第13話倉持は帰省する

ゴトゴトン


ゴトゴトン




電車に揺られること2時間


倉持は夢と現実の狭間を行ったり来たりしていると、あっという間に実家のある町に着いた。


倉持は体を伸ばし、首を2,3回コキコキを鳴らす。


右ポケットに入れた切符を確認すると、荷物を担ぎ、電車を後にした。




改札を出てすぐのところに、妹の千夏が待っていた。




昨年と変わらぬ姿に安堵する。




倉持の頬がわずかではあるがほころぶ。


倉持は軽く手を振ると、やや早足に改札を抜けた。




倉持「久しぶり。 忙しいところ、ありがとう」


千夏「いいよ。 むしろ、平日の方が助かる。 どれくらいいるの?」


倉持「そうだな。 連絡した通り、4,5日ぐらいいようかな」






千夏の車につく。




倉持「運転しようか?」


千夏「大丈夫。 お兄ちゃんあまり運転してないでしょ? 私に任せて」


倉持「そうか。 じゃあ、お願いするよ」




倉持は後部座席に荷物を置くと、そのまま自分も後ろに座った。




千夏「真冬姉さんとは会ってる?」


倉持「ああ、先月も来たよ。 ほら、シャアハウスにいる由紀さんと飲み仲間になってるよ。


おかげで、助かる」


千夏「まあ、真冬姉さんザルだからね」


倉持「そうそう、まあ、正直こっちはそんなに強いわけではないから助かるよ」


千夏「…シェアハウスの人たちに迷惑はかけてない?」


倉持「うっ…」


千夏「…あー… ゴメン… やっぱ相変わらずなんだ…」


倉持「…ああ。 けど、優しい人たちだよ。 みんな」


千夏「…なら…良かった」


倉持「…」


千夏「…」


倉持「あれ? そこのお店… オープンしたんだ」


千夏「ん? そっか、こないだ帰ったときは、まだだったね。 美味しかったよ。 洋食屋で、パスタがちゃんとしてたし、ソースも自家製だったし、フライ系も良かったよ」


倉持「そうか… 一回行ってみようかな」


千夏「でも、店員さんがカワイイ女性だったよ」


倉持「あーーー。 ちょっと、考える」




そうこうしているうちに、倉持家についた。


駅から10分ほどの一軒家である。


倉持は荷物を担ぐと自分の部屋に運んだ。




千夏「いちおう、夏用の寝具出しといたよ」


倉持「ありがとう。 こっちも結構暑いね」


千夏「だね。 毎日汗だくだよ」


倉持「はは、そうだな」




倉持は荷物を置くと、すぐに外出の準備をする。


財布と携帯電話、小銭入れを手持ち用のバッグに詰める。




倉持(墓地のところは、トイレなかったな… 先に済ましとくか)




