第7話 お題 太陽 病人 カッター

 終電から降りた青年は駅のホームから夏の夜空見上げた。

 月がでており、満点の星空が夜空に光ってみえた。

 青年は駅からでると、ここ数日で覚えた煙草に火をつける、馴れない煙草をふかすと、意味もなく煙を吐いては呼吸を整えた。


 青年の身なりは、ジーンズに上はポロシャツ。持っているのは背中かけのリュックで携帯などは無い。


 リュックの中には、処方してもらった睡眠薬と鎮痛剤それに使い古しの大型のカッターが一本。

 他には電車に乗る前に買ったアルコールとそれにロープと小さなテントを入れていた。


 普通に考えるとキャンプであるが青年の目的は自然死、そのためにこの場所へと電車に乗って来た。



「よっ! お兄さんっ冴えない顔してるね」



 青年はとっさに煙草を足で消して声の主を探す。

 駅前で吸う煙草は都会では禁止されている、それを注意されたと思っての行動だ。


 青年はひなた……と小さく呟く。そしてすぐにそんな事は無い事を思い出す。声をかけて来た人間は青年にとって忘れられない彼女で……いや別れて五日ほどたった彼女に似ていたのだ。


 長年看病してくれた彼女であったが、青年の体がもう手遅れとなり別れた。そんな彼女が目の前にいるわけがない。




「お兄さん名前は? 私明日奈っていうの」



 青年は首を振って考えを消した。

 トオルとだけ小さく伝える、トオルは明日奈に夜は帰ったほうがいいのと、自身はストレスを和らげるために一泊二日のキャンプに来た。と嘘を伝える。


 明日奈は、この近くかぁーと考えて手を当てている。青年にしては早くのこの女性と別れたくて辺りをきょろきょろしている。

 タクシーに乗り込もうにも田舎過ぎてタクシーも無い。


 それもそうだろう、青年はわざとそういう人のいない田舎を選んで来たのだ。無料のキャンプ場で最後は静かに過ごす。


 別に誰に見つからなくてもいい、もう疲れた。

 体が動くうちに楽になりたい。


 その感情が胸の中心から上がってくるのだ。



「案内してあげるよ」



 明日奈はそういうと青年の手を引っ張った。その拍子にトオルが驚いて咳き込むと口から血を出す。

 明日奈が急いでポケットからハンカチを取り出すとトオルはそのハンカチを口に当てた。

 ハンカチからはいい香りがして青年の呼吸も静かになっていく。


 断り損ねたトオルは、明日奈に連れられて山道へと向かう。

 トオルは不安になり明日奈に尋ねてみた、なぜ駅前にいたのか、予定はないのか? などだ。



「受験勉強疲れー、こうして夜に散歩するんだ。気分が落ち着くでしょ?」



 たしかに。と言うと明日奈はトオルの顔をみてはにかむ。



「あ、笑った」



 笑った? 俺が? トオルは自分の感情に驚いた。

 笑った事なんてここ数年記憶にないからだ。


 街灯はないが夜空の星たちが二人の道を照らしてくれている。

 それ以外にも明日奈はスマホをもっており時折ライトにしてはトオルの足元を照らしてくれた。


 吊り橋を渡り熊に注意と言う看板を過ぎたあたりで明日奈は止まった。

 目の前には川がありテントを張るのには十分なスペースの場所があったからだ。


 トオルは明日奈に礼をいうと小さいテントを広げ始める。

 その様子を明日奈は黙ってみていると、テントを張り終えたトオルと目があった。



「トオルさんって……自殺しにきたの?」



 トオルは驚いて首を振った。それが縦が横かは覚えてなく気づけばトオルは明日奈に押し倒されていた。

 トオルは暴れるも明日奈の匂いを嗅いでいくと体の力が抜けていく、口の中に明日奈の舌がはいると、トオルもその舌を合わせあふいめた。


 夏の夜空は短い。

 トオルがテントからはい出ると、ほてった体を冷水で洗う。

 その顔は駅を降りた時のトオルの顔と違い、健康的にさえ見えた。


 テントから裸の明日奈が現れると、トオルからは太陽の光に照らされて神秘的にも見えた。



「ねぇ、充実して生きる希望わいてこない?」



 明日奈がトオルに笑顔で訪ねる。

 トオルは過去に同じ事を言われたのを思い出した。大変な治療であるがトオルに生きて欲しい。

 そう言った彼女の顔が明日奈と重なった。


 トオルは思わず頷く。

 明日奈となら、いや明日奈となら生きてみたい。と……。



「ありがとうトオルさん。じゃぁ死んで」



 明日奈がトオルに抱きつくとトオルの腹には刃が短いカッターナイフが刺さっていた。

 明日奈はそのカッターナイフを横に動かすとトオルを川へと突き飛ばす。

 トオルは痛みと冷たさで混乱するも明日奈を見ては、なんで……と小さく口を開く。




「あなたが自殺しに来たのは知ってる、東京からずーっとつけていた! あなたは太陽の光を浴びるような人間じゃない! あなたは納得するような死しなんて認めない! 生きたいっ! ふざけるな! あんたはお姉ちゃんの仇だ! お姉ちゃんをはアンタの写真を持っていたんだ…………子供だって出来たって……」



 水の中で目を見開いたトオルを確認した明日奈はトオルの持っていた物を川へと流す。

 

 明日奈は殺された姉へラインチャットへ終わったよ。とだけ書き込むとそれも川へと投げ捨てた。

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