第21話 The monster of no name.

名前のない怪物。

 フランケンシュタインに出てくる怪物には、名前がない。

 ジキルとハイドのジキルには名前がある。

 まだらの紐は蛇、モルグ街の殺人の犯人は猿。


 殺人鬼は化け物、怪物。

 お前は人間のフリをした化け物に過ぎない。

 だまれ。

 

 お前は人間じゃない、だから誰からも愛されない、小さな光で、金を払って娼婦や男娼を買うしか能がない。


 たしかにそうだ。

 だから、カンテノームを殺した。

 正確には、消去、返却、正式な手続きを踏み。


 「あなたは友人を殺しました。

  ゆえに、公僕としての地位を剥奪します。

 あなたが死体となろうが何になろうがこちらは一切検知しません」


 蓄音機の形をしたデジタルプレイヤー。

 これは高度な技術だ、なるほど、この手があったか。

 

 残念ながら「お友達」は、この世にはいない。消去され、現在はどこかに眠っているのか、いや、わたしか?


 カンテノームだったのか、わたしは。

 確証はない、しかしここは懐かしい。


「住めるようになりました」


 瑕疵物件、事故物件として安く売られたこの場所は、非常に良い物件だった。駅から近い、鉄筋コンクリート、防音性高し、天気晴朗なれど波高し、とでも言いたくなるほど海が近い。


 まぁ、たぶん、天気晴朗なれどは日本海ですけど、見渡しているのは太平洋の絶景です。


 津波からも逃げられるそうです。


 ここが、調査書に書いてあった場所。カンテノームが言っていた場所。


 おかあさん、と懐かしく呼ぶ声がする、あの子はもういないのに。


 ああ、神様、あの子はまさしく天使でした。天使のようないいこでした。


 すべての人間は、もしかしたら、化け物として生まれ、人間としてしつけを受け、人間になるのかもしれない。もしも腹の中にいる頃からずっと、しつけを受けられずに育てば


 それは確実に怪物となる。

 現代は名前のない怪物だらけだ。


 この世界には怪物がいる、人間の顔をした名前がない怪物、生きているか死んでいるかわからない幽霊。


 彼こそが海賊、と言う歌があり、そこで海賊は奴隷を連れている。

 わたしは、「彼」として生まれなかったから。


 だから、

 The named no one

にもなれず、記録には


「名前のない怪物」と、載るのだろう。


なぜならわたしは怪物だから。


 果たして今話しているのが誰なのか、もうわたしにはわからなかった。

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