第36話:さあ、そろそろ行こうか

わたしはどんどんと遠ざかっていく地上を見つめる。

その先には、悠斗が幼い子供のように泣きじゃくっている姿があった。


――泣かないで。


そう言いたいけれど、もう彼にはわたしが見えず、声も届かない。


「――悠斗のこと、見てくれてありがとう」


ふと気づけば一人の男の人がこちらを見ていた。

それは幼い頃の記憶にある悠斗の父親の顔だ。


「いえ……わたしこそ、ありがとうございます。死後に悠斗に会えて、その奇跡がとても嬉しかった……! 過去に縛られていた彼だけど、きっともう大丈夫です」

「ああ、そうだね。俺もそう思う。悠斗は俺と母さんの子なんだから」

「ふふ……死んじゃってから、悠斗のお父さんとしっかり話すことになるなんて、世界の運命は不思議ですね……」

「ははは、確かにそうかもしれないね。――さあ、そろそろ行こうか」


わたしは最後にもう一度だけ泣き崩れている悠斗の顔を見る。

天界なんて言うものがあるのかは分からない。

もしかしたら、このまま虚無に返るのかもしれない。


――それでも、わたしという魂は確かに存在しているんだ。


――悠斗が覚えていてくれる限り。


「悠斗、これからも頑張ってね」


これから先の彼の幸福を祈らずにはいられなかった。

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