【完結】どうやら一夜の過ちを犯してしまったようです。
此花チリエージョ
【本編】どうやら一夜の過ちを犯してしまったようです。
第1話どうやら一夜の過ちを犯してしまったようです。
チュンチュンと小鳥の
私はスマホ画面で
一昨年の梅雨から実家で飼っている、白猫の白玉と、黒猫の黒ごまが戯れあっている待ち受け画面に、6時15分と表示されている。
見慣れないホテルの一室のダブルベッドの上、キャミソールとパンツだけしか身に付けてない私の隣に、上半身裸の見知らぬ、茶髪でゆるい癖毛の男性が、すやすやと眠っていました。
!!!!????
私の頭は二日酔いの頭痛と
一番大事なことを確認する為、私は男性を起こさないよう、ゆっくりゆ~くり布団の中を覗く。
男性はノーパンではなく、ジーパンを身に付けていた。
ノーパンじゃなかったことに安堵するが、私の身体に違和感はなく、これじゃどちらなのか分からない。
私は必死に昨夜のことを思い出す。
「
「……」
高校1年生の時から
メールや電話が素っ気なくなったり、忙しいとデートする回数が前よりぐっと減ったりして、なんとなく終わりそうだなぁと思っていたけれど、
「……分かった。……合鍵……返すね」
泣いて「いやだ、行かないで。 別れたくないよ」と言って引き留めたかったけど、彼の譲れない
こうなったら『厄介な女』より『素敵な女』に見られたくて、無理やり笑顔を作って“破局”を受け入れた。 だけど、
「まぁさぁきぃのバァカァ! 私のどぉこがぁいけなかったのよぉー」
平気な訳がなく、私は行き付けのカフェバー『
「ちょ、ちょっと彩加ちゃん。 流石に飲み過ぎよー」
「まぁすたぁ~、ファジィーネェーブルゥ」
「もうこれ以上はだめよ。 ほら水」
おねぇのマスター(男)が嗜めるが、私からぐぅぐぅと盛大な寝息が聞こえる。
「あらまぁ、言わんこっちゃないわぁ。 どうしましょう?」
マスターが困っていると、カランッカランッと入り口のベルが鳴り響き、お客様が来店したことを知らせる。
「いらっ、あら、どうしたのぉ?」
「……兄さん。 俺相手に、そのおねぇ言葉やめない?違和感しかねぇんだけど」
「ふふ。ここに居るときはぁ、だぁめよぉ。素なぁんてぇ出せないわぁ」
どうやらお客様ではなく、マスターの弟のようだ。
弟はスタスタとカウンター席へ歩いてくると、うつ伏せで眠っている彩加に気付く。
「なぁ、こいつって
「あら、知り合い?」
「同じ大学の先輩。 泥酔してる感じだけどなんかあった?」
「実はぁ…」
かくかくしかじかと、マスターは弟に彩加の失恋話を話す。
「……へぇ、別れたんだ」
「あら、何か言ったかしらぁ?」
「なんでもねぇよ。 で、どうするんだ?」
「それがねぇ、このままにも出来ないからぁ、困っているのよぉ。そうだわぁ、貴方が送ってちょうだい」
「……寝てる人って重いんだけど」
「……彩加ちゃん、常連のお客様に人気なのよねぇ。 ずっと “破局” したって騒いでいたかねぇ」
マスターはチラッと弟を見て、弟にだけ聞こえるよう、ぽつりと呟く。
「……………」
「あら、送ってくれるのぉ。 助かるわぁ」
マスターは弟が彩加の右腕を自分の首もとにまわして、彩加を支えるように立ち上がらせた姿を見て、パァッと喜ぶ。
「……なんかあっても知らねぇぞ」
「ふふ、大丈夫よぉ。 兄の “逆鱗” には触れたくないでしょ」
「………………たしか、大学近くのアパートだったか。 ちっと遠いな」
遠いと言っても、徒歩30分ほど歩くだけの距離なのだが、寝てる人を担ぎながらだとキツいだろう。
「タクシー捕まるかな」
「気を付けて行ってらっしゃいねぇ」
弟は彩加を連れて、カフェバーから出ていった。
そんな弟と彩加の姿をマスターは生暖かく見守る。
思い出したぁ! マスターの弟さんだぁ!!
