第65話 魔王軍戦の始まり
その日、大空に暗雲が立ち込め、空が割れた。空に開いた巨大な大穴からたくさんの魔物、魔族が現れ、帝国主力勇者パーティ群と帝国第一師団を電撃作戦で蹂躙し始めた。
帝国勇者パーティ群が戦端を開くものの、わずか一日で敗北、戦線が壊滅し、軍として機能しているのは後方の補給部隊のみ。
帝国軍は敗走した兵を再編すると、新たに第三師団を投入、勇者パーティは他国からの増援を借りた。ここに人類は持てる戦力を全て集結した。だが、人類の最期の戦力をもってしても、それ程長くは持たないだろう。
僕達の知人であるミュラー騎士団長達の守護する街ローテンブルク。この街は帝都へ続く道の最後の砦。彼はその最終防衛ラインの戦線崩壊の危機に直面していた。
「フランクとプロイセンの合同勇者パーティの皆さん!! お願いします!!」
馬車で補給の拠点で待っていたのは、アルザス王国の騎士二人だった。僕らは騎士団長ミュラーを救助すべく、アルザス最大の魔法使いによりローテンブルクへ転移の魔法で突然転移させられる事になった。それに騎士も続く。
補給拠点で見たものはたくさんの人が逃げ惑う姿だった。
「この事態は一体、どうしたのですか?」
「前線の帝国勇者パーティ群も主力の第一師団も全滅しました。これは帝都へ向かう避難民です。勇者様お願いです。助けて下さい! このままでは人類が滅亡してしまう!」
「勇者様! 私は敬愛するミュラー騎士団長を救助に向かいます。共に来ていただけるか? それとも帝都へ向かい、人類最後の戦いに備えられますか? 今すぐ決めて下さい!」
突然の魔王軍戦線の崩壊、そしてアルザスの名も無い騎士が究極の選択と即答を求める。しかし、ミュラー騎士団長が危険ならば考えるまでもない!
「みな、ミュラー騎士団長を救いに行くよ。いいかな?」
「うん、お兄ちゃん」
「駄犬はそんな事は聞くまでもないわ」
「ヒルデは勇者です。撤退などという言葉は知りません」
「てへ☆先輩に何処までもついていきます」
「ナーガはいつも主様と一緒です」
うんと頷くと、僕は宣言した。
「フランク=プロイセン勇者パーティはミュラー騎士団長を助けに行きます!」
「あ! ありがとうございます!」
「ご武運を!!」
僕達は光輝く魔法の光に包まれてローテンブルクへ向かった。
「げふっ!?」
転移の魔法陣が完成すると、術者の魔法使いが血を吐いて倒れた。彼は命を対価に転移の魔法陣を描いたのだろう。
ローテンブルクの街はあちこちで火の手が上がり、全てが破壊尽くされ、中央の軍の施設以外、ほとんど壊滅していた。
この街を守る騎士も、兵士も、冒険者も一部が抵抗するだけでほぼ全滅している。
「え、援軍なのか?」
一人の戦士が話かけてきた。視線を彼に移すと、彼の身体は腹を裂かれ内臓が飛び出したまま、武器である筈の剣を杖替わりに立ち上がった。
「今、治癒します! ギガヒール!」
僕は急いで通常最大規模の治癒魔法ギガヒールを唱えた。だが、彼は首を振った。
「そんな魔法が使えるのなら、俺では無く、もっと強いヤツに使ってくれ、俺はどうせ大して役にたたん」
戦士は治癒を断った。完全治癒するには、後3回はギガヒールが必要だ。
「アル……先を急ぎましょう! 今は前線に早く到着する事が一番大事!」
「でも、ヒルデ? 今ならこの人を助ける事が!?」
「…戦いの時には心を氷の様に非情にしなければならない時があります」
ヒルデは勇者だった。彼女は歯を食いしばり、目には涙を湛えていた。この人を救ったとしても、途中で同じような人が何人いるだろうか? その間にミュラーさん達は…。
「そのお嬢ちゃんの言う通りだ…ぜ…救援が…来てよかっ…」
それからその戦士が話すことはなかった。戦士は安堵の表情を浮かべると崩れ落ちた。
僕は目に涙を浮かべ一緒に転移してきた名もない騎士に怒鳴った。
「騎士さん、お願いします! 僕達をこの街の最前線に連れて行って下さい!」
「最前線はあの街の中央の施設です。でも、私は……すいませんここまでです……」
「え? どうして?」
名も無い騎士はそう言って、倒れた。腹からは血がにじんでいた。この騎士はこの街の戦士の生き残り、援軍を呼ぶために…既に致命傷を受けているにも関わらず、治療も受けずに。
「騎士さん!? 今、治癒魔法を! 何で早く言ってくれないの!」
「ほおっておいてくれ……」
「ええっ?」
「私では戦力にならない……たくさん死んだ…隊長も…先輩も…後輩も…」
「だったら生きてみなの代わりにアルザスまで帰還してください! 生きるのです!」
「私には妻も子供もいない。ミュラー騎士団長には奥さんやお子さんが…私の事は捨て置いてくれ……悲しむものなどいない……頼む、この世界を救って……く…れ」
騎士さんは冷たい骸へと変わり果てた。
「騎士さん!? そんな……魔王軍との戦いが……こんなに悲壮なものだったなんて!」
「アル、違うわ。これは何か特別な事が起きている。いくらなんでもこんな事はない」
僕は悲しみにくれたが、そんな気持ちでいる場合じゃない。気持ちをリセットした。
「みな、街の中央へ…ミュラー騎士団長を助けに行くよ!!」
みな黙って頷く。その顔には決意がみなぎる。
僕達は街の中央の軍の施設に向かって、戦鬼のごとく、魔物達を蹴散らしながら進んだ。
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