来訪者

 キースたちとルクナ公爵たちがくるのは午後の予定だった。王妃はその前にとユリア以外の妃たちを自分の部屋に呼んだ。

「皆様、いきなりお呼びしてすみません」

「いいえ、王妃様のお召しとあらばいつでも駆けつけますが、ユリア様はいらっしゃらないのですか?」

申し訳なさそうにする王妃にカリナが首を振る。ユリアがいないことを疑問に思うのは他の妃たちも同じで、3人は王妃の言葉を待った。

「ユリア様は体調を崩していらっしゃいます。今日のお茶会も欠席されます」

「まあ、それは心配ですわ」

「大丈夫なのですか?」

体調不良と聞いてイリーナとエリスが心配そうな顔をする。だが、カリナはハッとしたように口元を押さえた。

「王妃様、もしや、ユリア様は…」

「カリナ様は勘がいいですね。まだ確定ではありません。確定するには数ヵ月かかるそうです」

カリナの様子に苦笑しながら王妃がうなずく。そのやりとりでイリーナとエリスも察してパッと笑顔になった。

「まあっ!それは素晴らしいですわ!」

「こんなに喜ばしいことはありません!」

「まだどうなるかわかりませんが、このことは侍従や侍女たちにも内密に。ルクナ公爵様には話されるそうですが、キース様にも確定するまでは内密にするそうです」

王妃の言葉に妃たちは神妙な顔でうなずいた。侍従や侍女たちに内密なのは外部にこのことが漏れるのを防ぐため。キースに内密なのはキースの妻のほうが問題になるためだと理解できた。

「今日はティファラ様はいらっしゃらないのですよね?」

「ええ。キース様とお子様たちだけです」

イリーナが王妃に確認するとその答えに妃たちは安堵の息を吐き出した。

「あの方に知られたら何をされるかわかりませんものね」

「貴族たちもそうですわ。警戒するにこしたことはありません」

自分たちもユリアを守らねばと言う妃たちに王妃は安心したように微笑んだ。

「王妃様、ユリア様のところにお見舞いに行ってもかまいませんか?」

「そうですね。騒がしくならない程度ならかまわないと思います。わたくしもあとでお見舞いに行こうと思っていましたし」

「わかりました。王妃様、私たちを信じて話してくださってありがとうございます」

妃たちは王妃にそう言って深く一礼した。


 昼食の席にもユリアは姿を見せなかった。侍従や侍女たちには暑気あたりと言われていたため、ユリアには食べやすい食事が部屋に運ばれた。

 昼食の後、少ししてキースが息子たちと共に離宮にやってきた。

「兄上、王妃様、お妃様方、ごきげんよう」

「キース、よくきたな。子どもたちも」

「陛下、王妃様、お妃様方、こんにちは」

キースの子どもたちはそれぞれに挨拶をする。キースは出迎えの妃たちの中にユリアの姿がないことに気づいて首をかしげた。

「兄上、ユリア様はいらしていないのですか?」

「いや、ユリアは暑気あたりで体調を崩している」

「それは、大変ですね。医師には?」

「診せているから大丈夫だよ」

にこりと笑った王にキースは安心したように微笑んだ。

「ユリア様にお会いできるのを楽しみにしていたのですが、あとでお見舞いをしてもかまいませんか?」

残念そうに言ったのはカイルだった。視察で一緒だったカイルはユリアに弟たちを会わせるのを約束していたため楽しみにしていたのだ。

「ユリアの体調しだいだが、あとで聞いてみよう」

王はそう言うとカイルの頭を優しく撫でた。

「もうすぐ叔母上もおいでになる。そうしたらお茶会にしよう」

「楽しみですね」

キースはうなずくと子どもたちを連れて用意された部屋に向かった。


 ルクナ公爵がやってきたのはそれからすぐのことだった。公爵と共にシアンもやってきた。ふたりを出迎えた王は、王妃にシアンを案内するよう言って公爵を部屋に招いた。

「何事かありましたか?」

シアンには聞かせられない話かと尋ねる公爵に王は真剣な表情をした。

「ユリアが、妊娠したかもしれません」

「ユリア様が?それは喜ばしいことですが、まだ公表できる段階ではないのでしょう?」

公爵の問いに王は深くうなずいた。

「確定するには数ヵ月かかると。このことは王妃と妃たち、侍従長とユリア付きの侍女しか知りません」

「なるほど。お妃様たちなら問題ないでしょうが、実家のほうには知られないほうがいいでしょうね。ユリア様は体調を崩していらっしゃるのですか?」

「そうです。今日の茶会も欠席します。侍従や侍女たちには暑気あたりと言ってあります」

王の言葉に公爵は難しい顔をした。

「暑気あたりでいつまで通せるか。避暑を切り上げるか、ユリア様だけ先に城へ返すことも考えられては?」

「それでは不審に思う者が出てきます」

「ふむ。ではユリア様を実家に戻しては?例えば母君がご病気でその見舞い、とか。理由はいくらでも考えられますし、親衛隊には兄君もいらしたかと。兄君も共に帰せば信憑性は増しますから疑う者は少ないかと」

公爵の提案に王はなるほど、とうなずいた。

「ライルもユリアの兄のギルバートも信頼できますからね」

王は少し考えるとそばに控えていたヒギンズにライルを呼んでくるように言った。

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