私はまじまじと眠ってる男性を見つめる。
よくあのカフェバーに来て、食事をしていた。
初めて会った日もカウンター席で昼食をとっていた。
去年の
「マスタァー、お腹すいたぁ。 何かおすすめある?」
「いらっしゃいませぇ。 はい、メニューよぉ」
「って、マスター、これって夜のメニューじゃん」
「あらあら、混じっていたのねぇ」
「ねぇ、マスター。 あの料理ってなに? メニューにないよね」
私はみっつ隣のカウンター席に座る、男性が食べてる、見たことない料理に気付き指差す。
「ああ、ごめんねぇ。 賄いだから、メニューにないのよ。余り物で作ったものだし、お客様に出せる
「へぇ。じゃあ、この、スモークサーモンとクリームチーズのサンドイッチのランチセットを“ふたつ”で、ドリンクはー……えっと、アイスカフェオレとアイスコーヒーで、食後でお願いします」
私はメニューのミニサラダとドリンク付きのランチセットを指差す。
注文を終えると、私はチラッと賄いを食べてる男性を見る。
賄い料理を食べてるってことは、バイトの人だと思うけど、初めて見る顔だ。
それに、どことなくマスターに似てる。
「ねぇ、マスター。この人って “噂” の弟さん?」
「どんな “噂” だよ」
「え、可愛い可愛い弟が居るって話してるだけよぉ」
私の質問に弟さんは呆れたように、マスターは兄バカを醸し出して反応する。
弟さんは料理から私を見ると、
「……あんたって “あの日” の、いや、なんでもねぇ」
「???」
「無愛想な弟でごめんねぇ。
その時、カランッカランッと入り口のベルが鳴る。
私は後ろを振り返ると、
「
「……待たせたな。 マスター、出来てる?」
「ええ、出来てるわよぉ。いつもの席でいいかしらぁ?」
「ああ」
もう“元カレ”の
私もあとに続いて座ると、マスターが、スモークサーモンとクリームチーズのサンドイッチとミニサラダと、お水とおしぼりをテーブルに置く、
「ごゆっくりどうぞ」
営業笑顔のマスターは、そそくさとカウンターへ戻っていくと、弟さんとなにやら話しているようだ。
そうそうそう! 如月綾人だ!!
泥酔した私をアパートまで送っていた弟さんが、どうしてかアパートではなく、ホテルで私とふたりきりで一夜を過ごした。
まさかまさか、私が酔っ払った勢いで襲っちゃって、ホテルに連れ込んだの!?
私はぐるぐると記憶を辿る。
ダメだ! 肝心な部分が思い出せない!!
「……くっ!」
私はホテルの部屋を見渡すと、テーブルの上に、クリーニングの袋に入った、私の山吹色の長袖ワンピースと、弟さんのだろうか、白い七分丈のTシャツと、黒いカーディガンに気付く。
なんでクリーニング?? と、思ったけど、私にはこれ以上、冷静に考える頭はなかった。
『食われた』『食った』にしても、私は既に21歳だ。 私にも責任はある。
責任は……あるが、弟さんが起きるのを待って、真相を聞く勇気はなく、鏡にうつる自分と目が合う。
ああ、もう、髪がぐしゃぐしゃだと、ハーフアップにして纏めていた、色とりどりのアネモネの押し花のバレッタを外してテーブルの上に置く。
栗色のセミロングの髪の毛を手櫛で整え、急いでワンピに着替え、財布を開けて1万5千円を取ってテーブルの上に置く。
“申し訳ございません。今回のことはなかったことでお願いします”
そう書いたメモを、お金の横に置いて、弟さんを起こさないよう、静かに、だけど急いで、部屋を後にした。
早朝の優しい光が、私を優しく照らす。
私、風間彩加、大学3年の21歳は、失恋のやけ酒の末、どうやら一夜の過ちを犯してしまったようです。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます