第95話 お父さん! 妹を嫁にください!
僕達はプロイセン王国の首都の屋敷を後にして、故郷の村へ向かった。目的は二つ、僕の幼馴染フィーネの事を調査する事と妹のロッテを嫁にもらう事をお父さんに許してもらうためだ。
いや、皇帝や国王陛下の前で婚約したから、お父さんがなんと言っても変わらないんだけど、妹のロッテがきちんとしようと言い出して、お父さんに正式にロッテを嫁にもらう事を許可してもらう事になった。もちろん、僕はかなり困った…お父さんは一体なんて言うだろう? お父さんは妹の事を目に入れても痛くない位可愛がっていたから、嫌な想像しかできない。
…事前に速達を送って、両親と会う約束をする。わざわざ…
それは誰でも嫁とりをする男性ならドキドキしてしまうイベントだろう。だけど、僕のは少しハードルが高かった。だってロッテは一緒に育った妹なのだ。そして、結婚の許可をもらうのは僕のお父さんなんだ。そうなのである、僕は実の妹(と信じていた)との結婚を実のお父さん(と信じていた)から許しをもらいに行くんだ。カオスの香りしかしないだろ? 僕がソワソワするのも、まあ無理はないよね?
…は、はは、だから、僕がお父さんの前で向かいあっている訳だけどね、じ、じ、自分でも驚くくらいお、お、おおお落ち着いていたんだ。だ、だ、だって、お父さんとは仲がいい訳だし、僕はお父さんから、お前はいい男になると太鼓判を押された位だし。お、お、おこずかいを無駄遣いした事なかったし、中学校の成績、ずっとオールAだったし。
「えっと? 何なんだ? アル 突然改まって?」
「いや、僕、ちゃんとした方がいいと思って」
「うん? 何をちゃんとするんだ?」
僕はお父さんを見つめた。誰もが一度は経験する一斉一大の人生のイベント! 僕は普通の人よりたくさんやらないといけないけど、一番ハードルが高いヤツを真っ先に行うハメになっているけど、僕、頑張る!
親父は暖かい目で僕を見つめる。勇者パーティのリーダーとなり、魔王を倒した英雄…お父さんだって、鼻が高い筈だ。お父さんの目はおごりなんかじゃなくて、何かを期待している目。そんな目見ないで、これから僕が言う事は普通だと、社会的に死んじゃうヤツなんだ。でも、そこを必死でこらえた。
「お父さん! 妹のシャルロッテをお嫁にください」
「……」
「……」
「お父さん、お母さん、私達、愛し合ってるのぉ!」
ロッテが僕の腕に縋りついて来て、僕は冷や汗がダラダラと流れるのを感じた。急速に空気の温度が下がる。まるでシベリアのマイナス30度の世界になったような気がする。そうだよね? 兄が妹を嫁にくれって言い出したら、そういう反応になるよね!
「ゆ、ゆるさー( ,,`・ω・´)ンンン?」
「ちょっと、あなた、そんな頭ごなしなんて!」
「しかし、アルが妹のロッテを嫁にくれだなんて、おかしな事を言い出したぞ!」
すいません。確かにおかしな事言っています。でも、血は繋がっていないよね?
「あなただって、その…妹として育った私と結婚したじゃないですか?」
「お、俺のは純愛なんだ! 俺にはお前しかいないんだ! だけど、アルには8人も婚約者がいるんだろう?」
そっち? お父さん? 妹の方がヤバいと僕は思うよ。ついでにお父さんもヤバいよ。
「でも、アルとロッテは私達同様血は繋がっていないのよ。ここは二人の意思を尊重しないとだめよ」
「いや、許さん! というより、ロ、ロッテは俺のモノだぁ! 誰にも嫁になんてやらない! ずっと、俺の元にいればいいんだぁ! むしろ、俺がロッテと結婚したいぃ!!」
お父さん? 何を言い出したの? まさか、実の娘と結婚したいって言う、妹と結婚するよりヤバい妄想を抱いているのかな?
「あなた? 今、なんておっしゃったのかしら? 聞き捨てならないわね!」
「い、いや、俺はお前一筋だけど、ロッテは特別で、一生この家にいて欲しくて、できれば結婚できたらいいなって、思っているだけなんだぁ!」
ごチン。
凄い、大きな音がして、お母さんが何処から出してきたのか、大きな冷凍の骨付き肉でお父さんを殴った。
「い、痛ぇぇー」
「アル、お母さんに任せて、良く言い聞かせてくるから」
そういうと、お母さんはお父さんをずるずると引きづって、隣の部屋に引きずりこんだ。
「あなたぁぁ! わたしという者がいながら、ロッテに心を奪われていたのねぇ!」
「ち、違うぅ! 俺はただ、ロッテが可愛くて、可愛くてぇ、誰にも渡したくないだけだぁ!」
「駄目でしょう! ロッテの幸せを考えたら、そんな訳にはいかないでしょう?」
「だから、場合によっては、俺がロッテと結婚して、幸せにしてやるからぁ!」
「実の娘に何を考えているんですかぁ! この変態ぃ! 今すぐ、矯正してあげます!」
ボコボコ、ドカン、ドカン、ガツン、ガツン
凄い音が聞こえてきた。
「やだぁ、お父さんヤバぃ それにキモい」
「でも、お母さんが良く言い聞かせてくれるから」
ロッテは僕の腕に腕を絡ませたまま、笑顔だ。僕やお父さんの気持ちなんて全然考えていないな。
しばらく、激しい打撃音が聞こえていたけど、お父さんの謝る声が聞こえてきて、どうやら、お母さんの説得(折檻)が終わったようだ。
「……ひっく、娘を…ロッテを、宜しく、頼む…俺のロッテがどこの馬の骨ともわからん奴にぃ!」
いや、僕を育てたのお父さんでしょ? 僕、何処の馬の骨ともわからん奴じゃないよね? むしろ、お父さんが育てたんだから、間違いない筈でしょ?
「アルもロッテも幸せになるのよ。少し、周りから白い目で見られるかもしれないけど…大丈夫よ、むしろ燃えるシチュエーションよ! お母さん、背徳感で凄く燃えたもの!」
お母さんもお父さんと同じでアウトな人だ…
「大丈夫よ、お母さん! ロッテはお兄ちゃんと幸せになります。どんなに白い目で見られても、大丈夫! むしろ、一緒に地獄に堕ちよぉ! ていつも言っているのぉ!」
「そうねぇ、いい言葉ねぇ、一緒に地獄に堕ちよぉ、いい響きだわ」
駄目だ、この親子、確かに遺伝子がしっかり受け継がれている。背徳感を逆に楽しんでいるヤバい人達だ。僕の家族なんだけど…
しばらくして、両親と普通の家族の会話に戻ったけど、確かに僕達はちょっと変わった境遇のカップルになるだろうな。お父さんとお母さんから兄妹結婚の苦労話を初めて聞いた。
親戚とか、周りの村の人から、やはり変な目で見られる。例え血が繋がっていなくても、一緒に育ったんだ。当然周りがざわざわする。お父さんとお母さんもそれで故郷の村からこの村に引っ越したらしい。親戚の付き合いはほとんどないし、理由は初めて知った。
お父さんは僕が本当の子供じゃない事を告げてくれた。だから、結婚は許すと、そして、僕はこの村の川の畔に捨てられていた捨て子だった事を教えてくれた。
僕の本当の親はわからないそうだ。ただ、僕が捨てられていたゆりかごの中に、サタンとミカエルの子、アルベルトとだけ書かれた手紙が添えられていたそうだ。
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