第4話 屋台を巡って

1996年8月9日(金)


「あら。貴方達も来てたの?」

良く聞いたことのある少し低い女性の声に俺と清水さんがその声の方向に顔を向けた。


「「図書委員さん?」」

二人で思わずハモってしまった。


図書委員さんの横には

メガネをかけ、すらっとして身長の高い大学生風の男子がいた。


……。彼氏さんなのかな。


図書委員さんもなかなかの美人さんだ。

どちらかというと物静かな感じがするタイプで、。

浴衣も似合ってる。

ただし中身は人の告白を録音するトンデモナイヒトなんだけどね……。


「あなたたちも……。その二人で?」

"も"って……!

アカリが持ち前の行動力で先陣を切ってしまっている。

遠藤と高宮はその後に続いているが、

俺と清水さんは少しみんなから離れてしまっていた。


だから二人だけと誤解しても仕方ないことではあったが……。


「ち。違います! あの。他にも友達と……」

何かちょっと気まずくて、即答してしまった。

残念だけど、俺たちは未だそんな関係じゃない……。


「あら。そう」

図書委員さんは少し残念そうだった。


「私は連れと来てるから……」

連れってなんだろう…?

友達、それとも恋人?

そんなことが頭の中をぐるぐると巡っていたら不意打ちを受けた。


「貴方たちも、二人だけで来たらよかったのに……」

その言葉に俺と清水さんは思わずビクッと反応してしまう。

俺は清水さんを意識してしまう。

清水さんもそうかもしれない。

少し顔が紅潮していた。


「それじゃぁ。また学校で」


そう言って図書委員さんはその連れの人と人込みの中に消えていった。



図書委員さんと別れ、店を数店見回った後で

さらに人が増えてきた。


もう歩きながら食べるのは難しいな。

しっかり前を見ながら歩かないと人にぶつかる。

席取りも一人でするのは大変になってるかもしれない。


「俺。持てるもの持って、トモサカのとこ戻ろうか?

この人手だと。席取りも難しいだろ」

アカリに提案する。


「……。そうね。じゃ。あんたに預けるわ。これ。

みんなも鬼塚に預けれるものは預けちゃって」

アカリが同意を示した。


買ったものを持てるだけ持って

トモサカのところへ戻った。

テーブルの上に戦利品を並べる。


「うわー。いろいろと買ってきたね」

トモサカが驚きの声をもらす。


「先に俺だけ戻ってきたよ」

イスに腰かけながらトモサカに話しかける。


「飲み物ぐらいは欲しかったらから助かるよ」


「席取りも大変だろ」


「まぁ。流石に埋まってきたからね」

周りを見渡すと、カップルやら家族連れやらが

それぞれ席を占めていた。

空いている席もあるがわずかだ。

夕闇が濃くなり、逆にライトアップされた舞台が明るく映えてきた。

浮ついた喧噪、そして食べ物の焦げた匂いや甘い香りが辺りに満ちていた。


「食べるのはみんな戻ってきてからな。

飲みものはいいと思うぞ。暑いしな」

熱中症とかで倒れられたら困るしな。


「了解」

そう言ってトモサカはお茶に手を伸ばした。


「そういえばもう付き合ってるの?」

だしぬけにトモサカが聞いてきた。


「付き合ってるって、何が?」


「だからカズと清水さんが……」


「ちょちょ。ちょっと。待て。待て。何で。そうなる?」

飲んでいたアクエリを噴き出しかけながらトモサカに聞き返す。


何で。何で。ばれてんだ?

アカリか?

アイツばらしたのか?


「何でって? 好きなんじゃないの? 清水さんの事?」


「どうして分かるんだよ!」


「……。見たら分かるよ。そんなの。さっきも。浴衣誉めてたし」


「……。あの。俺ってバレバレなの」


「……。わりとバレバレだと思うよ。

カズって感情の起伏が大きい方だと思うし、

それ伴っての表情や行動の変化もある方だから……

読み易いし、分かり易いよ」



バレバレで分かり易いんかい。俺は!!



「……。告白は。その。未だしてない。

なんか。その今のままでも割と楽しいなとか思ってるんだよ。俺」

少し目を伏せながらトモサカに俺は答えた。


「……」


「友達のままでも楽しいけど。彼氏と彼女になったらもっと楽しいのかな? って思う。けど。もし振られたら、友達でいたときの楽しさも無くなっちゃうかと思うと。……」


そしてトモサカは一般論とも非難とも取れる言葉を述べた。

「割とよくある告白をためらう理由だね」

トモサカはテーブルに肘をつき、

顔を手の平にのせながら、こちらを真っすぐ見据えていた。

その目線に射貫かれそうだった。


「まぁ。そうなんだと思う……」

自分でも女々しいとは思う。思うのだが。


「クラスが同じだから分かるけど。

人気でてきたよ。清水さん

彼女の生真面目なところを嫌う人もいたけど

それは彼女の優しさの裏返しだから……ね。

それをみんな、理解し始めているから」


「そうなのか……」

焦りと不安が滲み出てくる。


「あくまで僕の意見だけど。

ほんとに大切なものは身近において離さない方が良いよ。

後からいろいろと後悔することになるから……」

そう言ってトモサカは俺から目を逸らした。

その言葉は俺だけに向けた言葉では無い気がした。

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