」


 ん? とあいりちゃんが首をかしげる。


「あれれぇ~? おかしいよぉ~?」


「な、なにが……?」


「元々病弱なら、どうしておにいちゃんたちといっしょにかえってきたの? まっすぐお家にかえればいいのに……どうしてぇ?」


 ……まずい。

 この子結構、素直な割に鋭いぞ!


 いや、素直だから、嘘に気づいてしまうのか。


「……亮太君。あの汚物を、先生と送ってくるよ」


 ファースト義妹、夕月が俺に耳打ちしてくる。


「……だな。頼む」


 こくんとうなずくと、夕月は先生を連れて、部屋を出て行く。


「あれれ? おねえちゃんどこいくの~?」


 こっそり出て行こうとしたところ、あいりちゃんに見つかってしまう夕月。


 義妹ゆづきはえっと……と口ごもったあと。


「あいりちゃんの言うとおり、上のお姉ちゃんを家まで送ってこようかなって」


「そーなんだ。……あれれぇ? でもそれならなおのこと、なんでここに来たのかなぁ」


 また気づきそうになってる……!


「あ、あいりちゃん! 飲み物のまない?」


 俺がそう言うと、ぱぁ……とあいりちゃんが笑顔になる。


「うん! のむ! あいりドクペ! ドクペがいいー!」


「ど、ドクペ……」


 なんつーちょいすを。


「りょーちん! あたしに任せな! ドクペ買ってくる!」


「でかした! 四葉!」


「うん! いけ、牝奴隷ゆりちゃん! みしろん届けに行くついでパシってこい!」


 流れるように先生をパシらせる四葉。


「わ、わかったわ……いきましょ、飯田さん」


 先生も空気を読んで、さっさと夕月と一緒に出て行こうとする。


 じーっ、とあいりちゃんは先生を見ている。

「な、なにかしら?」


「あれれぇ? おにいちゃん、このおばさん、だれぇ?」


「おば……!」


 先生が目を品むいている。


「おにいちゃんのおかーさんは、おとーさんといっしょに海外なんでしょー? だれー、このおばさん……」


「おば……」


 ずずぅうん、と落ち込む先生。

 いいやそっちはどうでもいいんだ。


 この義妹……気づきよる。

 色々鋭すぎる!


「えと、その……」


 先生が不用意なことを口にしようとする。


「みしろ送ってって! 早く!」

「う、うん! またねー!」


 先生は夕月と一緒に出て行く。


 くいくい、とあいりちゃんが手を引っ張ってくる。


「ねー、おにいちゃん。あの知らないおばさんだれだったの?」


「あれはね、同級生なんだ!」


 四葉が不用意なことを言う。


「いや! そんな一発でばれるだろ……」


「あれれぇ~? 同級生なのに、どうして制服着てないの~?」


「ほらぁああああああああああああ!」


 四葉が汗をかきながら、俺の隣にやってくる。


「……まじーよりょーちん。この金髪幼女……コナン君だよ」


 何を言ってるかわからんが、ニュアンスは伝わってきた。


「……きっと見た目は幼女、中身は高校生探偵だよ」


「……んなあほな」


「……だってそれにしては察しが良すぎじゃん?」


 純粋すぎるから、逆に不純物が目立つ、みたいな理屈だとは思うが……。


「……アポトキシン飲んだか。あるいはトラックにひかれた転生者か」


 俺は四葉とともに、あいりちゃんを見やる。

 彼女はぽわぽわ笑いながら「どくぺーどくぺー」とドクペを待っている。


「……こんだけ察しがいいんじゃ、すぐにあたしらの関係にばれちゃうんじゃ?」


「……たぶん」


 この子がいるなかでセックスなんてしてみたら、ばれるに決まってる。


「……よし、やるか!」

「なんでだよ!」


 この流れでやるとか、四葉はアホなのか!?


「……だってこの子に嘘通じないよ多分。遅かれ早かれあたしらの不純な関係に気づくだろうし。なら今から仲間にいれておいたほうが」


「……いや、それはさすがに……」


「……読者もyouやっちゃいなって言ってるしさ」


 誰だよ読者って……。


 しかし四葉の言うとおり、あいりちゃんが一緒に住むとなると、色々と今まで通りいかなくなる。


 さて、どうするべきか……。


「っぱやるべきでしょ。やろやろ」

「四葉ちゃん、やるってなぁに~?」


「それはね~おセッ」

「いや言わせねえよ!?」

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