第70話 R
結局、私達を甘やかしたい大人たちは、私達が好きなことしたり、働けなくなってもなんだかんだと生活に困らないようにしてくれていると言うことだな。と、その日はマインと話した。
引っ越しの日の朝は、ラスバルさんと従者さんに見送られて2人と4匹で歩いて新居に向かう。
スフェルは、私とマインの間で飛び跳ねているし、イオルはマインの隣にピタッとくっついてゆっくりと歩いている。
キエクは、私を挟んだスフェルの反対側でやはりゆっくりと歩いていた。
ヒエラは、翼に赤い石の証を付けて覚えたての飛翔で付いてくる。
私達は、色が塗り替えられた玄関の扉の前で立ち止まって顔を見合わせる。
「今日からよろしくね。みんな」
私の声に、マインが笑顔で頷いて、4匹もわかっているよと言う様に短く鳴いた。
私は、ゆっくりと扉を開けて、みんなで中に入った。
これから、ここから、また新しい日々が始まる。
感慨に耽ったのも束の間で、荷物をほどいたり店の開店準備をしたりで、バタバタと忙しく時間が過ぎて行った。
私達が国からの要請を受けて森と鉱山の管理者となったことで、ボロスさんとマグリットさんの専属契約は見直された。
専属契約をしなくても、生活に心配がないほどのお給料が国から支払われるからとのことだった。
だから、専属ではなく、優先取引先として契約することにしたのだ。
私達は物を作ったら、店を構えて売るかボロスさんやマグリッドさんに買い取ってもらう、そして2人や他のお客さんの依頼を受けて物を作ると言うことになった。
未成年の間は、2人が保証人となり損益の確認や管理を手伝ってくれる。
成人するまでに商売を覚えて、成人後は商業組合に登録することで商売の幅が広がる様にと考えてくれていた。
だから、ここで薬や装飾品を売るためのお店を開く。
暫くは受注生産が主だろうけど、来てくれる人がいるといいな。
ばたばたと準備して昼過ぎになると、続々と引っ越し祝いを持って人が訪ねて来た。
いつもの大人3人組が、今日は5人組になっていた。
アグリさんとフォル爺さんが、なぜか3人と一緒に来てくれた。
「引っ越し祝いよ。正式なお引越しおめでとう」
マグリッドさんが、言葉と共に花束をくれる。
それを皮切りにみんなが色々なものをくれて、祝ってくれた。
お礼を言ってから、みんなで少しお茶をしてお喋りをした。
店の開店を3日のうちにはすると報告をすると、無理はしないようにと釘を刺して帰って行った。
マインと心配性の大人5人組だねと、笑ってから開店準備に勤しんだ。
あんなに一人で生きていけると思っていた私は、ここ1年ほどの間に一人では生きていけないことを知った。
スフェルに出会って、マインに出会って、イオルに出会って、ルフトゥに出会って、アグリさん、ラスバルさん、ボロスさん、マグリットさん、ウェントゥにアルコ、キエクが増えて、もうすぐヒエラも来る。
他にも、本当にたくさんの人たちに出会った。
森とガングリードを行き来する度に何かが起こって、誰かに助けられる。
ばぁさまが死んで、ずっと一人だと思っていた私だけ世界にたくさんに人が溢れている。
きっとこれからもこうして、楽しくて嬉しくて大変で幸せなことが待っているのかと思うと、少しソワソワする。
きっとこれが、幸せなんだなと思った。
マインも、幸せだと感じてくれていたらいいな。
魔女っ娘と鬼っ娘 あんとんぱんこ @anpontanko
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます