第93話目標達成と使命感


 翌日、寝不足気味のレセリカだったが当然それを表に出すことはない。今日は放課後にラティーシャたちとお茶会の約束があるのだ。

 学園の中庭の一部を借りて行う予定で、彼女たちの和解を誰もが見て安心出来るように、という意図もある。


 そんな意図とは別にして、レセリカは改めて友達となった彼女たちと他愛のない話をするのが楽しみで仕方がなかった。友達、という点においてラティーシャは否定するかもしれないが。

 それに、ヒューイのことも水の一族のことも気になる中、とても良い気分転換にもなる。


 そのため、レセリカは放課後が待ち遠しく、今日という一日が妙に長く感じた。そんなことは初めてだ。

 休み時間になる度にあと何時間ね、と確認してくるレセリカに、ダリアは年相応の少女らしさを見て微笑ましい気分になったとか。


「それにしても、ラティーシャ様ったら本当に思い切ったことをしましたわよねー」

「本当に。噂まで操作するなんて。意外な行動力にちょっとだけ怖いと思ったもの」

「ちょ、ちょっとアリシア、ケイティ! その話は終わったことでしょう? いつまでも言わないでもらいたいわっ」


 相変わらず、お茶会でお喋りをするのはアリシア、ケイティ、ラティーシャの三人が中心だ。もともと、よく喋る三人ではあったが、最近の話題はもっぱらラティーシャをからかうネタである。二人とも、彼女が好きだからこそだ。


「でも、噂の操作なんてなかなか出来ないですよ。自分の悪口なんて、余計に流すのは辛くはなかったですか?」


 そんなやり取りにももう慣れたキャロルが、むしろ感心したというように告げる。

 実際、あれほど酷い自分の悪口を流して広めるのはかなりの苦痛だろうと思うからだ。特に、ラティーシャのような自分が大好きなタイプには余計に。

 しかしラティーシャはとんでもない、と言いたげに反論した。


「違いますわ! 私は悪口については何も言っていませんもの。私が流したのは、私とレセリカ様がセオフィラス様を取り合って争っている、という点のみですわ」


 そうすることで、最終的に噂全ての出所をレセリカに押し付けようとしたのだという。浅慮ではあるが、もしもうまくいっていた場合、レセリカは完全に孤立してしまっていただろう。

 その姑息な悪巧みに、誰もが軽く引き気味になりながら苦笑を浮かべる。レセリカでさえ、それがうまくいかなくて良かったと胸を撫で下ろしていた。


 そんな中、キャロルはただ一人驚いたように目を丸くしていた。


「えっ、じゃあ悪口は他の生徒から? 命知らず過ぎませんか? ラティーシャ様でなければ一体誰が流すというんです?」

「ちょっとキャロル? 私を犯人と決めつけないでくださる? 色々と酷いことを考えたのは確かですけれど、私だってあの噂を聞いてかなりショックを受けましたのよ!?」


 だとすると一体誰が。場に沈黙が落ちる。


 よく考えればキャロルの言う通りだった。レセリカはもちろん、ラティーシャだってかなり身分の高いご令嬢だ。悪意をもって悪い噂を流したということがバレてしまえば、彼女たちより身分の低いものたちにとってはかなり分が悪くなる。

 よほどの愚か者か、自暴自棄になった者か。……あるいは、裏で何かを企てている者がいるか。


(何も知らない他の生徒から、面白半分で悪口が出てくるのも不思議ではないけれど……)


 タイミングといい、あれだけの悪意を感じる噂が特に関わりもない生徒たちから出てくるものだろうか。

 レセリカ派、ラティーシャ派というそれぞれを応援しようという派閥が出来たことまでは理解が出来る。それがいつのまにか険悪な雰囲気にまで発展したというのは、今考えてみると違和感が拭えない。


(ラティーシャではないというのなら、他にも彼女のように派閥が出来たという噂を利用した者がいる、ということ?)


