第174話「冷たい時雨」

冬の夕方、冷たい時雨が急に降りだした。雀たちが鳴き騒ぎながら寺の食堂の軒先に集まってきている。

「おや……」

と、玄児は窓に近づいて外を眺めやった。

「降り出したなあ」

私も立って行って彼の隣に立った。硝子戸の向こうには真っ白な霧が立ちこめていた。今朝方のあの薄雲とはまた違う種類のものらしい。雨粒こそ見えないものの、かなり激しく降っているようだ。

「これは……」

と、私は言った。

「今日一日はずっとこんな天気ですかね」

「だろうねえ」

「何だか憂鬱になりますね。こう毎日毎日、曇ったり降ったりじゃ」

「そうかなあ。俺はそんなふうには思わないけど」

「どうしてですか?」

「うん……」

玄児は私の方を見ずにぼんやりと考え込むような顔つきになった。その横顔を見ているうちに、ふっと昨夜のことを思い出す。彼はこの屋敷に来て以来――いや、それより以前からだろうか――何かしら天候の変化に対して鈍感であるかのようなところがあった。あるいはそれは、彼がこれまで生きてきた環境の中で育まれた性格の一端なのかもしれないけれど……。

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