第6話 協力関係

 確かにそうだ。俺はいつの間にか、エレナを殺すことしか考えられなくなっていた。俺がエレナを確実に止める方法を考えないでどうする?


 たとえエレナが魔界での生活を選んだとしても、尊重すべきだ。幼馴染なら。


 だがもしエレナの分身に殺され、魔界で蘇生させられたらどうしようもない。エレナの人間界への侵攻を阻止できない。


「では、俺がエレナに殺されないよう、守って頂けませんか? 殺されたうえで魔界で蘇生させられたら、完全に手詰まりです」


「良いでしょう。それなら、私でも協力できます」


 その後、アヴァロンにより蓮の浮かぶ池と化したギルドは、浸水を理由に封鎖された。


 俺も自宅に戻り、明日再び現れるであろうエレナの分身への対策を練ることにした。


「私が寝ずに番をしましょう。現時点で、エレナ・メルセンヌに対抗できる人間は私くらいですから」


 確かに。というかアヴァロンは何者なのだろうか。いくら武術を極めた拳聖といえど、あそこまで人知を超越した技が使えるとも思えない。


「あの、寝なくて大丈夫なんですか?」


 俺はそんなことを訊いてしまう。


「大丈夫ですよ。私は魔界に潜ったことも何度かあるので」


 魔界の中層まで潜れば、人間界に戻るまで四、五日は寝られない。この人もまた勇者ジーグに並ぶ歴戦の冒険者なのだろう。


「かの勇者ジーグと、並び称して頂けるとは光栄ですね」


 アヴァロンは当たり前のように俺の心を読んできた。そういえばアヴァロンは、エレナの野望も見通していたな。


「あなた、他人の心が分かるのですか?」


「多少は。他心通といって、ある程度であれば他人の思考も読めます」


 隠し事はできないというわけか。


「ということは……」


「はい。あなたがエレナ・メルセンヌの誘いに乗ったふりをしてコキュートスへ行き、彼女と心中するつもりであることも、知っています」


 バレていたか。


「残念ながら、そんなお粗末な策が通用する相手ではないかと。私とて、魔界にて魔王配下の狡猾さには何度も苦しめられていますから」


 アヴァロンは無感情に窘める。


 それにしてもこの人、さっきから感情の類が全く感じられないな。肉体だけでなく、精神も鍛え上げられているのだろう。


 何にせよ、頼りがいのある人だ。

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