 ようやく平和が訪れたと思ったところへ、新たな敵の可能性。水の一族のことやセオフィラス暗殺の時期がじわじわと迫っていることもあって、レセリカの胸には不安が押し寄せる。


「なんだか気味が悪いですわね。言いたいことがあるのなら直接話に来ればよろしいのに」

「ラティーシャ様のように、ねー」

「う、うるさいわ! ケイティ!」


 確かに、ラティーシャのように直接話に来てくれた方がずっと誠実にも思える。やろうとしていたことは褒められたことではないのだが。

 不安がみんなの心に広がり始めた時、パンッと手を打ち鳴らしたキャロルの明るい声が響いた。


「なにがあったって平気ですよ! 今度また何かが起きても、私たちがお手伝いすればすぐに解決しちゃいますから!」


 今は、キャロルのその明るさに救われる。まったく根拠はないが、なんとかなる気がしてくるから不思議だ。


「わ、私も微力ながら尽力します!」

「キャロル、ポーラ……」


 これが友達の力なのかもしれない。レセリカは胸にじんわりと温かいものが広がるのを感じた。

 とはいえ、そんな大切な友達を危険な目に遭わせるわけにはいかない。レセリカの中に、彼女たちを守るという使命も追加された。


「さ、さすがに今回のことは悪かったと思っていますの。ですからその、大きな借りを返すためにも何か手伝えることがあるなら……手を貸すことも、吝かではありませんわよ」

「素直じゃないですねー」

「ケイティっ! もうっ!」


 それに、ラティーシャまで。顔を真っ赤にしてキーキー怒るラティーシャを横目に、アリシアとケイティもニコリとレセリカに微笑んだ。


「もちろん、私も何かあればお手伝いしますわ」

「私もです。退屈な日常から抜け出せるのなら、いくらでもー」


 ほんの少し前まで、友達が出来ないと思い悩んでいたのが嘘のようだ。

 とても大変なことに巻き込まれたのは確かだが、そのおかげでレセリカはかけがえのない、そして頼もしい友達を得ることが出来た。


 ずっと目標としてきたことだ。それはとても喜ばしいことであるのだが、同時にレセリカは気付く。


(彼女たちを、危険な目に遭わせたくないわ)


 レセリカは、未来で起こるだろう事件を阻止するために友達を欲していた。信頼出来る者が少しでもほしいと。だが、相手が大切だと思えば思うほど、巻き込みたくないという気持ちが芽生えるのだ。

 そこに思い至らなかった自分が酷く愚かで、落ち込んでしまう。だが。


(……いいえ。せっかくお友達になれたのだもの。彼女たちに頼れることは頼って、決して危険なことには巻き込まない。そうしてみんなのことも守ってみせるわ)


 そうしてまた、使命感から背負うものを増やしていることにレセリカは気付かない。だが、彼女は止まらない。止まれないのだ。


 もうすぐまた学年が一つ上がる。話題は来年のクラス分けのことへと移り変わっており、お茶会の雰囲気も一気に明るくなる。


 そんな彼女たちの様子を見る人混みの中に、深い青髪をふわりと靡かせた男性の姿があった。

 その男性は感情の見えない表情で、ある人物をひっそりと見つめていた。気付く者は誰もいない。そしていつの間にか人混みからその姿を消す。


 雨も降っていない中庭の一角に、小さな水溜まりが出来ていた。


────────────────


2章「学園の始まり」編 おしまいです。

3章「陰謀の始まり」編へと続きます。


書き切ってから一気に毎日投稿していく予定ですので、更新開始までしばらくお待ちください。


再開時は前回同様「待って、どんな内容か忘れたw」対策のために「これまでのあらすじ」「キャラ紹介」も一緒に更新いたします。

安心して内容忘れてくださいねw(私はやっぱりすぐ忘れる人なので)

もちろん読み返すのがオススメです!ですよ!


ここまでお読みいただき、ありがとうございます!

良かったらお気に入り登録や評価、いいねや感想などください!(直球っ)

私が救われます……!


何を書いたらいいのかわからない! という場合は好きなキャラの名前だけでもいいですし、奇声を叫ぶだけでも大歓迎です。都合良く受け取らせていただきますのでお気軽にぜひ!(*´∀`*)


では、また3章で!!

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