倉持はトイレに向かい、ドアに手をかける。


くどいようだが、倉持は基本的にトイレノックをする派である。


しかし、倉持は現在この家には自分と千夏しかいないと思っている。


そして、千夏は自室にいると認識している。


それゆえ、ノックを失念していた。




倉持「あ…」




そこには、何も身に着けず、用を足している姉 千秋の姿があった。




千秋「よお… 1,000円な」


倉持「…はい」




長い髪は後ろでくくられている。


シュッとした目に、長く豊かなまつ毛、少しきつい印象を与えるが美しく整った顔である。


乳房はそこまで大きくはないが、整っておりハリと艶がある。


ウエストはキュッとしまっている。


陰毛は綺麗に剃られている。


その先からぽつぽつと液体がこぼれている。




その間、約3秒


倉持は即座にトイレのドアを閉める。




ひょっこりと千夏が部屋から顔を覗かせる。




千夏「そうそう、昨日から千秋姉さん来てるから… って、あー… ゴメン。 先行っとけばよかった」


倉持「あ、ああ…」




ドアが勢いよく開く。


千秋はそのまま、何も身に着けずに出てきた。




千秋「徹。 おかえり」


倉持「ただいま」




倉持は1,000円差し出した。




千秋「ん… 徹… 相変わらずみたいだな…」


倉持「うん… なかなか…」


千秋「そうか… 具合はどうだ?」


倉持「具合? えーっと… ん? 元気だけど… な、何の?」


千秋「…なら、いいわ。 これから、墓参り?」


倉持「うん。 もう行ってしまおうかと」




千秋がずいッと倉持の顔を覗き込む。


まじまじと見つめる。




千秋「…気を付けなよ」


倉持「…うん」




千秋は立ち上がり、自室へ向かう。


振り向きざまに言い残す。




千秋「あと、血がつながっていないとはいえ、たつなよ?」




倉持は股間を抑えてごまかす。




千秋「まあ、私の身体を見て反応しないのはムリかぁ? はは」




倉持は深呼吸で自分を落ち着かせ、用を足してから、家を出る。


墓地までは歩いておよそ15分ほどである。


倉持は亡き父の墓前に立つと、さっそ掃除をし、水を入れ替えた。


手を合わせしばし。






倉持は3歳の頃に父と別れている。


父とはよく近くの神社に行っていた記憶がある。


そうはいっても3歳までの記憶である。


どれほどの頻度かも怪しいし、毎回近くの神社であったかも怪しい。


だが、おぼろげながらも倉持の記憶には、神社の前でじっくり祈る父の姿が残っている。




その時の父と同じように、倉持はじっくり祈る。




その後、近くの林に眠る命の恩虫に対しても深々と頭を下げる。




そして、墓地よりしばし街を離れたところにある神社へ向かうのである。




神社といっても、そこまで大きな場所ではない。


地元の人間でもめったに立ち寄ることはない。


というか、倉持はここで、誰かと偶然合ったことは一度もない。




何が祀られているかも、よくわかってはいない。


ただ、倉持は父に習い、頻繁に来ていた。


上京後も帰省時には必ず立ち寄っていた。




一段一段階段を登る。


段数はやたらと多い。


掃除もされていないのか、葉や枝があちこちに落ちている。


階段を登りきり、鳥居をくぐる前に礼をし、社の前に向かう。


賽銭箱に100円を入れ、手を音が出ないようにたたきじっと祈る。


祈ると言っても、倉持は何か願いを言うわけではない。


目を閉じ、ただグッと、気を込めるだけである。






挨拶を済ませて社に背を向けると。


鳥居の下に、一人の女性が立っている。




セミの声が響く。


倉持の頬を汗が伝う。


じりじりと日差しが照り付ける。




倉持はその女性を知っている。


最後に合った時から実に10年経っているが、それでも分かる。




女性は長い髪を後ろでくくっている。


そこからこぼれた数本の髪が風にあおられ顔にかかる。


女性は頬にかかる髪をすっとどかすと、厳かに口を開く。




霞「久しぶりね。 徹」


倉持「久しぶり… 霞」




その時、境内を風が突き抜ける。


霞のスカートは風にさらわれブワッと舞う。


と、同時に、その風に続き、もうひと吹き。


その風は霞の下着の紐をほどくかのように吹きすさぶ。




霞の下半身はあらわになる。


千秋や白銀のような手入れがされているわけではないが、周りは整うぐらいには剃られている。


その先から、汗が滴り落ちる。




しかし、霞は恥じらうことも隠すこともしない。


むしろこの現象を楽しむかのように、フッと笑みを浮かべる。




霞「相変わらずね… むしろ… 強くなってる?」


倉持「…かもしれない」




霞は下に落ちた下着を拾い。


それを手にしたままスタスタと倉持に寄る。




霞「つけてくれる? 自分じゃ難しいの」


倉持「ああ」




倉持は霞のスカートに手をそっと差し入れ、なるべく肌に触れないように、紐を結ぶ。


だが、ここで、再々度、風が吹きスカートが舞い上がる。


目の前に現れる霞の秘部は、やはり汗か何かで濡れていた。


倉持は体制を低くしていたため、陰毛の下でわずかに開く霞の秘部をダイレクトに網膜に刻んでしまった。


しかし、ここで変に動くと、紐がうまく結べない。


倉持は結び目に焦点を合わせて、ささっと両端の紐を結び付けた。




倉持「できた」


霞「どうも」




倉持は霞に2,000円差し出す。




霞「これも、相変わらずなのね…」


倉持「ああ… これをしないと、大変なことになる」


霞「そう」




霞は石段の一番上に腰をかける。


倉持は60㎝ほど離れて隣に座る。


霞は倉持から受け取ったお金を口元にあてる。


その端から、やや上がった口角が覗く。


霞は目を細め、いかにも意地が悪そうな表情を作り、倉持の耳元に口を近づけて囁く。




霞「…ねぇ 約束…覚えてる?」


倉持「…」




セミの声が一層強くなる。


日も照りつける。


ジワジワと視界が歪むほどの熱が石段から昇る。


倉持の額から何本もの汗がしたたり落ちる。


倉持は頬を伝う汗をぬぐうと、そっと口を開く。




倉持「…覚えてる…よ」




右耳のすぐそばにあった霞の息の感触が遠のくと、倉持は霞の方をじっと見据えた。


霞は右腕で顎を支え、倉持の方を斜に見ながら、笑みを浮かべている。


しかし、その笑みの真意は倉持には分からなかった。


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