次期国王候補

 王と王弟のお茶会から数日後、妃たちが全員王妃の部屋に呼ばれた。何事だろうとユリアが王妃の部屋を訪れると、そこには王の姿があった。

「すまないね。私の部屋に呼んでもよかったのだけど、こっちのほうが早いと思ってね」

王はそう言うと妃たちに座るように言った。

「リーシュから聞いているとは思うが、カイルに帝王学を学ばせるために登城させることになった。それには父親のキースが付き添う。部屋はキースが使っていた部屋をあてがうつもりだ。城内で見掛けることがあるかと思うが、気に掛けてやってくれ」

「承知いたしました」

妃たちがうなずいて頭を下げる。王はうなずくとリーシュに目を向けた。

「養子に迎えたらカイルは私とリーシュの子ということになる。リーシュ、カイルとうまく話せそうかい?」

「カイル様は聡明な方ですがまだ子ども。いくらわたくしでも子どもとはきちんと話せますわ」

にこりと笑ったリーシュに王はクスクス笑ってうなずいた。

「カイルの周りが騒がしくなるのはよくないからね。後宮内にも部屋は用意させる」

「あら、でしたらお茶会にもお呼びしやすいですわね」

王の言葉にイリーナが微笑む。他の妃たちもカイルには悪い印象がないため楽しそうに笑っていた。

「陛下、カイル様はいつから登城なさるのですか?」

「そうだな。キースときちんと話さなくてはならないが、10日後くらいからと考えているよ。ちなみに、家庭教師はジョエルだ」

「あら」

「まあ」

家庭教師の名前を聞いてリーシュとカリナが驚いた声をあげる。ユリアが不思議そうに首をかしげると、エリスが「ジョエル様はカリナ様のお兄様よ」と教えてくれた。

「ジョエルは王立大学で教鞭を取っているけれど、今回カイルの専属教師を頼んだんだ」

「よくお兄様が了承なさいましたね」

カリナが驚いたように言うと、王は苦笑しながら「苦労したよ」と言った。

「大学には席をおいたままという条件で受けてもらった。ジョエルはよほど貴族社会に戻りたくないんだね」

「ジョエルお兄様は少し変わっていますから。それに、家の跡継ぎには長兄がいるので、両親もジョエルお兄様については諦めているようですわ」

カリナの言葉に王妃がクスッと笑う。王は「優秀なのだけどね」と笑った。

「本当は文官として城で働かないかと言ったのだけどね。断られてしまった」

「仕方がありませんわ。あの方は己の利益のために動く人たちのことが理解できないと子どもの頃から話していらっしゃいましたもの」

「王妃様はジョエル様をご存知なのですか?」

王妃の言葉にユリアが尋ねると、王妃は微笑みながらうなずいた。

「カリナ様のお家とわたくしの家は交流がありますの。わたくしとジョエル様は年が近いこともあって子どもの頃から存じ上げておりますわ。陛下もジョエル様とは子どもの頃からのお付き合いですわよね?」

「ああ。子どもの頃から貴族たちのドロドロしたやりとりが気持ち悪いと言っていたね」

王の言葉にカリナが苦笑しながら困ったような顔をする。カリナにとってジョエルは優しい兄だが、昔から周りに馴染めないのはわかっていた。それでも王も王妃も兄と仲良くしてくれている。王に至っては玉座についてからもいくら貴族の出とはいえ、一介の教師である兄と手紙のやり取りをしているのをカリナは知っていた。

「そういうわけだから、もしかしらたジョエルも後宮内に来るかもしれない。許可は私が出すから、咎めたりしないように頼むよ」

「わかりました。王弟殿下も後宮内にいらっしゃることがあるのでしょうか?」

「そうだね。カイルに付き添うからほとんど一緒にいるだろう。後宮内も出入りすると思うよ」

エリスの問いに王が答えると、妃たちはそれにもうなずいていた。

「カイルが帝王学を学ぶということは、後継指名ととられるだろう。これから騒がしくなると思うが、よろしく頼むよ。何かあったときは遠慮なく言ってくれ」

王の言葉に王妃と妃たちはそれぞれ深くうなずいた。


 王妃の部屋を出たユリアが自室に戻ると、メイが何事かあったのかと尋ねてきた。

「陛下が王妃様のお部屋にお妃様たちを全員呼ばれたのは初めてです。何か深刻なお話でも?」

「そんなことではないわ。王弟殿下のご子息のカイル様がお勉強のために登城されることが決まったのだそうよ。後宮にもお部屋を用意するから、気に掛けてあげるようにと言われただけよ」

ユリアの言葉にメイは驚いたような顔をした。

「カイル様がお勉強のために登城ですか?では、ついに後継指名なさるのですか?」

メイの言葉に王が言っていたのはこれかとユリアは思った。

「メイ、違うわ。まだカイル様が次期国王と決まったわけではないわ。でも、帝王学というのは早いうちから学ぶものなのでしょう?カイル様が後継者となってもいいように、その準備をしておくというだけのことよ」

「あ、そうなのですか。確かに、帝王学は早いうちから学ぶのがいいと言いますものね」

ユリアの言葉にメイはハッとしようにうなずいた。

「ユリア様がお城に上がられたばかりですものね。ユリア様がお子さまを授かるかもしれませんし」

「メイ、そういうことをあまり外で言ってはダメよ?」

「はい、わかっております」

ため息をつきながら言うユリアにメイは何度もうなずいていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る