第17話 羽田と羽田と呼ぶべき何か

「やはり君は君なりの居場所を見つけつつあるんだな」


「.....そういうもんじゃ無いけどな。どっから聞いたのかお前。っていうかそんなもんは良いけどお前の家は大丈夫なのか」


「.....俺の家は心配しなくて良い。.....見損なっているのは昔からだからな」


日曜日。

俺は羽田と一緒に居た。

近所の例の公園にであるが。


呼び出されたのだ。

全くこの野郎は朝から.....。

思いながら羽田を見る。

羽田は相変わらずの控えめの笑みで俺を見てくる。

そして羽田はこんな事を言ってきた。


「すまないな。君の動向は聞いていたんだ。鈴木さんから」


「.....そうなのか」


「何でも君は好かれているそうじゃないか。鈴木さんに」


「.....いやどっから仕入れたんだその情報は.....」


「俺は地獄耳だからな。決して聞いた訳じゃ無いんだが.....昔から人の話ばかり気言いているとこんな感じになってしまってね」


「まあそうだな.....鈴木は俺を好いている様だ」


そんな会話をしながら俺は缶コーヒーを煽る。

それから溜息を吐く。

羽田は清涼飲料水を飲みながら俺を見る。


君の居場所は特に気になっていた。

だから.....有難う。

そんな結果で嬉しいよ、と言ってくる。

何だコイツは。

俺の親父かっての。


「.....俺の居場所って何だ」


「.....君は何時も1人だったから。.....それが気になっていた」


「そうだな。いやてーか。1人で居たら悪いのかよ」


「.....決してそういう意味じゃない。.....だけどな。今の居場所じゃ君の才能は存分には発揮出来ないだろう。俺は陰ながらだが君の才能が活躍出来る場所を探してあげたかったんだ。お礼と思いながら。丁度良いじゃないか。その場所は」


「.....」


羽田がそんなお礼を考えているとはな。

思いながら羽田を見る。

俺を見ながら苦笑しつつ目の前を見る羽田。

それから、いつかその場所で発揮出来たら俺を助けてくれ、と言ってくる。

いや。嫌なんだが.....。


「何でお前を助けないといけないんだよ。嫌に決まっているだろ。ややこしいんだよ」


「.....そう言いながらも君は来てくれるじゃないか。俺の元に」


「.....まあな.....」


自分自身でもよく分からんしな。

何だか自分自身がよく分からないんだわ、と告げてみる。

すると羽田は、安心してくれ。俺もよく分からずに動く事はある、と言ってくる。


俺は見開きながら羽田を見る。

羽田は目の前を.....見ているが。

その目は死んだ目をしていた。


「そもそもまだ自分自身が何者かも分からないしな。俺は。羽田という生き物なのか羽田以外の何かなのか」


「.....そりゃまた大きなこったな。意味が分からん」


「.....君には無いかな。2人の自分で会話する事は」


「あるっちゃあるが。でも最低限、何者かは自覚しているつもりだよ」


「.....そうか。俺は全てが分からない。実は.....今でもずっと人の顔にばつ印しか見えないんだ」


というよりも。

俺は才能を認められる為に人の顔を伺いまくっているせいで顔立ちがよく分からないんだな、と言いながらペットボトルを握る。

それでばつ印って事か。

俺は考えて納得しながら羽田を見る。


「君は幸せだ。.....まだな。.....俺は.....かなり不幸だと思う。性格が」


「.....お前は不幸じゃねーよ。.....まだお前には沢山の仲間が居るだろ」


「.....ばつ印が顔にしか見えない俺は.....もしかしたら仲間も仲間と思って無いかもしれないから不安だ」


「.....そうか」


「人の顔ばかり見て生きるのは情けないと思っているんだがな。.....だけど.....もうこれしか出来ないんだ。俺は」


だから君はまだ不幸じゃ無いのさ、と言ってくる羽田。

顔色ばかり見ている俺とは違ってな、とも。

俺は盛大に溜息を吐く。

それから羽田から目を逸らす。

ったく。これじゃどっちが卑屈なんだか。


「羽田」


「.....何かな」


「.....お前は少なくとも大きな存在だ。.....人の顔がばつ印にしか見えなくても.....きっとお前を待っている人は居る。それだけで十分だと思わないか」


「確かにな。.....それはその通りだ」


「俺としてはお前のそのばつ印の事を剥がすのは無理だが。.....だけど.....一つだけ言いたい事がある。人の顔なんぞ見ても楽しくねぇ。汚いだけだ」


「.....君は相変わらずぶっ飛んでいるな。ハハハ」


いや。

事実を言っているだけだけどな。

思いながら俺は清涼飲料水を飲んでいる羽田を見る。

人の顔なんぞ見ても成績なんて良くなるか?、と聞いてみる。

すると、それは分からない、と羽田は答えた。


「だけどな。怖いんだ俺は。.....成績も評価も全てが落ちるのが」


「.....先ずは人の顔を見るのを止めろ。羽田」


「.....それはつまり.....人の顔を見ずに生きるのか俺は」


「違う。別視点で見ろって言ってんだよ。.....人の顔じゃない。心を見ろ」


見開く羽田。

それから俯く。

君は.....本当にボッチだから力を付けているね、と言ってくる。


いや舐めてんのかコラ。

思っていたが羽田は、皮肉じゃない、と言ってくる。

これは.....尊敬だ、とも。


「.....君が俺の代わりに親父の息子なら.....上手くこなしただろうな」


「.....立場が逆だったら大変なので嫌です」


「ははっ。そうか」


そんな感じで苦笑しながら言葉を発する羽田。

俺はその姿を見ながら笑みを浮かべる。

全くどうしようもないリア充だ。

だけどまあ.....少しだけイメージが変わる。

そんな感じの空からの日差しだった。


「.....ところで佐藤さんの部活はどういう部活なんだい」


「.....さあな。よく分からない。.....だけど楽しく過ごすさ」


「それが一番だな。.....何か面白そうだな。頑張れ」


「.....おう」


そして俺達は暫く会話して。

そのまま別れて俺は約束していた聖羅と一緒に買い物に出る。

それから.....商店街にやって来た。

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