第69話推測と接点
ヒューイからの報告を聞いてレセリカはしばし黙考する。考えを整理するためだ。
事実としてわかったのはリファレットとラティーシャは婚約しているがまだ仮の状態であること。リファレットは卒業後に公表するつもりだが、ラティーシャはそもそも婚約を認めたくないのだということ。それから。
(ラティーシャ様は、それほどまでに殿下をお慕いしているのね)
彼女がなんとしてもセオフィラスの心を射止めたいと思っているということだ。
そこから考えられる二人の関係性をレセリカは考え、一つの結論を導き出す。
しかし、そんなことが成立するだろうかという疑問もある。どちらかというと考え過ぎだろうとレセリカは思っていた。
これまでだったら一人でそう結論付け、話は終えていただろう。だが今のレセリカは人に頼ることを覚えた。
少々馬鹿げた推測ではあるものの、二人にも聞いてもらって一緒に考えてもらおうと決意する。
「これはただの推測で、あまり現実的ではないのだけれど。……学園を卒業するまでの間にラティーシャ様が殿下のお心を射止められなければ、リファレットと婚約をするという約束をしているのかもしれないわ」
そして見事に正解を言い当てた。とはいえ、本人はほぼそれはないと思っているのだが。
「それなら確かに婚約を公表しない理由はわかりますが……あまりにアディントン伯爵子息側にメリットがないように思えます」
「そうね、私もそう思うわ。それどころか、両者ともに上手くいかなかった時のリスクが高いと思うのよ」
つまり、リファレットはラティーシャの卒業まで誰とも婚約が出来ないということなのだから。
アディントン伯爵家長男に婚約者がいないというのはかなり問題となるだろう。
それを回避するために、リファレットが在学中に他の婚約者を見付けるという手もある。だがヒューイの報告を聞くに彼はラティーシャ以外、眼中にない様子だ。頭の固いところのありそうな彼は、おそらく約束通り彼女を待つ可能性が高い。
とはいえ、もしリファレットに別の婚約者が出来た場合、今度はラティーシャのリスクが高くなる。殿下の心を射止められなかった場合、卒業後の年齢を考えると新たに婚約者を探すのは難しいからだ。
相手を選ばなければいるだろうが、彼女が選ばないわけがない。
それに、フロックハート家はラティーシャの兄が継ぐはず。そのため、ラティーシャはいずれ家を出なければならないのだ。娘を溺愛する父親なので例外になりそうではあるが。
「ピンクのお嬢サマが婚約者とくっ付けば全て丸く収まるのになー。なんでそんなややこしくなることすんだよ。貴族ってめんどくせぇ」
「貴族の約束だからこそ、わかりやすいではないですか。一般人のほうが自由な分、揉めごとも多いのでは?」
「あー、確かに揉めるのはよく見るけどよー。だいたいは殴り合いで解決するじゃん。家がどうこうなるとか考えなくていいわけだし。やっぱめんどくせぇよ、貴族」
二人の話を聞きながら、レセリカは思考の海に沈み込んでいた。二人の婚約が上手くいくかどうかは、ひとまず置いておく問題なのである。
(これで、二人の接点が見えたわ……)
そうなるとセオフィラスが暗殺された場合、ラティーシャはとても嘆くはず。
その後に犯人を突き止めたいと思い、彼女にとって邪魔な存在であるレセリカを断罪する流れはまぁ、わからなくもない。だが、暗殺する動機はないはずだ。
一方で、セオフィラスがいなくなって得をするのは……。
(リファレット……? まさか、とは思うけれど)
恋というものは人を狂わせると聞いたことがある。その辺りの知識に乏しいレセリカにはよくわからないことだが、リファレットが絶対にやらないとは断定出来なかった。
あるいは、父親であるアディントン伯爵が手を回すことも考えられる。むしろそちらの方が現実的にあり得る気がした。
「二人の婚約が成立すればいいのだけれど……でも、ラティーシャ様の気持ちを無視なんて出来ないものね」
つまり、アディントン伯爵が犯人だと仮定した場合の王太子暗殺を阻止するには、二人が無事に婚約成立すればいい。
しかし、ラティーシャを思えばそれも素直に喜べない。出来ることなら不安要素は全て潰しておきたいのだが、どうしたものかとレセリカは難しい顔になる。
「えっ、レセリカはそれでいいのかよ。ピンクのお嬢サマは王太子を狙ってんだろ? お前が一言、自分の婚約者に手を出すなって言えば丸く収まるんじゃねーのか?」
「いいえ。ラティーシャ様は王太子妃になりたいわけではなくて、側妃でもいいから殿下と共にいたいと望んでいるのでしょう? 私に止める理由はないもの」
貴族とはいえ、好きになった相手がいて共にいられる環境があるのなら出来る限り叶えてもらいたい。好きでもない相手に嫁ぐというのはよくある話だが、他に想い人がいる上でのそれはかなり苦痛だと思うからだ。
そういった純粋な思いやりの心でレセリカはそう言ったのだが、ヒューイとダリアはかなり複雑な表情でレセリカを見つめていた。
「……それ、王子サマには言わねーほうがいいぞ。絶対」
「私もその意見には同意いたしますね。ウィンジェイドと同意見なのは些か不快ですが」
「だから一言多いんだよ、この侍女はっ」
フロックハート家のお茶会で令嬢たちが同意を示していたように、婚約者には自分だけを見てほしいと思うのが一般的な考えのようだ。
レセリカとしては側妃の存在があっても構わないと思っているのだが、婚約者である自分の口から言うのはあまりよくないらしいことを二人の反応から察した。
ゆえに、素直にわかったわと短く告げたのだが、二人の従者が相変わらず複雑な表情を浮かべているのでレセリカは首を傾げることとなった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます