答えはいつも、見えないものだから。

筆者はラブレター代筆家。ご本人は「代筆屋」と称されますが、私はあえて「代筆家」ということばを使わせていただきます。ラブレターとはすなわち「恋」を映すモノ。「恋」とひとくちにいえば軽いですが、その恋には人生のたくさんの要素が関係しているのです。筆者は、人生を書く「代筆家」なのだと思います。本作はそんな筆者を取り巻く、ちょっと笑えて、ちょっと共感して、ちょっとせつなくなっちゃうようなエッセイです。

上に「人生の要素」と書かせていただきましたが、恋愛というのは単独で存在するものではありません。たとえば、受験勉強で背中を押してもらった彼のことが好きになった、という事実を考えましょう。その女の子は受験勉強で苦しまなければならなかったのです。親の期待か、自分のプライドか、自らの怠惰心との戦いか。目標を実力より少し高めに設定しているかもしれません。その大学でなにを学ぶか、学んだことをどう生かしたいか。大学のその先で、どんな仕事に就きたいか、などなど。そこへ彼が現われるわけですが、いきなり初対面で背中を押されるなんてありえません。同じ部活で出会ったのか、そうだとすると彼はなぜその部活を選んだのか、親の影響か、あるいは彼も彼女とは違った目的で同じ大学を目指しているかもしれない。
と、想像は無限です。同時に、事実も無限です。恋愛とは人生のさまざまな要素を絡めて、その一つの答えとして生じるものなのです。

だから筆者は依頼人の人生を読み解かなければなりません。しかもですね、おそらく、筆者が射程に入れているのは「恋愛」と呼べるものだけでなく、広い意味での「愛」だと思うのです。筆者のご自宅のエピソードが描かれるのですが、私はこのエピソードに、文章ではなく言葉でもない、無言のラブレターを見たような気がします。
この世に流れる、人と事象。筆者はそれぞれをどう読み解き、書き手としてどんな気持ちを抱いたのか。その舞台裏を皆間見学させてくれたような、すばらしいエッセイでした。

その他のおすすめレビュー

木野かなめさんの他のおすすめレビュー49