第29話 遠野と長門

何故こうなってしまったのか。

俺は額に手を添えずには居られない。

中島と鈴木が大喧嘩をした。


それも俺を巡って、だ。

俺は溜息しか出ず.....屋上で森本と鈴木に断ってから1人で飯を食っていた。

今日は1人が良いと言って、だ。

そうしていると遠野が屋上に1人でやって来た。

何しに来たんだこの馬鹿野郎は?


「さっきはすまなかったね」


「.....何がだ」


「雪子も悪気は無いんだ。そこら辺はご了承を願いたいね」


「別に何とも思ってない。.....そもそも俺が邪魔だと思っているしな」


「いや。それは無いね。君には釘を刺したけど.....でも君は無くてはならない存在である事は確かなんだ」


「.....」


遠野は俺の横に腰掛ける。

それから遠い目をする様な感じで空の彼方を見る。

俺はその姿を目線だけで見てから。

そのままご飯を食べる。


「君は知っているかな。この町の第三者委員会が会見行ったの。いじめ故に自殺した.....首藤ミチル君について」


「結構前の話だよな。知っているっちゃ知っているが。それがどうした」


「ミチルは僕の友人だ」


「.....何。そうなのか?」


ああ。そして高い所から飛び降りて自殺する場面に俺は遭遇した。

と答える遠野。

俺はビックリしながらその顔を見る。

遠野は苦笑しながら俺を見てからそのまま、また前を見る。

それから、だから僕はね。怖いんだよ。仲間割れがね、と言ってくる。

でも今日の喧嘩は想定外だったけどね、とも。


「あれを見て僕も何だか若干に心の変化があった。君という存在があっても悪い方には転ばないんじゃ無いかな、ってね」


「そいつはどうも。.....それでその事を話に来たのか」


「君はどうも僕とその部分だけ似ている気がするから」


「まあそうだな」


君も失ったんだろ。

友人を、と向いてくる遠野。

馬鹿かコイツは何処からその情報を仕入れたのだ。


思いながら遠野を見る。

遠野は、僕は結構情報通だからね、と笑みを浮かべる。

盛大な溜息が出た。


「君がそうやって孤独で居るのもそれが影響しているのか知らないけど。.....でももう確実に転換点には来ている。君も変わるべきだ」


「偉そうな口を叩きやがって。俺は俺だ。お前に左右される俺では無い」


「.....君は現に2人の女性から愛されているだろ?それで答えないなんて薄情とは思わないのかい君は」


「お前な。言っている事が支離滅裂だぞ。インシデントになるんだろ俺は」


「それとこれと話が変わってくる。君は確かにインシデントにもなり得るけど.....でも周りの環境を極端に破壊しなければ君は自由にやって良い」


「お前何様?大統領か何か?」


俺は苛ついた。

コイツ何様なの?、と思いながら。

第一コイツがこの様だから羽田とか悩んでいるんじゃ無いのか。

環境を最優先にしているから、だ。

すると遠野は、僕は大統領でもなんでもない。でもそう思ってしまったのなら謝るよ。誤解しないでくれ。.....言っても信じてはくれないだろうけどね、と言った。


「ミチルが死んでから。俺は全てが変わってしまった。俺の内部が改造されたみたいにね。だから僕は.....人じゃ無い事は自覚している。でもそれでも願いたい。仲間が死ぬのはもうゴメンなんだ」


「.....」


「だから僕は.....怖いんだ」


「ったくもう訳分からん。お前と話していると」


でもまあ多少は分かるけどな。

仲間が崩れるのは見たく無いってのは。

コイツは極端に全てを恐れているんだな。

俺は考えながら遠野を見る。


「雪子には言っておく。やり過ぎだって事をね」


「そうしてもらえれば助かる。あの番犬にな」


「そうだね。.....君は鈴木さんを何とかしてほしい。仲を取り持つのは暫く出来ないと思うけど。彼女の心理面が不安だ」


「仮にも仲が良いしな。どうにかするわ」


ふむふむ。有難うね、と言ってくる遠野は。

その場から立ち上がって、じゃあね、と去って行く。

俺はその姿を見送って外を見る。

そこに鈴木が立っていた。


「先輩」


「.....どうした」


「ご迷惑をお掛けしました」


「まあお前もお前だったな」


「はい。でも好きな人にあんな言葉を言うのは理解出来ません。行動も、です」


「確かにな。それは思う」


だって先輩を好きなんですから私は。

絶対に許せない行動です、と怒る鈴木。

俺はその姿を見ながら、そうだな、と答える。

でも怒っても仕方が無い。

わからず屋はそんな感じだから。


「鈴木」


「はい」


「弁当有難うな。美味しかった」


「.....全然関係無いですよ。この話と」


「良いから。俺はお前の笑った顔が好きなんだ」


今はどうあれ笑ってくれ、と俺は鈴木を見る。

鈴木は目をパチクリしながら赤面する。

意味が分からないです、と言いながら、だ。

その姿を見ながら俺は外を見る。

今怒っても中島。つまりアイツがマトモになるとは思えないんだ。だから過去は過去。今は今で分別してから。だから笑顔で居よう、と俺は提案する。


「.....先輩が言うなら」


「ああ。だからまあ落ち着いてな」


「はい」


そうしていると鈴木は、あ。先輩。唇にご飯粒が付いてます、と言ってきた。

俺は、あ?ああ。すまん、と言って取ろうとすると。

鈴木が唇を重ねてきた。

うぉ!?

俺は真っ赤になりながら鈴木を見る。


「えへへ。先輩。油断しましたね」


「お前は.....」


「相変わらずですから」


「.....」


心臓が痛いってもう。

俺は考えながら弁当箱を仕舞い。

それから立ち上がってからそのまま鈴木と共に屋上を後にした。

ああくそ。

最後に油断した。

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