第17話 落雷と解かれた封印

 窓から外を眺め、アレクサンダーは溜め息をついた。

 雨は降り続き、屋内で育てたわずかな作物と家畜が食料の全てとなって久しい。それまでの食事を当たり前だと思っていたが、今ではその半分も並べるのが不可能だ。

「そう言えば、カレンドルは今日、開国記念日だったな。パーティーを開いているんだろうな。くそ」

 思わず呟いていると、乱暴にドアが開いて、ミリスが入って来た。

「アレク、あんな薄いスープはもうたくさんだわ!なんとかしてちょうだい!」

 それにアレクサンダーはうんざりとした表情を隠す事もせずに言った。

「それでもまだましだ。具が入っているし、パンもあるからな。

 はあ。イミアを手放したのは間違いだった」

 それを聞いてミリスはカッとなり、目を吊り上げてアレクに詰め寄った──以前ならな涙のひとつも浮かべて見上げて見せれば済んだのに、どうもアレクサンダーに通用しなくなったのだ。

「私達は皇帝と皇妃で、ほかの人とは違います!こんなの、おかしいわ!

 何でこうなったの。どうして。カミヨって何?本当にカミヨがこの国を呪ってるの?」

 アレクサンダーは唇を歪めるようにして嗤った。

「詳しくは知らんが、カミヨの者を国に縛り付けておく必要があったらしい。ならば、ちゃんとそう言っておいてくれれば、逃げられないようにしておいたものを」

 アレクはそう言って、脳裏に浮かんだ父である前皇帝に文句を言った。

 と、前触れもなく、雷が城のどこかに落ちた。

「キャアア!!」

 ミリスが叫んだのでアレクサンダーは叫び出すところだったのを辛うじて堪えた。

 そして、窓の外を見た。

「どこに落ちたんだ?まさか、豚を育てている区画じゃないだろうな」

 その呟きに、ミリスもハッと顔色を変えた。食事内容に満足はできないが、これ以上減るのは命に関わる。

「あ、そこ!」

 屋根が崩れている部分が見えた。

「ちょっと、あそこって」

「豚を増やす養豚場だぞ!?」

 アレクサンダーとミリスは、慌てて部屋を飛び出した。

 そこは養豚場にする前は、国の重要な祭祀を行う神聖な場所だった。皇帝と皇妃、カミヨの者、それだけしか入室できない場所で、アレクサンダーも前皇帝が死ぬまで入った事もなかった。

 前皇帝も前皇妃も亡くなり、カミヨの人間もこの国を出、誰もそこで何をしていたのかわかっていない。

 ガランとしていた祭祀場には豚がうろつきまわり、神を依り憑かせるための石舞台は、豚を殺して食用に解体する場所となっていた。

 雷はその血の染みた石舞台に落ち、石舞台が真っ二つに割れていた。

「凄いな、これは」

 その割れた石舞台から、威圧感のようなものをまとった何かを誰もが感じた。

 豚は騒ぎ、それを係員が宥めようと必死になっている。そして近衛兵は、皇帝と皇妃を守ろうとガードするようにアレクサンダーとミリスを囲む。

 石舞台の割れ目から黒いもやが立ち昇り、人の形を取る。

「何者だ!?」

 それはボコボコと体を波打たせるようにしながら、穴の開いた天井を見上げた。

「アア。ヤット封印ガ解ケタ」

 そして、アレクサンダーに気付いたように目を向け、ニヤリと嗤った。

「イイナ。憎イノカ。奪イタイノカ。

 力ガ、欲シイカ?」

 アレクサンダーはゴクリと唾を呑み込んだ。

 警戒する近衛兵の声も聞こえず、ミリスが怯えて縋り付くのにも気が付かないで、アレクサンダーはただ、その人型のそれを見つめた。



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